は溜息を吐いた。
画面の上には無機質な数式の羅列が続いている。
ツインドライブシステムの再チェック やはり問題は見当たらない。
念のため、もう一度チェックを繰り返しながら、つい溜息が漏れた。
「・・・・・・まさか、フェルトに指摘されるとは、ね・・・・・・」
疲れてませんか?・・・・・・最近、ちょっと・・・焦っておられるような気がして .
「疲れてるよ・・・・・・連日徹夜だし・・・」
ここはプライベートルーム。
誰に聞かれる心配もない。だから、独り言を呟いてみる。
刹那・F・セイエイに渡したディスク 以前ソレスタルビーイングで戦術予報士をしていた人間の現在の滞在場所と、カタロン構成員のある男への連絡方法が入っている。
今頃、その情報を基に刹那が迎えに行っているはずだ。
「・・・・・・上手くいけば・・・そしたら、少なくとも 」
( ラッセはガンダムに乗らなくてすむ・・・・・・)
セラヴィーガンダムはティエリアの、ダブルオーガンダムは刹那の、そしてソレスタルビーイングには後2機のガンダムがある。
4年前、4機あったガンダムに搭乗していたマイスターのうち一人は戦死、もう一人は行方不明。
そして、4年前はガンダムには乗っていなかったマイスターが一人 それがラッセ・アイオンだ。
残る2機のガンダムの機体特性からみて、ラッセが乗ることになるとしたら砲撃型のケルディムガンダムだろう。
だから、カタロン構成員の男を探し出した。
彼がソレスタルビーイングに加われば、ラッセがガンダムに乗る可能性は限りなく低くなると考えていいだろう。
「・・・・・・・・・トレミーの中が完璧に安全とは言わないけど、それでも、多分、マシだから・・・・・・」
は溜息を吐いた。
「焦ってるよ・・・・・・あんなこと言われるとは、思ってなかったし・・・」
まさか、ラッセに告白めいた言葉を言われるとは思っていなかった。
自身の想いなんかに関係なく、ラッセなら自分なんかを好きにならないだろうと、どこかでそう思い込んでいた。
ラッセの視線の先にいるのは、スメラギだと思っていた。
ラッセは、スメラギのことが好きなんだろうと思っていた・・・・・・
「スメラギ・李・ノリエガ、ね・・・・・・・・・今更、会うことになるなんて・・・」
出来ることなら、再会なんてしたくなかった。今更、どんな顔をして会えばいいか分からない・・・
謝る? 許して欲しい、と それこそ、今更出来るわけがない。
「あ〜もうっ!!」
荒々しくコンピューターを終了させて、ディスクを取り出す。
ケースにしまったそれを机の上に放り出して、背もたれに全体重をかけるようにして倒れこんだ。
固まった関節から軽く軋む音がした。
はもう一度溜息を吐いた。
嘘でも、自分のことを好きだなんて言って欲しくなかった・・・・・・自分が大嫌いな自分を好きだなんていわれたら、ラッセのことを嫌いになりそうで怖かった。
明確に好きだなんて言われたら、大嫌いな自分を自分で許してしまいそうな気がして、そう思った自分に嫌悪した。
これ以上近くにいたら、ラッセの目に映る全てに嫉妬してしまうだろうと思うと恐ろしかった。
「・・・・・・・・・結局、アタシは我侭ってことよね・・・・・・」
呟いて苦笑を浮かべた。
ガンダムは後もう1機ある アリオスガンダム。
機動性を向上させたキュリオスの後継機。
キュリオスのガンダムマイスターであるアレルヤ・ハプティズムは4年前の最終決戦で生死不明。現在なお行方すら分からず・・・・・・
「・・・・・・アタシも、そろそろ覚悟を決めるべきなのかな・・・・・・」
もう一度、大きく溜息を吐いてから、はディスクをイアンに届けるべく部屋を後にした。
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