「王留美からの緊急暗号通信・・・・・・アロウズに、こちらの位置を知られた模様!!」
フェルトの言葉に、ブリッジに緊張が走る。
「セラヴィーで出る。フェルトは、イアンやと共にマッチング作業、急いでくれ!」
ティエリアが指示を出し、格納庫へ向う。
タイミング良く開いた扉の向こうにいたが、さっと表情を引き締めた。
「問題?」
ティエリアと入れ替わりで、がブリッジに入りながらフェルトに尋ねる。
「アロウズがこちらに向っていると、王留美から連絡が!!」
「・・・了解。ツインドライブシステムの補正は、アタシがやる」
フェルトの答えに頷いたものの、訝しげな表情を浮かべたままが席へと滑り込む。
「・・・・・・・・・どうした?」
作業しながらも、どこか難しい顔をしているにラッセが尋ねた。
その声が聞こえているのかいないのか、変わらず作業を続けていたが、しばらくの間をおいて口を開いた。
「・・・・・・アロウズも、王留美も、どこから情報を手に入れてるのか・・・・・・」
「・・・・・・、それはどういう 」
「アイオンさん!!」
独り言のように呟かれたの言葉の真意を、ラッセは確認しようとしたが、背後からミレイナに遮られてしまった。
振り返れば、自分のモニターを指差して、ミレイナが驚きと喜びが入り混じった顔をしていた。
「ノリエガさんから緊急暗号通信が来たですっ!!!」
「ノリエガ・・・スメラギさんから?!」
ラッセも驚きに目を見開いた。
「戦術プランです。開始予定まで0032」
「そいつは無茶だぜ・・・・・・」
内容を確認して、ラッセは思わず、にやりと笑った。
間違いない、こんな無茶な戦術プランをたてられるのは、あのスメラギ・李・ノリエガに間違いない。
迎えに行ったとは知っていたが・・・・・・
「刹那のやつ、本当に連れてきやがった・・・」
ラッセは笑みを浮かべた。
状況は決して楽観できる状態ではなかったが、それでもスメラギが戻ってくる、スメラギのたてた戦術プランでまた戦える、そう思った心中をラッセはそのまま表情に反映させていた。
楽しそうに、嬉しそうに笑みを浮かべたラッセから、視線を手元に戻しては一度瞳を閉じた。
肩に入っていた力を抜くように息を吐き出して、は瞼を持ち上げて優先すべき作業を再開した。
向ってくるアヘッド小隊に対して、GNバズーカーで機雷群の機雷を誘爆させてセンサーに障害を発生させた。
それでも二手に分かれて迫ってくるアヘッドに、が舌打ちをした。
【イアン、ダブルオーを出す】
【ちょ、ちょっと待て!!? 刹那、こっちはまだ・・・】
はダブルオーの作業状況をモニターの隅に呼び出した。
(ツインドライブシステム以外は問題なし。ツインドライブが安定しない問題に関しては・・・問題点すら不明・・・・・・まぁ、ぶっつけ本番ってのもありかしらね?)
技術者らしからぬ自分の思考に苦笑が漏れた。
どうやら自分はまだ技術者に徹し切れてはいないらしい。
「小型艇着艦準備、ダブルオーの発進準備に入るです!」
ミレイナが、着々とダブルオーの発進準備を進めている。小型艇から先に戻ってきた刹那が、ダブルオーへと乗り込もうとしている。
【刹那、ダブルオーはまだ・・・・・・!!】
焦るイアンの声とは対照的に、刹那の声には迷いがなかった。
【トランザムを使う】
【無茶だ!! 刹那、よせ!!!】
悲鳴のようなイアンの声。
それは、そうだろう。下手をしたら自爆しかねない。
技術者なら止めるべきだ。
(・・・・・・システムは完璧だし・・・これでダメなら、ツインドライブシステム自体に無理があるってこと・・・それに望みをかけたソレスタルビーイングが無茶だったってこと、か・・・・・・)
【トランザム、始動!!】
刹那がシステムを起動させる。
光り輝くダブルオーガンダムにイアンが息を呑む。
【・・・やりやがった】
「ダメね」
思わず呟いたイアンを遮って、冷静には通信に割り込んだ。
「粒子融合率73%で停滞・・・安定領域には足りない」
【トランザムでもダメか・・・・・・】
素早くシステムチェックを行いながらが告げた言葉に、イアンは眉を寄せ苦い顔をする。
「・・・・・・・・・ダメなのかもね・・・」
口の中で呟いて、はトレミーへ迫る2機のアヘッドを鋭く睨んだ。
ビーム砲がこちらに照準を合わせようとしている。
(回避、間に合うか?!)
【目覚めてくれ、ダブルオー!! ここには、オーガンダムと、エクシアと、俺がいるっ!!!】
刹那の想いを乗せた宣言、アヘッドのビームの発射、ラッセの回避操縦、どれが早かったか ただ、アヘッドが放ったビーム砲は、誰の命も奪わなかった。
「・・・・・・粒子融合率87%に到達・・・イアン、ツインドライブシステム、安定領域よ」
【き、機動した・・・・・・二乗化のタイムラグか?】
すぐさま技術者らしい感想を口にしたイアンに、は笑った。
モニターに目をやれば、アヘッドからのビームを跳ね返すように粒子を纏ったダブルオーの姿がそこにあった。
【ダブルオーガンダム、刹那・F・セイエイ、出る!!!】
(・・・・・・綺麗ね・・・まるで羽を広げてるみたい)
トレミーから発進していくダブルオーガンダムを見て、技術者らしからぬ感想を持った自分に、は再度笑った。
どうやら自分は技術者というよりも、夢見る女の子だったようだ。
【ダブルオー、目標を駆逐する!!】
迫るアヘッドを1機、ビームで撃墜してダブルオーガンダムが宙を駆ける。
敵の砲撃を掻い潜り、ビームを纏う粒子で跳ね返して、ダブルオーが宙を舞う。
「・・・・・・初めての機体での戦闘とは、とても思えないわね」
刹那の戦闘データを確認しながら、は満足気に笑みを浮かべた。
接近戦を挑んできたもう1機のジンXVを一刀両断にした刹那に、ブリッジの面々から感嘆の声が漏れた。
「敵モビルスーツ、撤退していくです!!!」
嬉しそうに報告するミレイナに、ブリッジ全体が安心した空気に包まれる。
そんな中、は一人、着艦しようとする小型艇を見つめて、表情を引き締めた。
(・・・・・・今更後悔は無しよ、・・・・・・)
自分で自分に言い聞かせながら、はこの後の対面を思って、今日何度目かの溜息を吐き出した。
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