響いた銃声に、思わず瞑ってしまった目を、スメラギは恐る恐る開いた。

  「今度は、外さないよ・・・」
  「・・・・・・どうして、どうして、あなたがここに?!」
  未だに銃を構えたままのビリーに向かって、スメラギは茫然と叫んだ。
  「武器を捨てて投降するんだ。悪いようにはしない」
  「ビリー、どうして・・・・・・?」
  「解らないのか? 恒久平和を実現させるためさ・・・そして、その最大の障害になっているのは君たちだ」
  スメラギは息を呑んだ。

  「・・・イノベイターの支配を受けるというの?!」
  「より優れた存在によって、統率されるのは理論的に考えても正しい選択さ」
  ビリーの言葉に、スメラギは悲しく眉を寄せた。
  ビリーは動じることなく、スメラギに銃を向けたまま説く。
  「それに、人類を導くために生み出された彼らは、我々に何の見返りも求めやしない。理想的な関係じゃないか」
  「それでは自由が失われるわ!!」
  思わず叫んだスメラギの言葉にも、ビリーは動じない。

  「完全なる自由は、モラルの放棄       その先には滅びしかないよ。
   秩序ある社会構造の中、人々は限定された自由を満喫する。
   檻の中で守られた方が居心地がいい・・・・・・それが平和ということだ」

  「そんな!!」

  「戦争根絶を掲げ、その実、世界を乱しているのは君たちだ!
   今はイノベイターに世界を委ねることが、真の戦争根絶に繋がると、何故解らない?!!
   許しあい、人々が求め続けた理想郷が実現しようとしているというのに!!!」


  ビリーの言葉に、スメラギは視線を落とした。
  ビリーの言うことも理解できる。
  だが、どうしてもスメラギの中の何かが、それを拒否するのだ。それを受け入れまいと、頑なに拒むのだ。


  「・・・・・・・・・未来は、私たちで創りださないと意味がないわ。
   過去に犯した過ちを、自分たちで払拭しなくちゃ、本当の未来は訪れない・・・だから      

  スメラギは、ゆっくりと顔を上げた。

  「      私は戦う!!」

  降ろしかけていた銃を、スメラギはもう一度ビリーに向かって構えたのだった。











#24 BEYOND











  トレミーのサブブリッジからの応戦も、これだけの敵機を相手にしていては持ちこたえようがない。
  リンダとイアンは焦りを覚えていた。

  「GNアーチャーが!!」
  「数が多すぎる!!」

  【オートマトンをお願い!!】

  「おい?! 女王!!!」
  サブブリッジを掠めるように、の乗る試作機が前線へと躍り出た。
  機首の機関銃だけで、敵MSを相手にしようというのか      .

  「女王、待て!!!!! おい!!!!!!」

  イアンの止める声を振り切って、は攻撃に曝されるアレルヤとソーマを守るように、前へと飛び出した。











  【外に出る!! トレミーをお願い!!!】
  そう言って、が試作機で宇宙へ飛び出していこうとしている。

  「!! やめろ!!!!!」
  ラッセは向かってくる特攻兵器を撃ち落しながら叫んだ。

  あんな武装で飛び出すなんて、自殺行為だ。
  まだ怪我だって癒えていないのに。
  かつての様には飛べないというのに。

  「えぇいっ!!!」
  オーガンダムで、の援護に向かうという考えが、頭を過ぎった。
  だけより、自分も一緒に戦えば      .

  ラッセの考えを否定するように、オーガンダムのコックピットに警報音が鳴り響いた。
  モニターに、粒子残量が残り少ないことを告げるメッセージが表示される。
  「粒子残量が!!!」
  これではを追うどころではない。
  (くっそぅ! ・・・・・・!!?)

  突如、激痛が走った。
  堪えきれず、こみ上げたものを吐き出していた。


  「体もかよっ・・・!!」
  ヘルメットに、べったりと付着した吐血に、ラッセは荒い息を吐いた。
  機体だけでなく、細胞異常に犯されたこの体も限界らしい。

  オーガンダムは、粒子を使い果たし、その機能を停止した。





















  宇宙空間へ飛び出し、は唇を噛み締めた。
  試作機に装備された機銃では、一発当てただけでは特攻兵器を止めるだけの破壊力がない。
  的確に急所に、それも何発か当てないと、敵機を止めることが出来ない。
  迫る敵機は特攻兵器       捨て身で襲いかかって来る。
  それを避けながら、何発も鉛玉をぶち込む必要がある。
  「だったら!!!」
  は、それを実践した。それしか、出来ることがない。

  だが、数が多すぎる。
  「それでも!!!」
  は引鉄を引き続けた。今は、それしか出来ないから。

  だが、無茶な飛行を続ければ続けるほど、傷を負った部分が眩暈と吐き気を訴えてくる。
  「だとしても!!」
  は試作機を必死で旋回させた。
  頭の中が掻き回されたような不快感を覚える。それでも、必死に操縦幹を握った。

  だが、避けても避けても、敵機はその攻撃を緩めることはない。
  一機避けたと思っても、すぐに別の一機が向かってくる。

  「っ!!!」
  すぐ傍で、特攻兵器が爆発した。
  爆風と激しい衝撃が試作機を襲う。
  また、爆発      .

  「・・・・・・・・・っ・・・」
  翳み始めた視界に、コックピット内を漂う紅い雫が映った。
  傷が開いたか、それとも新に傷を負ったのか      .
  (ラッセ・・・・・・だけど!!)
  浮かんだ不安を押し込んで、は傷だらけの体を酷使して操縦幹を握り続けた。








     >> #24−2








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