「初めまして。アレルヤ・ハプティズムです」
「こちらこそ、初めまして。・です」
差し出した手を握って、その人は微笑んだ。
「これから、よろしくね」
「はい、こちらこそ」
お互いに微笑み合う。
「聞いてた通りの、優しい人ね」
綺麗なアメジスト色の瞳だと思った。
少し悲しげな紫陽花のようだと思った。
とても、この人に似合う色だと思った。
「・・・・・何を聞かれたのか、ちょっと気になるんですけど・・・」
「うん? いろいろと、ね」
そう言って、その人は悪戯っぽく微笑んだ。
淡い金色の髪が揺れた。
とても、綺麗に笑う人だと思った。
「・・・さんは、どうして、ソレスタルビーイングなんかにいるんですか?」
いつか尋ねてくるだろうと思っていた。
が、その一言を沙慈・クロスロードが口にするのは、まだ先だと思っていた。
はその顔に薄く笑みをのせた。
「戦争なんて、なくなった方がいいでしょ?」
「でも、ソレスタルビーイングは戦ってるじゃないですか・・・」
「そうね・・・・・・アタシが戦うのは、確かめたいから、かな・・・」
「・・・・・・何を、ですか?」
訝しげに眉を寄せた沙慈に、は微笑を浮かべた。
「アタシが生きてることは無駄じゃないって・・・・・・」
「・・・・・・・・・よく、分かりません」
「分からない方が、幸せかもしれないよ・・・・・・」
呟いて、はもう一度、沙慈に向って微笑を浮かべた。
「トレミーの進路をアザディスタンに向ける」
「刹那」
マリナ・イスマイールの望み通り、アザディスタンへ進路を取ると言った刹那を止めるように、ティエリアが呼びかけた。
しかし、刹那が一度決めたらそれを貫き通す性格なのは既に周知の事実だ。
刹那の言葉にイアンが頷いた。
「了解した、刹那」
「ブリッジに行く」
ラッセも了解の意を伝えて部屋を出て行こうとした。
その入り口の扉からミレイナが、ひょっこりと顔を出した。
「つかぬ事を訊くです。二人は恋人なのですか?」
「違う」
「違います」
突然の不躾な質問だったのだが、刹那とマリナ・イスマイールは口を揃えて否定した。
「オトメの勘が外れたです・・・」
残念そうな表情を浮かべて呟くミレイナの横を、呆れた顔の父親が横切っていった。ラッセもその後に続く。
が、ラッセはイアンほど呆れていなかった。内心で焦っていた。
もし、ミレイナが今の質問を自分とにしたら .
(何て答えるべきなんだ? ・・・は何て答えるんだ?)
ラッセとがお互いに同じ気持ちだったことが分かった。互いに、二人でいる時間に心地好さを感じていた。
ということは、「恋人か?」と尋ねられたら、これは「YES」と答えていいのだろうか?
(・・・・・・いや、俺だけがそう思っていたら、かなり恥ずかしい・・・・・・)
「なに深刻な顔してるの?」
「っと!!? っ!!!?」
「・・・・・・・・・何よ?」
難問に頭を抱えていたラッセは、いきなりかけられた声にかなり驚いた。
顔を上げれば、食事のトレーを持ったが立っていた。
ラッセの反応に不満気に眉を寄せている。
「何だ、女王。いないと思ったら、沙慈とかいうやつのとこに行ってたのか?」
ラッセと一緒にブリッジへ向っていたイアンも足を止めて、に尋ねた。
が頷く。食事の済んだトレーを下げに沙慈・クロスロードのところへ行っていたようだ。
「・・・・・・あの沙慈ってやつのことが気になるのか?」
「まぁ、何と言うか・・・気にならなくはないかなぁ、って感じだけど・・・」
ラッセから視線を外して、煮え切らない返事をするに対して、もやもやした感情が浮かぶ。
(嫉妬・・・・・・って、何やってんだよ俺は?!!)
「何だ、女王はああいうのがタイプだったのか?!」
何故か嬉しそうに言うイアンをが、じろりと睨んだ。「おっと・・・」視線を外して誤魔化すイアン。
「つかぬ事を訊くです」
「ミ、ミレイナっ?!!」
の後ろからミレイナが、ひょっこりと顔を出した。
ラッセはその後に続く言葉を想像して一人狼狽した。
そんなラッセを気にせず、ミレイナが、にっこりと笑う。
「さんとクロスロードさんは恋人同士なのですか?」
「冗談」
鼻で笑ったに、ミレイナが首を傾げる。
「それでは、さんの片思いなのですか?」
「それもないわね」
あっさりと言い切ったに、ミレイナがさらに首を傾げる。
「う〜ん、大人の事情は難しいです」
「・・・・・・・・・それはそうと、はアザディスタンの第一皇女様には会わないのか?」
げっそりと疲れたラッセが、話題を変えようと口を挟んだ。
ラッセの問いに、は肩を竦めた。
「会わないほうがいいと思うから」
「?」
「大人の事情は複雑です」
分かったように頷くミレイナに苦笑して、が尋ねた。
「ところで、フェルトは?」
「さっき格納庫の方へ向ったぞ。どうも、ロックオンのことが気になるみたいだな」
「・・・・・・・・・ちょっと様子見てくる」
イアンの言葉に少々考えてから、はそう言って格納庫の方へ向おうとした。
「は!! さん、つかぬことを訊くです!!」
かけられた言葉に、は足を止めて振り返った。
(・・・・・・・・・今度は何だ?)
疲れきった頭で、ラッセはミレイナの言葉を聞いた。
「さんのタイプはどんななのですか?」
どくんとラッセの心臓が跳ねた。
(・・・・・・何を訊いてんだ、ミレイナっ!!?)
ラッセの内心の動揺を見透かしたように、が唇の端を持ち上げた。
「 知りたい?」
「はい!! 教えて欲しいです!!!」
元気よく答えるミレイナに、は笑みを濃くした。
「そうね・・・あえて言うなら 気が利かない人、かしらね・・・いろんな意味で」
そう言って踵を返して去っていく背中を、ラッセは愕然と見つめた。
は明らかにラッセを見つめて言葉を発した。
(・・・・・・どういう、意味、だよ・・・・・・?)
「う〜ん、深いです」
分かったように一人頷く娘を見つめて、イアンが溜息を吐いた。
「ほれ、さっさと戻るぞ」
内心の動揺を誤魔化し、ブリッジへ戻りながら、ラッセはもう一人、姿の見えない人物のことを尋ねた。
「スメラギさんは?」
「制服の袖に、腕を通す気は、まだないようだな」
溜息とともに答えたイアンの声もまた、苦渋に満ちていた。
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