(・・・・・・・・・何だか、な・・・・・・・・・)
  スメラギと並んでブリッジへ向いながら、後ろをついてくるアレルヤとのことが       正確に言うなら、のことが       気になって仕方がなかった。

  途中で自室へ向うアレルヤと分かれて、3人でブリッジの近くまで来たところで、とうとうラッセは足を止めた。
  自然と止まることになったと、つられて足を止めたスメラギに挟まれて、ラッセは何も考えずに口を開いた。

  「あーっと・・・・・・スメラギさん、先に戻っててくれないか?」
  しばらくラッセの顔を見つめていたスメラギだったが、肩を竦めて踵を返した。
  「・・・分かったわ。先に戻ってるけど、作業の進行状況も聞きたいから、あまり遅くならないでね」
  そう言いながら去っていくスメラギの背中が完全に見えなくなってから、ラッセは背後を振り返った。
  自分を見つめる、まだ少々腫れぼったいアメジストの瞳に、居た堪れなさを感じながら、ラッセは言い訳がましく言葉を探した。

  「、何て言ったらいいか・・・・・・」
  静かにラッセを見つめる瞳を、決心を固めて見つめ返した。


  「      クラウスってやつは、その・・・・・・・・・昔の・・・男、なのか?」


  「・・・・・・は?」

  目を見開いたに、ラッセは歯切れ悪く言葉を紡ぐ。

  「だから、その・・・の、以前の、彼氏というか・・・その・・・・・・」

  言いながら、自分が情けなくなってきて、ラッセはとうとう視線を床に落とした。
  (・・・・・・俺は、何を言ってるんだ・・・・・・)

  自己嫌悪に囚われたラッセの耳に、くすくすと笑い声が届いた。
  顔を上げれば、が楽しげに声を上げて笑っていた。

  「もう・・・何を真剣な顔で言うのかと思ったら・・・・・・可笑しなこと言わないで」
  そう言いながらも、ずっと笑い続けているに、ラッセは憮然とした。

  「可笑しなわけあるかよ・・・・・・こっちは真剣に訊いてるんだからな?!」
  「ごめんごめん」
  そう言いながら、なおも笑い続けるにラッセは口を曲げた。
  「そんなに笑うことないだろう?」
  が目元に滲んだ涙を拭き取った。
  「だから、ごめんって。真剣な顔してるから、何かと思ったら・・・それが、昔の男か? って、笑うなって言う方が無理よ」
  そう言って、が一歩ラッセに近づいた。

  「クラウス・グラードは、アタシの命の恩人・・・・・・それも、アタシがまだお子様だった頃の話よ」
  そう言って、が優しく笑った。
  「ロックオンが口走ったような、昔の男、では決してないから・・・今アタシがここにいるのは、クラウスのおかげだけど」
  「そう、だったのか・・・・・・悪い、そんな恩人に俺は      
  嫉妬を       そう言いかけたラッセの唇に、の人差し指が触れた。
  言葉を遮ったが、切なげに微笑んだ。

  「・・・・・・ラッセが、あんまり真剣だったから、アタシてっきり、さっきの言葉を取り消したい、って言うのかと思った・・・・・・」
  「ば、馬鹿やろう       !!」

  さっきの言葉が何を指しているのかに気付いて、思わず声を張り上げたラッセの唇に、もう一度指で触れて遮って、が儚げに微笑んだ。

  「だから、お互い様・・・ね?」
  「・・・俺は      

  ラッセは、目の前のの体を抱きしめた。

  「      信じられないなら何度だって言ってやる       愛してる」
  「・・・・・・ラッセ・・・」

  目を伏せたの唇に、もう一度キスをした。





















  「王留美から緊急暗号通信。アロウズのMS隊がカタロンの施設に向っているそうです。どうしますか?」
  「救援に向うわ」
  フェルトの鋭い問いにそう答えて、スメラギはラッセへ視線を向けた。

  「トレミー、対衛星光学迷彩を張って、緊急浮上」
  スメラギの言葉に答えて、ラッセがシステムを起動させて操舵桿を握る。


  (・・・・・・いつの間に、そういう仲になったのかしら?)

  そんなことを考えている場合ではないのだが、スメラギは前席に座る二人の背中を見つめて考え込んだ。
  (・・・ラッセが、を気にしてるのは、なんとなく気付いてたけど・・・・・・)
  座席の上から覗く淡い金色の髪へ視線を移した。
  (正直、彼女が他人に興味持つ姿なんて・・・・・・あの頃は想像すら出来なかったのに・・・)
  スメラギが知っているは、冷酷で、冷たくて、どこかに感情を置いてきたようで、その容姿とあいまって人形めいてすらいた。

  (成長した、ってことなのかしら? ・・・・・・・・・そうよね、あれから確実に時間は流れてるんだから・・・)


  「・・・スメラギさん、トレミーで向かって間に合うかな?」
  スメラギの視線の先の金色が突然振り向いた。
  「・・・・・・そうね。ガンダムの発進準備を」
  「了解です!」
  ミレイナがはきはきと答えた。
  再び前へ視線を向けたが呟いた。

  「・・・間に合うといいけど・・・・・・」

  そんな言葉をが口にする日が訪れるほど、時間は流れたのだ。
  (・・・私も、そろそろ過去を許さなきゃいけないのね・・・・・・)

  「・・・・・・ええ、そうね。急ぎましょう」
  の言葉に答えて、スメラギも表情を引き締めた。
















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