「      っ・・・」

  握った拳が、何かを掴んだ気がして       眩しい光を見た気がした。


  !!!】

  「え・・・・・・?」
  聴こえるはずのない声を聴いた気がした。


  !!! 聴こえてるか?!】

  「・・・・・・ラッセ?」
  まさか、そんなはずはない。
  通信機はELSに呑み込まれて使えないはずだ。
  それに、自分は自爆スイッチを押したはずで       混乱するに、ラッセが安堵の息を吐く。

  【よかった・・・間に合ったか・・・・・・】

  「え・・・? 何が、どうなって      


  「ったく・・・生き残ったんだよ、お前は」

  「えっ・・・!?」
  聴こえた声に驚愕するよりも先に、目の前にバキッと穴が明いた。

  「戦いは終ったってことだ、レジーナ」

  「兄貴・・・・・・?」
  「よぉ! 無事で何より」

  ベリッとブレイヴのコックピット部分の外壁が剥された。
  そこに、ワークローダーを操るカイウス・がいた。


  「何で、兄貴が、宇宙に・・・・・・?」
  「そんなことはどうでもいいだろ? わざわざ回収に来てやったってのに・・・」
  「え・・・回収って・・・? え、ちょっと待って・・・ELSは?! それに、アタシ自爆スイッチを・・・・・・」
  カイウスが苦笑した。
  「おいおい・・・こんだけELSに侵食されちまってたら、自爆スイッチが作動するわけねぇだろう?」

  言われて、改めて見回せば       確かにカイウスの言う通りだ。
  ELSに侵食されていない場所を探す方が困難だ。


  「そうだ・・・!! 戦いは? 終ったって、ELSは      
  「見えるか? あれが、ELSの回答らしいぜ・・・」
  「・・・?!! あれって・・・・・・」

  月の隣、巨大な花が咲いていた。
  見覚えがある。
  あの花は      .


  【刹那だ】


  満足そうなラッセの声が響いた。

  【刹那のやつ、ELSとの対話を成し遂げやがった・・・!!】

  も、宇宙に咲いた花を見上げた。
  かつて自分の手元にもあった、平和の願いが込められた花       刹那も、も、ラッセも、それぞれが願いと希望を見出した花      .

  「・・・刹那が、ダブルオークアンタが・・・・・・成功したんだ、クアンタムバースト・・・・・・・・あれっ?!」
  「どうした?」
  「・・・・・・・・・どうしよう・・・」
  突然、何かを彼方此方確かめていたが、泣きそうな声で呟いた。

  「どうしよう・・・治っちゃった、かも・・・・・・」
  「?」

  「・・・だって、変だ・・・・・・もう、薬だって切れてるはずなのに・・・・・・」
  【!?】

  「・・・・・・ELSに侵食されたはずなのに、それも・・・・・・」
  「・・・よかったじゃねぇか」

  「・・・・・・嘘・・・こんなに体が楽だなんて・・・まるで発症する前みたい・・・・・・」
  ・・・!!!】

  「・・・・・・どうしよう・・・・・・」
  ヘルメット越しに、は口を覆った。

  「・・・どうしよう・・・・・・奇跡なんて、信じてなかったのに・・・・・・!!」

  そのまま体を丸めて肩を震わすに、カイウスが優しく微笑んだ。


  「至近距離で高濃度の粒子を浴びたんだ・・・奇跡だって何だって起こるさ・・・・・・
   ま、本当に治ったかどうか、一度ちゃんと検査した方がいいと思うがな」

  カイウスの言葉に、が濡れた顔を上げた。
  「え・・・でもアタシ、トレミーに・・・」
  「駄目だ! 諦めろ。諦めて、一度俺と地上へ戻れ」
  「嫌っ!! トレミーの皆に謝らないと・・・」
  「今更急ぐ必要ねぇだろ? 一度地球へ降りろ」
  「嫌だっ!! それに、アタシ決めたんだからっ!!」
  「何を?」
  「ラッセと一緒に生きるって!」
  【!!】
  「もう絶対、離れないって!!」
  決意を込めた目で訴えるに、カイウスが溜息を吐いた。
  「・・・・・・そうは言ってもなぁ」
  改めて、の乗るブレイヴを眺めて、肩を竦める。
  「これ、もう動かねぇぜ? 言っとくが、俺がお前を送る、ってのも無しな」
  「だけど・・・・・・」

  
  尚も意思を通そうとするに、ラッセが口を挟んだ。
  【お兄さんの言う通りだ。一度、ちゃんと検査した方がいい】
  「でも・・・・・・」

  【迎に行く】

  はっきりとラッセが言った。

  【俺がお前を迎に行く。だから、大丈夫だ】
  「ラッセ・・・」

  【言ったろ? 俺はお前と一緒に生きるって決めたって】
  「・・・!」

  、もう一度、俺にチャンスをくれ       愛してる】
  「ラッセ・・・」

  【やり直したいんだ・・・も同じ想いなのなら      
  「愛してる。愛してる、ラッセ・・・!!
   許しを請うのはアタシの方だよ       お願い。また、アタシを信じて」

  【ああ、信じるさ! 俺だって、お前に酷い言葉を・・・】
  「それは! それは、アタシが最初にラッセを裏切ったから・・・」

  【そんな言い訳出来るかよ! 謝らせてくれ、・・・】
  「そんな! 何も言わずにトレミーを降りたアタシが      


  「      盛り上がってるところ悪ぃんだが、再会してからゆっくりやってくれねぇ?」

  「!!!」
  呆れたように苦笑するカイウスの言葉に、が顔を真っ赤に染めた。
  カイウスがいたことを、すっかり忘れていた。

  「・・・ごめん、兄貴・・・」
  真っ赤になって小さく呟くに、カイウスは肩を竦めた。


  「いや、別にいいけど。いつまで続くのかな〜って、気になっただけ。このワークローダーも借り物だしな〜って」
  「・・・・・・スミマセン・・・」
  さらに小さくなったに、カイウスがニヤリと笑った。


  「いや、別に俺は構わないんだけど、いいのかな〜って       これ、有視界通信だけど」

        って!!? ・・・・・・えぇっ!!!!!!?」
  の顔が真っ青になった。

  今更気がついた。
  混乱していて、こんな大事なことに気付いていなかった。
  ブレイヴの通信機器はELSに呑まれて使用不能だ。
  トレミーからの専用回線は開かない。
  が、実際今ここに、トレミーからの通信が繋がっている       カイウスが乗るワークローダーへと。
  誰もが聴ける一般回線で、恥ずかしい台詞を溢れるほど口にしていた事実に、の顔色が青から赤へと変化する。

  「・・・最初に言ってよ、ラッセ・・・・・・」
  【すまん。それどころじゃなくてな】

  開き直っているのか、苦笑いを浮かべるラッセに、は顔を膝に埋めて呻いた。
  正直、恥ずかしすぎる。



  「そろそろ切るぞ。逆探知されると面倒だろ?」
  言葉を失ったの代わりに、カイウスがラッセに声をかける。
  【ああ・・・・・・ありがとう】
  「ん?」
  を、彼女を見つけてくれて】
  「当然だ。俺の大事な妹だからな      
  言って、ふっとカイウスは表情を崩した。

  「      だが、こっから先は、お前に譲ってやるよ」
  【・・・引き受けた】
  「頼むぜ・・・・・・・・・あぁ、それと      
  カイウスがニヤリと笑った。

  「預かってた息子も、返してやるよ」

  【?!!!】
  「! あ・・・・・・」
  気まずそうに肩を跳ねさせたを、カイウスは呆れたように睨んだ。
  だと思っていたが、やはり、今の今までライアンの存在を頭からすっかり追い出していたらしい。

  【息子・・・っ?!!】
  【わぁ〜い!!! 男の子なんですね!!!!!!】
  【えぇぇぇ〜?!! さんと、ラッセさんの・・・?!!】
  【ちょっと?!! 聞いてないわよ、!!!?】
  今までのやりとりに、聞き耳をたてていたのか、急に回線の向こうが煩くなった。

  【息子って       おい、?!】
  「・・・・・・あぁ、もぅ・・・ごめんなさぃ・・・・・」
  頭を抱えるに構わず、カイウスは唇を吊り上げた。

  「ビビッて逃げんなよ?」
  【誰が逃げるたりなんかっ!】
  「それと、俺に一発殴られる覚悟はして来いよ?! サシで会えるのを楽しみに待ってるぜ」

  まだ騒がしい通信を一方的に切って、そのときのことを考えて、楽しげに笑い声を上げたのだった。











あなたの優しさに何度救われたことか











  「地上へ戻るぞ」

  未だに気まずそうなに向かって、カイウスは腕を伸ばした。

  自分の兄としての役目ももうすぐ終るだろう。
  何だか寂しい気もするが、彼女が幸せになるために選んだ道なら、それを阻む理由はない。
  もちろん、ラッセ・アイオンとかいう男を殴る一発を、手加減してやるつもりは毛頭なかったが。

  「・・・・・・・・・ありがと、兄貴」

  カイウスの腕を取りながら、が小さく呟いた。


  「・・・なぁ・・・・・・」

  カイウスは、の顔を見つめた。
  幼い頃から変わらない、相変わらず綺麗なアメジスト色の瞳だと、そう思った。


  「レジーナ・・・生きてて嬉しいか? 生きたいと思ってるか?」

  カイウスの質問に、不思議そうに瞬きをして、彼女はふんわりと微笑んだ。


  「生きたい       今は心から、そう思ってる」


  その答えに、カイウスも頬を緩めた。

  今までの全てが、報われたような気がした。


  巨大な花に反射する太陽光に目を細めて、カイウスは穏やかに微笑んで呟いた。


  「ったく・・・・・・神様に感謝の言葉を言っちまいそうだぜ・・・・・・」








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     serenade / 分かれ道まで歩こう より 「あなたの優しさに何度救われたことか」

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