「僕たちは、分かり合うことで、未来を築くんだ! そうだろ?! ルイス!!!」
オーライザーのコックピットで、沙慈は必死にルイスに叫んだ。
【その未来を奪ったのは、ソレスタルビーイングだ!! 戦争を仕掛けたのも!! 世界を歪めたのも!!!】
ルイスの乗る機体 レグナントの攻撃は、容赦なくダブルオーライザーを襲う。
【死ねぇ!!!!!!】
ダブルオーライザーに向かって電撃を撃ちこみながら、レグナントはさらにビーム砲を放った。
「くぅ!! 特攻兵器!!!」
何とか攻撃に耐えるダブルオーライザーに向かって、特攻兵器が3機向かってくるのが見えた。
逃げようとするダブルオーライザーを、レグナントが攻撃を続けたまま抱え込んだ。
【もう逃げられないぞ! ガンダム!!!】
自らの電撃でダメージを受けているはずなのに、どこか壊れたようなルイス声が響く。
「やめるんだ!! このままじゃルイスも 」
【それがどうした!!!】
「?!!」
特攻兵器に巻き込まれる! そう言おうとした沙慈を、ルイスの嬉しそうな声が遮った。
沙慈は思わず目を見開いた。
そこまで、ルイスの憎悪は深いのか .
【貴様たちを、倒すためなら!!!】
そこまで深く憎んでいるなら .
「駄目だぁ!!!!!!」
沙慈は、しかし、自分の心に浮かんだ可能性を全身で否定した。
死んで救われる、そんなわけない。
その先に未来がないじゃないか・・・・・・
沙慈は引鉄を引いた。
発射されたミサイルは、特攻兵器2機に命中した。
もう1機、突っ込んできた特攻兵器が、レグナントに体当たりするようにして爆発した。
【・・・・・・沙慈! 沙慈・クロスロード!! 沙慈!!!】
刹那の声に、沙慈の意識はゆっくりと覚醒した。
どのくらい、気を失っていたのか・・・・・・
「う・・・あ・・・・・・!! ルイスは?!」
【大丈夫だ】
ゆっくりと開かれたダブルオーライザーの手の上で、ルイスが気を失っていた。
【彼女を連れて、安全な場所へ行け!! 敵が来る!】
「分かった!!」
沙慈は急いでオーライザーのコックピットを飛び出した。
ルイスを抱いて、逃れるように戦場を後にした。
「ルイス! ルイス!! ルイス!!! ルイス!!!!!!」
腕の中、必死に呼びかける沙慈の声に、ゆっくりとルイスの瞼が上がった。
「・・・さ、じ・・・・・・」
「ルイス・・・」
沙慈は微笑んだ。
まだ外では戦いが続いている。
だけど、自分の戦いは終った。
こうして、ルイスを取り戻したのだから .
「?!!!」
「ソレスタルビーイング!! パパとママの仇!!!!!!」
ルイスの腕が、急に沙慈の首を締め上げた。
沙慈を押し倒し、馬乗りになって首を絞めつけるルイスの、鬼のような形相を沙慈は苦しい息の下で必死に見つめた。
「死ね、死ねぇ!!!」
首にかかる手を剥がそうとするが、ルイスは凄まじい力で締め上げるばかりで、とてもじゃないが振り払えなかった。
「・・・ル・・・・・・イ、ス・・・・・・」
呟いた沙慈の頬で、冷たいものが弾けた。
必死で目を開けて、沙慈は自分の首を絞めるルイスの瞳に涙が溢れ出すのを見た。
鬼のような形相に不釣合いな涙を流しながら、ルイスのその瞳が、沙慈の首から下げられた指輪に揺れていた。
「・・・・・・・・・さ、じ・・・・・・さじ・・・・・・」
その形相に不釣合いな、けれど沙慈にとっては懐かしい声色で、ルイスがその名前を呟く。
昔と同じ、あの頃と同じ音で .
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
突然、ルイスが頭を抱えて絶叫した。
「ルイス!!? どうしたんだよ、ルイス!!!」
痛む喉を押さえて、沙慈は体を起こした。
ルイスは苦しそうに絶叫し続けている。
沙慈は、慌ててルイスに腕を伸ばした。
「?!!」
振りほどかれたルイスのその左手の薬指に、見覚えのある指輪が光っていることに、気付いた。
それは、自分が肌身離さず首から提げているもののペアリング、あの日ルイスに送った約束の指輪 .
「・・・それ・・・・・・!!」
沙慈が驚きと嬉しさの混じった声を上げる前に、絶叫していたルイスが、突然動きを止めた。
ゆっくりと、糸が切れた操り人形のように、その体が倒れた。
「・・・? ・・・・・・ルイス? ルイ、ス・・・!!」
恐る恐る近づいた沙慈は、見開かれたルイスの瞳孔に、全てを理解した。
もう、ルイスは取り戻せない、帰ってこない .
受け止めきれない喪失感と絶望に、震え出す体を止められず、溢れる涙を止められず、沙慈はルイスの名前を叫んだ。
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