「アレルヤが見つかったって、本当なの?!」
  扉が開くとともに、スメラギ・李・ノリエガが飛び込んできた。

  「ああ。王留美からの確定情報だ」
  「これから、救出作戦を始める」
  ラッセとイアンの言葉に、スメラギは首を捻った。
  「救出って、どうやって      ?」

  「あんたに考えて欲しい」

  刹那の言葉に、スメラギが息を呑んだ。
  構わず、刹那はスメラギを見据えて言葉を紡ぐ。
  「スメラギ・李・ノリエガ、俺たちに戦術予報をくれ」
  「そんな・・・・・・」
  茫然と呟くスメラギに、ティエリアも口を開く。
  「彼が戻れば、ガンダム4機での作戦行動が可能になります」
  「それでも心許無いが       おっと・・・」
  ティエリアに睨まれて、ロックオンが口を噤んだ。ティエリアの視線から逃れるように、そっぽを向く。

  躊躇うスメラギに、ラッセが背中を押すように一歩前へ出た。
  「手を貸してくれ、アレルヤを助けるために」

  「・・・スメラギさん、これを      
  そう言ってフェルトが差し出した制服に、スメラギは息を呑み、一歩後ずさった。

  「やめてよ! そうやって期待を押し付けないで!!
  あたしの予報なんて、何も変えることは出来ない! 皆を危険に曝すだけよ!!」

  「・・・だから、逃げるの? また?」

  背中に冷えた声が突き刺さって、スメラギは逃げ出しかけた足を止めた。
  「おい、・・・!」
  「逃げればいいわ。そうすれば、何も変わらないから」
  慌てたラッセの止める声も聞かずに、きっぱりとはスメラギの背中を見据えて言い放った。

  「期待を押し付けてる? 馬鹿なこと言わないで。勝手に押し付けられた気になってるんじゃないわよ」
  「さん!」
  フェルトの声に、は息を吐いて肩を竦めた。
  「期待じゃない、信頼でしょ? 信頼は押し付けてるんじゃなくて、互いの間に生じるものよ」

  「・・・勝手なこと言わないでよ・・・」
  スメラギの呟きに、は若干口調を緩めた。

  「アタシはまだ、あなたの戦術予報を信頼してるんだけど?」
  「さん!」
  ミレイナが嬉しそうに声を上げた。そんなミレイナには軽く微笑み返した。
  「それでも、逃げるなら止めないけど」

  「・・・・・・あたしは・・・・・・」

  「後悔はしない」

  黙って聞いていた刹那も、スメラギの背に声をかけた。
  「たとえミッションに失敗しようとも、あんたのせいなんかにしない。俺たちは、どんなことをしてでもアレルヤを、仲間を助けたいんだ」
  その場にいる誰もが刹那の言葉に頷き、スメラギの背中を見つめた。

  「頼む、俺たちに戦術をくれ」


  しばしの沈黙の後、スメラギが口を開いた。
  「・・・・・・フェルト、後で現状の戦力と状況のデータ、教えてくれる?」
  「スメラギさん!!」
  嬉しそうにフェルトが頷いた。
  しかし、スメラギはそのまま一度も振り向かずに部屋の外へと出て行ってしまった。


  スメラギの制服を抱いたまま、傷ついたように立ち尽くすフェルトの肩をが優しく叩いた。
  「大丈夫。フェルトの声は届いてる」
  「さん・・・・・・はい! 私、すぐにデータまとめなくちゃ!」
  そう言って笑顔を見せたフェルトに、が頷いた。

  その様子にティエリアは満足に、微かだがその唇に微笑を浮かべた。





















  「ティエリア」
  「?」
  廊下に出たところで背後から呼び止められた。

  そのまま隣に並んで歩きながら、ティエリアにだけ聞こえるようにが声を潜めた。

  「この時期に、この情報・・・都合が良すぎると思うのは、アタシの考えすぎだと思う?」
  「・・・何が言いたい?」
  ティエリアの一瞥に怯まず、は前を見つめたまま口を開いた。

  「王留美の情報は、信用に足ると思う?」
  「情報を偽るメリットが見当たらない」
  きっぱりと言い切ったティエリアに、は、ちらりと視線を投げた。
  「彼女の情報には、今までも助けられている。今更疑う余地はない」

  「そう、分かった・・・・・・なら、聞き方を変えるわ。王留美は信用に足る人物?」
  「同じことだ」
  「そう・・・・・・分かった」
  が足を止めた。ティエリアも足を止め、を振り返った。

  「何が引っかかっている? 君にとっても、アレルヤ・ハプティズムが戻ることは喜ばしいことだと思っていたのだが?」
  「もちろん、喜んでるわよ・・・・・・ただ、アタシの思い過ごしならいいんだけど、アタシは王留美を信用できない」
  「それで、君はどうしたいんだ?」
  はまっすぐティエリアを見つめて口を開いた。
  「アタシの個人情報は、王留美には?」
  「僕は君の出した条件を守っているつもりだが、不服が?」
  「いいえ。それなら結構。アタシを知る人物は、少ない方がいい」

  「・・・王留美はが"女王"だとは知らない。これからも知ることはない・・・これでいいのか?」
  「ええ。よろしく頼むわ」
  そう言っては満足気に微笑むと踵を返した。

  その背中をティエリアは黙って見送った。
  (      用心に越したことはない・・・にとって世界にその正体が露見することは脅威だろう・・・)
  ティエリアはの背に背負うものの大きさを改めて思い、深々と溜息を吐いたのだった。





















  「スメラギさんからミッションプランが届きました!」
  フェルトが笑顔を見せた。

  「おいおい・・・何だよ、このプランは?!」
  呆れたような言葉とは裏腹にラッセの声は嬉しそうだ。

  「大胆ですぅ」
  驚きに口に手を当てていたミレイナも嬉しそうに呟いた。

  「・・・5分足らずの電撃作戦。大胆で繊細なプラン。確かに、スメラギ・李・ノリエガの戦術だわ・・・」
  も驚嘆と賛辞を送った。

  「・・・・・・・・・その割りに、ちょっと不満そうに見えるんだが?」
  は唇を尖らせた。後ろに座るミレイナとフェルトには聞こえないように尋ねてきたラッセに、ちらりと視線を投げる。

  「・・・・・・・・・・・・・・・別に」

  「・・・そう、か?」
  その視線に棘が含まれているような気がした。
  が、ラッセには理由が分からない。
  (      戦術だけ送ってきて、スメラギさんがまだ自室に閉じこもってるからか?)
  頭を捻るラッセをじっと見つめていたが、軽く溜息を漏らした。

  「・・・・・・・・・長所でもあり、短所でもあり、ってことよね・・・・・・」
  もう一度、はぁ、と溜息を吐くに、何故かラッセは背中を冷や汗が伝うような、そんな気がした。

  そんな前席の二人の様子に気付くことなく、フェルトが告げる。
  「0043をもってミッションを開始」
  フェルトの声で、トレミーは大気圏へ向って進路を取った。








     >> #03−5








     Photo by Microbiz