「初めまして。アレルヤ・ハプティズムです」
  「こちらこそ、初めまして。です」

  差し出した手を握って、その人は微笑んだ。

  「これから、よろしくね」
  「はい、こちらこそ」

  お互いに微笑み合う。

  「聞いてた通りの、優しい人ね」

  綺麗なアメジスト色の瞳だと思った。
  少し悲しげな紫陽花のようだと思った。
  とても、この人に似合う色だと思った。

  「・・・・・何を聞かれたのか、ちょっと気になるんですけど・・・」
  「うん? いろいろと、ね」

  そう言って、その人は悪戯っぽく微笑んだ。
  淡い金色の髪が揺れた。
  とても、綺麗に笑う人だと思った。











#04 戦う理由











  「・・・さんは、どうして、ソレスタルビーイングなんかにいるんですか?」

  いつか尋ねてくるだろうと思っていた。
  が、その一言を沙慈・クロスロードが口にするのは、まだ先だと思っていた。

  はその顔に薄く笑みをのせた。

  「戦争なんて、なくなった方がいいでしょ?」
  「でも、ソレスタルビーイングは戦ってるじゃないですか・・・」
  「そうね・・・・・・アタシが戦うのは、確かめたいから、かな・・・」
  「・・・・・・何を、ですか?」
  訝しげに眉を寄せた沙慈に、は微笑を浮かべた。

  「アタシが生きてることは無駄じゃないって・・・・・・」

  「・・・・・・・・・よく、分かりません」
  「分からない方が、幸せかもしれないよ・・・・・・」
  呟いて、はもう一度、沙慈に向って微笑を浮かべた。





















  「トレミーの進路をアザディスタンに向ける」
  「刹那」
  マリナ・イスマイールの望み通り、アザディスタンへ進路を取ると言った刹那を止めるように、ティエリアが呼びかけた。
  しかし、刹那が一度決めたらそれを貫き通す性格なのは既に周知の事実だ。

  刹那の言葉にイアンが頷いた。
  「了解した、刹那」
  「ブリッジに行く」
  ラッセも了解の意を伝えて部屋を出て行こうとした。

  その入り口の扉からミレイナが、ひょっこりと顔を出した。

  「つかぬ事を訊くです。二人は恋人なのですか?」
  「違う」
  「違います」
  突然の不躾な質問だったのだが、刹那とマリナ・イスマイールは口を揃えて否定した。
  「オトメの勘が外れたです・・・」
  残念そうな表情を浮かべて呟くミレイナの横を、呆れた顔の父親が横切っていった。ラッセもその後に続く。

  が、ラッセはイアンほど呆れていなかった。内心で焦っていた。
  もし、ミレイナが今の質問を自分とにしたら      .
  (何て答えるべきなんだ? ・・・は何て答えるんだ?)
  ラッセとがお互いに同じ気持ちだったことが分かった。互いに、二人でいる時間に心地好さを感じていた。
  ということは、「恋人か?」と尋ねられたら、これは「YES」と答えていいのだろうか?
  (・・・・・・いや、俺だけがそう思っていたら、かなり恥ずかしい・・・・・・)

  「なに深刻な顔してるの?」
  「っと!!? っ!!!?」
  「・・・・・・・・・何よ?」
  難問に頭を抱えていたラッセは、いきなりかけられた声にかなり驚いた。

  顔を上げれば、食事のトレーを持ったが立っていた。
  ラッセの反応に不満気に眉を寄せている。

  「何だ、女王。いないと思ったら、沙慈とかいうやつのとこに行ってたのか?」
  ラッセと一緒にブリッジへ向っていたイアンも足を止めて、に尋ねた。
  が頷く。食事の済んだトレーを下げに沙慈・クロスロードのところへ行っていたようだ。

  「・・・・・・あの沙慈ってやつのことが気になるのか?」
  「まぁ、何と言うか・・・気にならなくはないかなぁ、って感じだけど・・・」
  ラッセから視線を外して、煮え切らない返事をするに対して、もやもやした感情が浮かぶ。
  (嫉妬・・・・・・って、何やってんだよ俺は?!!)

  「何だ、女王はああいうのがタイプだったのか?!」
  何故か嬉しそうに言うイアンをが、じろりと睨んだ。「おっと・・・」視線を外して誤魔化すイアン。

  「つかぬ事を訊くです」
  「ミ、ミレイナっ?!!」
  の後ろからミレイナが、ひょっこりと顔を出した。
  ラッセはその後に続く言葉を想像して一人狼狽した。

  そんなラッセを気にせず、ミレイナが、にっこりと笑う。
  「さんとクロスロードさんは恋人同士なのですか?」
  「冗談」
  鼻で笑ったに、ミレイナが首を傾げる。
  「それでは、さんの片思いなのですか?」
  「それもないわね」
  あっさりと言い切ったに、ミレイナがさらに首を傾げる。
  「う〜ん、大人の事情は難しいです」

  「・・・・・・・・・それはそうと、はアザディスタンの第一皇女様には会わないのか?」
  げっそりと疲れたラッセが、話題を変えようと口を挟んだ。
  ラッセの問いに、は肩を竦めた。

  「会わないほうがいいと思うから」
  「?」
  「大人の事情は複雑です」
  分かったように頷くミレイナに苦笑して、が尋ねた。

  「ところで、フェルトは?」
  「さっき格納庫の方へ向ったぞ。どうも、ロックオンのことが気になるみたいだな」
  「・・・・・・・・・ちょっと様子見てくる」
  イアンの言葉に少々考えてから、はそう言って格納庫の方へ向おうとした。

  「は!! さん、つかぬことを訊くです!!」
  かけられた言葉に、は足を止めて振り返った。
  (・・・・・・・・・今度は何だ?)
  疲れきった頭で、ラッセはミレイナの言葉を聞いた。

  「さんのタイプはどんななのですか?」

  どくんとラッセの心臓が跳ねた。
  (・・・・・・何を訊いてんだ、ミレイナっ!!?)
  ラッセの内心の動揺を見透かしたように、が唇の端を持ち上げた。

  「      知りたい?」
  「はい!! 教えて欲しいです!!!」
  元気よく答えるミレイナに、は笑みを濃くした。

  「そうね・・・あえて言うなら       気が利かない人、かしらね・・・いろんな意味で」

  そう言って踵を返して去っていく背中を、ラッセは愕然と見つめた。
  は明らかにラッセを見つめて言葉を発した。
  (・・・・・・どういう、意味、だよ・・・・・・?)

  「う〜ん、深いです」
  分かったように一人頷く娘を見つめて、イアンが溜息を吐いた。
  「ほれ、さっさと戻るぞ」
  内心の動揺を誤魔化し、ブリッジへ戻りながら、ラッセはもう一人、姿の見えない人物のことを尋ねた。

  「スメラギさんは?」
  「制服の袖に、腕を通す気は、まだないようだな」
  溜息とともに答えたイアンの声もまた、苦渋に満ちていた。








     >> #04−2








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