網膜の裏に眩しい光が走ったような気がして、は瞼を開けた。
どれくらい宇宙を漂っていたのだろう 暗闇に溶けたように感じていた手足も、まだある。
ぼやけて失ってしまったような気がした自我も、まだある。
宇宙服に内蔵された酸素量が、後どれだけ保つか分からないが、自分がまだ生きていることをは思い出した。
同時に、大切な人を待たせていることも .
(ラッセ・・・・・・!!)
酷く強張った筋肉を叱咤して、は体を捻った。
360度、広がるのは無限の星空で、どこへ向かえばトレミーに戻れるのか分からなかった。
それでも、は僅かな推力で前へ進んだ。
前なのか、後なのか、真っ直ぐに進んでいるのか、それさえもはっきりとは分からなかったが、それでも進みたかった。
ただ、ラッセの傍へ .
伝え切れてない想いが、まだこの胸に沢山あった。
どれだけ伝えても、どれだけ言葉を並べても、きっと枯れることはないこの気持ちを。
これからも、ずっとずっと一緒にいたい。
"一緒にいるだけでいい"なんて、言えない。
自分は我侭だ。ラッセの全てが欲しい。
ラッセの目に映る全てを見たいし、全てを知りたいし、全てを共に感じたい。
喜びも、悲しみも、幸せも、苦痛も、全て。全てだ。
そんなの無理なことも分かってる。それでも、自分はそれを望む我侭だ。
ラッセと共に、ラッセの一部になりたいと、そう望む。
だけど、そう自分が想えるのはラッセだけだ。
ラッセだけなんだ。
(アタシは帰るんだ! トレミーへ、ラッセの傍へ!!)
の部屋に、ラッセが自分に預けた花と同じものがあることを、彼は知らない。
この戦いが無事に終ったら、ラッセにプレゼントするつもりで、がリンダから譲り受けたものだ。
あの花を、平和と安寧を願って育てられたあの花を、この戦いが終ったら、平和な未来が見えたその時に、ラッセに渡そうと思っていた。
の想いと一緒に .
「ラッセ!!」
の視線の先に、希望が見えた。
漆黒の闇の中、ラッセは懸命に周囲を見回した。
ケルディムの掌にあったもの それは花だった。
自分が、に預けた花だった。
(・・・!!)
ロックオンが花を見つけたというのは、この辺りのはずだった。
あの花が、に渡したものだという確証はない。
他の人間が持っていた可能性だって否定できない。
あの花が、に渡したものだったとしても、それを発見したこの場所にもいる保障はない。
花だけ、流されたのかもしれない。
は、こことはまったく別の方向にいるかもしれない。
(!!)
それでも、自分はと一緒にトレミーに戻る そう信じていた。
がいたから だから、どんな時でも自分は自分らしくいられた。
がいるから これからを、未来の自分に希望を抱くことができる。
がいなくたって、自分の世界は廻るだろう。
だけど、それでは駄目なのだ。
がいなくたって、自分はソレスタルビーイングの一員として生きていくだろう。
だけど、それは違うんだ。
がいなかったら、自分の世界は色を失う。
がいなかったら、自分は生きること自体に喜びを感じない。
自分には、が必要だ。
これからも、ずっと .
(と一緒に、これから先の未来も!!)
きつく抱きしめて、の不安を全て忘れさせたい。
これから先の未来を、一緒に、信じて、歩んで生きたいと、そう願わせたい .
「!!」
呼ばれた そう感じて向けた視線の先に、探していた未来を見つけた。
「!!」
「ラッセ!!」
腕の中に飛び込んで、微笑を浮かべた。
きつくきつく抱きしめて、その存在を確かめた。
大好きな匂い、優しい温もり、安心できる心音 全てが涙が出るほど懐かしく、大切だった。
伝えたかった言葉は、何も必要なかった。
ただ、お互いを感じあえる それだけで、幸せだった。
誓いの言葉の代わりに、二人は互いを確かめるように、口付けを交わした。
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