お前のことが大切だ。だから、絶対、泣かせたりしない      .

     その言葉に、胸の中がとても温かく、そしてとても切なくなった。


        といる時間が心地好い・・・それじゃぁ、ダメか?      .

     アタシがどれほどあなたの言葉に救われたか、あなたはきっと知らない。


        愛してる、      .

     あなたにそう言われるたびに、アタシも少しずつアタシを好きになれた。


        ラッセ・アイオンだ。これからよろしくな      .

     そう言って微笑まれた瞬間に、アタシはきっとあなたを好きになった。


             .

     あなたにそう呼ばれるのが、あなたの呼ぶその名が、アタシは大好きだった。


        戻って来い。俺の傍に      .

     うん。すぐに・・・・・・すぐに      .


  漆黒の空に、そっと手を伸ばした。

  本当は、最後の瞬間は、あなたの、ラッセの傍にいたかった。
  のままで逝きたかった。

  預かった花も失くしてしまった。
  ラッセを感じさせるものもない。
  広がるのは無限の宙       自分自身が誰だったかも分からなくなりそうな心細さに       だけど、まだラッセのでいたかった。
  せめて、自分の中にあるラッセの記憶の傍にいたくて、は瞳を閉じた。





















  【大丈夫か!?】

  ノイズ交じりの呼びかけに、遠くなりかけた意識を呼び戻す。

  【おい、返事しろ!! アレルヤ!!】

  「・・・ラッセ、アイオン・・・・・・」
  【生きてるな?! しっかりしろ!】

  アレルヤは完全に意識を取り戻した。
  システムが壊されたアリオスの中で、しばし気を失っていたらしい。
  その間も、マリーの意識を感じていたように思う。

  「・・・大丈夫・・・それより、どうして?」
  トレミーにいるはずのラッセが、こんなところにいるのを不思議に思った。

  【・・・・・・をしらないか?】
  「さん・・・?」

  思い出した。
  トレミーを守って戦ううちに劣勢に追い込まれ、その打開のために彼女は宙へ飛び出したのだった。
  旧世代の武装の試作機で      .

  「戻ってないんですか?!」
  【ああ・・・】
  苦々しく呟かれたラッセの声に、アレルヤも眉を寄せた。
  「僕も、一緒に探します」
  【いや・・・アリオスは帰還したほうがいい・・・・・・トレミーへ向えそうか?】
  アリオスの状態に思い至って、アレルヤは唇を噛み締めた。

  ラッセに指摘されるまで、すっかり忘れていたが、とてもを探しに行ける機体状態ではなかった。
  実際、トレミーに戻ることすら難しいだろう。
  だが、これ以上ラッセの負担を増やすつもりはなかった。

  「僕は大丈夫です。ラッセは、さんを」
  【・・・・・・あぁ・・・】
  「ラッセ」
  答える声に不安を読み取って、アレルヤは離れようとする小型艇を呼び止めた。


  「絶対に見つかります。互いに、相手のことを想っていれば、必ず」

  【・・・・・・・・・だが・・・】


  「信じてください。自分の心を       そして、さんのことを」

  【・・・・・・分かった。そうするよ】

  その声に希望を見て、アレルヤは微笑んだ。


  「そうですよ。信じてください、未来を」

  遠ざかる小型挺を見送って、アレルヤはトレミーを目指した。





















  「・・・どうしたよ?」

  【ロックオン・・・無事だったか】
  「あぁ。そう簡単にくたばれないな」
  ロックオンは唇を歪めた。

  ケルディムは両足部分が破損していて、見るからにぼろぼろだ。
  戦闘は難しいかもしれないが、見た目ほど計器の損傷は酷くない。
  トレミーへの帰還も問題ないだろう。

  「あんた、何でこんなところにいるんだ?」
  【・・・旧型のMAを、を見てないか?】
  「あいつ、戦場へ出たのか?!」

  ロックオンは驚きに目を見張った。
  先の戦闘の怪我を負い、決して戦える状態ではなかったはずだ。
  そのはずなのに、は戦闘に参加したという。
  そして今、行方が分からなくなっている      .

  「そんな無茶な・・・・・・」
  【・・・そうか・・・・・・ロックオンも見てないか・・・】

  気落ちしたラッセの声に、ロックオンは思案顔でケルディムの残った片手を広げた。

  「・・・何でこんなところに、と思って回収してきたが・・・もしかして      
  【!!? それをどこで!?】
  「7時の方向だ」
  【分かった!!】
  「なぁ、あんた・・・」
  ロックオンもケルディムの掌に握られたそれに視線を向けて、飛び出そうとする小型挺に呼びかけた。


  「・・・取り戻せよ。必ず」

  【・・・・・・ああ】


  「あんたなら、あんたたちなら、俺たちに出来なかったことが出来るさ」

  【・・・ああ。恩に着る】

  一直線にその場所へと向かう小型艇を見送って、ロックオンは微笑を浮かべた。


  「・・・そうさ。あんたたちには、共に歩む未来があるんだから、な」

  ロックオンはケルディムをトレミーへと向けた。





















  刹那は、失っていた意識をゆっくりと回復させた。


  リボンズ・アルマークとの激しい戦闘の中、互いにトランザムでぶつかり合い、そのエネルギーに爆発が起こり      .


  刹那は、視界に漂う花を見た。

  出撃前に、フェルトから送られた花だ。

  平和への願いと無事な帰還を祈って、リンダが栽培し、フェルトが送ったその花の向こうに、刹那は希望を見た。








     >> #25−4








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