「さんのこと心配ですぅ・・・・・・様子、見に行きたいです」
  作業の手を止めて、そう発言するミレイナに、フェルトは苦笑を浮かべた。
  「大丈夫よ。ちょっと休むっていうだけなんだから・・・そうなんですよね?」
  そう言って同意を求めれば、「ああ」という素っ気無い返事が返ってきた。その言い方に、フェルトは笑みを浮かべる。
  「でも、心配です。ん〜」
  そう言って、ミレイナが頬を膨らませた。

  先ほどからもらったチョコレートがよほどお気に召したのか、ミレイナはすっかりに友好的だ。
  今もブリッジへ姿を見せないの様子を見に行こうと主張している。

  「さん、最近ちょっと疲れ気味だったから休ませてあげなきゃ。ミレイナが行ったら、さん余計な気をつかっちゃうでしょ?」
  「ツマンナイです。ぷ〜」
  膨れっ面で再び作業を始めるミレイナに苦笑して、フェルトは、ちらりとラッセの背中に目をやった。

  ラッセの背中を押しての後を追わせたものの、気になって仕方なかったのが事実だ。
  ミレイナはすぐに戻ってきたが、とラッセはなかなか戻ってこず、フェルトは内心かなり、そわそわしていた。
  今のミレイナではないが、何度も様子を見に行こうかと思った。
  だから、大分経ってからラッセが一人で戻ってきたときには、思わず掴みかかって問い詰めそうになった。

  だけど、戻ってきたラッセの表情を見て、止めた。
  (      もし、失敗したのなら、あんなに穏やかなはずがない)
  ラッセの纏う気配に、そう感じたから、
  「は・・・ちょっと体調が優れないから部屋で休むとさ・・・大したことないから心配するな」と言うラッセの言葉も素直に信用した。


  「・・・・・・・・・なんだよ、フェルト、さっきから・・・?」
  ちらりと視線をやったつもりだったが、どうやらラッセの背中を見つめながら笑いを浮かべてしまっていたらしい。
  フェルトは慌てて表情を引き締めようとした。が、止めた。
  どこか気まずそうにフェルトを振り返っているラッセに、とても珍しいものを見ている気分になっていた。

  「いえ・・・・・・ただ、良かったなって思って」
  「な!? 何のことだ・・・俺は、別に・・・・・・」
  にっこりと笑ったフェルトの言葉に、何故か慌てるラッセを見ていて可笑しくなった。
  照れているのか、幾分赤くなっている顔に、ついつい声を上げて笑ってしまった。

  「・・・勝手にしろ・・・・・・・・・お? スメラギさんたちが、戻ってきたようだな」
  不貞腐れるという珍しい表情をしたラッセが、フェルトから視線を外した。
  「下部ハッチ、オープンです」

  「・・・・・・・・・出迎えに行ってくる」
  まだ笑っているフェルトから逃げるように、ラッセが席を立ってブリッジから出て行った。

  「アイオンさん、相変わらずよく分からないです。変わってるです」
  そう言って、ミレイナがフェルトの後ろで首を傾げた





















  「おかえり・・・他の連中はどうした?」
  帰還した面子を見て、ラッセが訝しげに尋ねた。

  スメラギ、ティエリア、アレルヤ、ロックオン       トレミーを出立したときよりも明らかに減った人数を指摘すれば、スメラギが肩を竦めた。

  「刹那は、マリナ・イスマイールをアザディスタンへ送って行ったわ・・・刹那は、気になるんでしょうね」
  スメラギの返答で、輸送艇が戻ってきていないことに納得がいった。
  まさか、アザディスタンの皇女様を、狭いガンダムの中に押し込むわけにはいかないだろう。

  「あの沙慈・クロスロードってやつは、どうした?」
  「彼も、カタロンに保護をお願いしたわ。いつまでも、ここに置いておくわけにもいかないでしょう・・・・・・ねぇ、?」

  スメラギの言葉にラッセが焦って背後を振り返れば、いつの間にか扉に体を預けてが立っていた。

  「・・・・・・そうね。早く日常に戻した方がいいわね・・・」
  物憂げに答えるの目は、まだ腫れぼったい。
  鋭いやつなら、泣いていたとバレてしまいそうな状態だ。

  何故かラッセの方が、そんな状態のに、はらはらしてしまう。
  自分を見つめるラッセに、が、大丈夫、というように、ふんわりと微笑んだ。
  それだけで、心拍数が上昇してしまう。
  ラッセは努めて平静を装って、に頷き返した。


  「あ。そうそう、"女王"に、伝言があるんだった」

  横を通り過ぎようとしていたロックオンがの前で立ち止まった。
  目線だけで問うに、ロックオンが、にやりと笑みを浮かべる。

  「『君が約束を守っていてくれたことに感謝する』だと。カタロンの基地にいるクラウス・グラードから、あんたへだとよ」

  「      クラウス?!!」

  驚愕の表情を浮かべたに、ロックオンが楽しげに口笛を吹いた。
  「あんた、本当に知り合いだったのか? へぇ・・・こりゃぁ、驚きだ。
   あんた、本当にあの"女王"なんだな? 何だ、随分親しそうだが、昔の男      
  「ロックオン・ストラトス!!!」
  ティエリアの鋭い声が空気を切り裂いた。
  思わずロックオンも笑みを消す。

  「詮索は無用だ。それに、君はメンバーの情報をカタロン側に漏らしたのか? これは重大な問題だ!」
  踵を鳴らして詰め寄るティエリアに、ロックオンが焦って逃げようとする。

  「悪かったよ。まぁ、そう硬いこと言うなよ、な?」
  「ロックオン・ストラトス!!!」

  「      ありがと、ティエリア」
  慌てて逃げていくロックオンを追おうとしたティエリアを、が静かな声で制した。
  「しかし      
  「いいの。もう、いいの。いつかは、バレることなんだから」
  そう口にしたをじっと見つめていたティエリアが、ふぅと溜息を吐いた。
  「      あなたがそう言うのなら。しかし、あの男には強く言って聞かせる必要がある」
  そう言って顔を上げたティエリアが、ロックオンの後を追っていく。

  その背中を見送ったアレルヤが、そっとの傍へやってきた。
  「・・・・・・あまり無理はしないで下さい。さんは、笑ってる方が似合います」
  「ありがと、アレルヤ」
  一瞬驚いた顔をしてから、笑顔を見せたに、アレルヤも微笑を浮かべた。

  「・・・でも、良かったの、? ・・・あなたのことを知る人間が増えるのは危険よ?」
  スメラギの言葉に、は小さく頷いた。
  「ええ。それは分かってます・・・でも、今更知られたことを無かったことにはできませんから」
  「そうだけど・・・・・・唯一の救いは、クラウス・グラードが誠実な人間だってとこかしら? その彼に会ったけど、信用は出来そうな人物だったわよ」
  「そうですね。クラウスなら、そう簡単には話さないはずです」
  そう言って頷いたに、アレルヤが微笑んだ。
  「信用してるんですね、その人のこと」
  「ええ。彼のことは信用してるわ」
  答えて、も微笑んだ。








     >> #05−5








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