(ルイスの体を蝕んでいた細胞異常は、その進攻を完全に止めた。
それも、刹那の放ったあの光のおかげなのだろうか?
・・・真実は、その理由は分からなくても、でも )
沙慈は宙を見上げていた視線を、ルイスへ向けた。
( 彼女は、ここにいる・・・)
病室のベッドに体を起こしているルイスの表情は、とても穏やかだ。
MSに乗って戦っていたのが、まるで夢だったかのように .
「・・・・・・ねぇ、沙慈・・・」
呼ばれて、沙慈は窓際から離れて、ルイスの隣に腰を降ろした。
以前の、一緒に笑いあった頃の彼女と同じように見える .
「・・・世界は、これからどうなるのかな・・・」
「・・・正直、僕にも分からない・・・でも 」
沙慈はルイスの顔を見つめた。
5年の月日をなかったことには出来ない .
「 僕たちは無自覚ではいられないと思う・・・
平和の中にいた僕らは、現実を知り、戦いを知り、その大切さを知った・・・」
以前は思いもしなかったことを感じるのは、やはり自分が変わったからなのだろう。
「・・・考える必要があるんだ・・・・・・本当に、平和を求めるなら、世界について考えることが・・・・・・」
「・・・うん・・・・・・」
言葉を探す沙慈に頷いて、ルイスは沙慈の肩に体を預けた。
その重みを感じることが出来る そんな些細なことさえ、幸せだと感じられるようになった。
それはきっと、悪いことではないはずだ。
沙慈は、再び病室の窓から見える宙に視線を向けた。
(世界がどうなるか、それは誰にも分からない・・・でも、とうにでもなれると思うんだ。
過去は変えられなくても、未来は変えられる・・・・・・僕たちが望む世界へ・・・・・・・・・)
沙慈は今もこの宙の下にいるだろう彼らに、想いを馳せた。
【准将、司令部はソレスタルビーイングの処遇を何と?】
「やつらは腐敗したアロウズを叩いた功労者ではある。だが 」
モニターの向こうのアンドレイ・スミルノフに負けない堅苦しさで、カティ・マネキンは答えた。
「 武力放棄をしない限り、現政権を脅かす危険な存在であることは変わりない。
やつらに動きがあれば、我々も即動くぞ」
【は!】
きっちりと敬礼を返して、アンドレイからの通信が切れた。
彼は今、難民キャンプ支援の護衛任務についている。
彼は、軍人として生きることを選んだのだ。
その真っ直ぐさを眩しく思い、カティは小さく溜息を吐いた。
「マリッジブルーかよ?」
「?! カイウス!! 貴様、ノックもせず 」
「これ以上待たせたら、コーラサワーの馬鹿が泣くぞ」
そう言って、カイウス・はカティを上から下まで見て、口笛を吹いた。
「馬子にも衣装・・・・・・失敬。今日は一段と綺麗だぜ!! 本当、コーラサワーの馬鹿には勿体ねぇな」
ニヤリと笑うカイウスに、カティは鋭い視線を投げた。
「それより、貴様、どうする気だ? 軍に復帰する気なら、手続きをとるぞ」
「准将様は仕事熱心なこった。自分の結婚式よりも、仕事の話かよ?」
呆れるカイウスを、カティは黙って睨みつけた。
「・・・・・・戻るにしても、暫く休暇もらうわ。ちょっくら疲れた」
肩を竦めたカイウスに、カティは驚きに目を丸くした。
「貴様の言葉とは思えんな・・・・・・何だ? 独り身が寂しくなったわけでもあるまいに」
「俺だって、ナーバスになることぐらいあるんだよ・・・・・・それより、いい加減行かないと、本気でコーラサワーが泣くぞ」
「分かっている」
カティは立ち上がった。
真っ白なドレスなど、一生着ることなどないと思っていた。
「改めて、結婚おめでとう・・・・・・『不死身のコーラサワー改め、幸せのコーラサワー!』と奴が惚気るのも分かるな。
コーラサワーには勿体ない美人だよ、カティは。奴もデレデレなわけだ・・・」
カイウスの言葉に、カティは微笑を浮かべた。
「そうか・・・私は早まったかな?」
「いやいや。寧ろ行き遅れてるって。この期を逃したら、次はないぜ?」
ニヤリと笑ったカイウスの背中を、カティは手に持ったブーケで思いっきり叩いた。
(・・・父さん、母さん、エイミー、兄さん・・・・・・)
ロックオンは二つの墓の前に花束を置いた。
しばらくは、ここを訪れることもないだろう。
連邦議会に加わったクラウス・グラードからは、自分のサポートをしてくれないかとオファーが来たが、断った。
自分のいるべき場所は、連邦議会などではない。
(・・・俺は、カタロンから離れて、ガンダムマイスターとして生きる。
ロックオンストラトスとして、この世界と向き合う。
たとえ、世界から疎まれようと、その罰が下されるまで、戦い続ける・・・・・・)
ロックオンは、家族の名が刻まれた墓の横、小さな墓に視線を向けて、微笑を浮かべた。
(そっちへ行くのは、もう少し先だ・・・・・・その時まで、待っててくれよな、アニュー・・・・・・)
記憶の中の彼女が、少し照れたように微笑んだ。
その顔に笑顔を返して、ロックオンは背を向けた。
(世界は再び変わろうとしている・・・・・・)
彼方の聖地を見つめて、アレルヤはそこへ続く長い道に視線を落とした。
(・・・けれど、そのために僕が犯してきた罪は、人の命を奪ってきた罪は、けっして )
「アレルヤ・・・」
かけられた声に、アレルヤは落ちていた視線を上げた。
心配そうな視線が隣から見つめていた。
「・・・大丈夫だよ」
隣を並んで歩くマリーに向かって、アレルヤは微笑を浮かべた。
マリーが傍にいてくれる。
それだけで、とても自分は幸せだと思えた。
この先に何があっても、自分はマリーがいてくれれば、それだけで乗り越えていける。それだけで幸せになれる。
(この世界は、矛盾に満ちていて、僕自身も矛盾していて・・・でも、それを変えていかなくちゃいけない )
彼方に見える聖地を、そしてその先の宙を、アレルヤは見つめた。
(見つけるんだ。僕たちが生きる意味を・・・その答えを・・・・・・)
未来という希望を見つめて、アレルヤは歩き続けた。
は宙を見上げた。
(ラッセ・・・・・・)
そこにいるだろう人の名前を心で呟いて、は手元の端末に目を落とした。
彼らしいメッセージに微笑んで、もう一度宙を見上げた。
(大丈夫・・・アタシも変われる・・・・・・)
端末を閉じて、は深呼吸をする。
思い浮かべるのは、ラッセと互いに交換した花のこと .
(大丈夫・・・分かり合える、きっと・・・遅くない・・・・・・)
互いの部屋に置いてある花を想う。
大丈夫、・の心は、あの場所にちゃんとあるから .
・は、レジーナ・として、扉の前に立った。
きっとアーサー・が驚いた顔をするだろう。
想像して、秘かに笑う。
(大丈夫・・・・・・過去を、アタシは過去にする。乗り越える!!)
開いていく扉の前で、はしっかりと未来を見据えた。
ラッセは小さく微笑んだ。
自分が花を育てるなんておかしいと思ったが、慣れてしまうものらしい。
(今頃、会ってる頃か・・・・・・)
花を見れば、それを送ってくれた彼女のことを思い出せる。
彼女の部屋にも同じものがあることを知っているから、何だか擽ったいような、不思議な気持ちになる。
(一緒なら、全て受け入れられるような気がする・・・世界から疎まれようとも)
心が求めている。
彼女の存在に、自分も救われている。
たとえ裁きを受けると理解していても、永遠なんてないと知っていても、彼女がいることに救われている。
全ての矛盾を抱え込んでも、自分たちの存在自体に、自分たちが出会ったこと自体に、意味があると、そう信じている。
(・・・・・・俺には、お前が必要なんだ )
同じ宙の下にいる、彼女の名を呼んで、ラッセは柔らかく微笑んだ。
「行こう。俺たちには、まだ、やることがある」
刹那の言葉に、フェルトが頷いた。
宙を見つめて、刹那はその先の未来を見ようと目をこらした。
(俺たちはソレスタルビーイング。
戦争根絶を目指すもの 世界から見放されようとも、俺たちは世界と対峙し続ける。
武力を行使してでも、世界の抑止力となって生きる・・・)
刹那は、トレミーの仲間たちを順に見つめた。
皆、刹那と同じ志を持っている。
それが伝わる。
(・・・だからこそ俺たちは、存在し続けなければならない!! 未来のために )
戦争根絶を願う想いを胸に、ソレスタルビーイングは宙を駆けた。
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