響いた銃声に、思わず瞑ってしまった目を、スメラギは恐る恐る開いた。
「今度は、外さないよ・・・」
「・・・・・・どうして、どうして、あなたがここに?!」
未だに銃を構えたままのビリーに向かって、スメラギは茫然と叫んだ。
「武器を捨てて投降するんだ。悪いようにはしない」
「ビリー、どうして・・・・・・?」
「解らないのか? 恒久平和を実現させるためさ・・・そして、その最大の障害になっているのは君たちだ」
スメラギは息を呑んだ。
「・・・イノベイターの支配を受けるというの?!」
「より優れた存在によって、統率されるのは理論的に考えても正しい選択さ」
ビリーの言葉に、スメラギは悲しく眉を寄せた。
ビリーは動じることなく、スメラギに銃を向けたまま説く。
「それに、人類を導くために生み出された彼らは、我々に何の見返りも求めやしない。理想的な関係じゃないか」
「それでは自由が失われるわ!!」
思わず叫んだスメラギの言葉にも、ビリーは動じない。
「完全なる自由は、モラルの放棄 その先には滅びしかないよ。
秩序ある社会構造の中、人々は限定された自由を満喫する。
檻の中で守られた方が居心地がいい・・・・・・それが平和ということだ」
「そんな!!」
「戦争根絶を掲げ、その実、世界を乱しているのは君たちだ!
今はイノベイターに世界を委ねることが、真の戦争根絶に繋がると、何故解らない?!!
許しあい、人々が求め続けた理想郷が実現しようとしているというのに!!!」
ビリーの言葉に、スメラギは視線を落とした。
ビリーの言うことも理解できる。
だが、どうしてもスメラギの中の何かが、それを拒否するのだ。それを受け入れまいと、頑なに拒むのだ。
「・・・・・・・・・未来は、私たちで創りださないと意味がないわ。
過去に犯した過ちを、自分たちで払拭しなくちゃ、本当の未来は訪れない・・・だから 」
スメラギは、ゆっくりと顔を上げた。
「 私は戦う!!」
降ろしかけていた銃を、スメラギはもう一度ビリーに向かって構えたのだった。
トレミーのサブブリッジからの応戦も、これだけの敵機を相手にしていては持ちこたえようがない。
リンダとイアンは焦りを覚えていた。
「GNアーチャーが!!」
「数が多すぎる!!」
【オートマトンをお願い!!】
「おい?! 女王!!!」
サブブリッジを掠めるように、の乗る試作機が前線へと躍り出た。
機首の機関銃だけで、敵MSを相手にしようというのか .
「女王、待て!!!!! おい!!!!!!」
イアンの止める声を振り切って、は攻撃に曝されるアレルヤとソーマを守るように、前へと飛び出した。
【外に出る!! トレミーをお願い!!!】
そう言って、が試作機で宇宙へ飛び出していこうとしている。
「!! やめろ!!!!!」
ラッセは向かってくる特攻兵器を撃ち落しながら叫んだ。
あんな武装で飛び出すなんて、自殺行為だ。
まだ怪我だって癒えていないのに。
かつての様には飛べないというのに。
「えぇいっ!!!」
オーガンダムで、の援護に向かうという考えが、頭を過ぎった。
だけより、自分も一緒に戦えば .
ラッセの考えを否定するように、オーガンダムのコックピットに警報音が鳴り響いた。
モニターに、粒子残量が残り少ないことを告げるメッセージが表示される。
「粒子残量が!!!」
これではを追うどころではない。
(くっそぅ! ・・・・・・!!?)
突如、激痛が走った。
堪えきれず、こみ上げたものを吐き出していた。
「体もかよっ・・・!!」
ヘルメットに、べったりと付着した吐血に、ラッセは荒い息を吐いた。
機体だけでなく、細胞異常に犯されたこの体も限界らしい。
オーガンダムは、粒子を使い果たし、その機能を停止した。
宇宙空間へ飛び出し、は唇を噛み締めた。
試作機に装備された機銃では、一発当てただけでは特攻兵器を止めるだけの破壊力がない。
的確に急所に、それも何発か当てないと、敵機を止めることが出来ない。
迫る敵機は特攻兵器 捨て身で襲いかかって来る。
それを避けながら、何発も鉛玉をぶち込む必要がある。
「だったら!!!」
は、それを実践した。それしか、出来ることがない。
だが、数が多すぎる。
「それでも!!!」
は引鉄を引き続けた。今は、それしか出来ないから。
だが、無茶な飛行を続ければ続けるほど、傷を負った部分が眩暈と吐き気を訴えてくる。
「だとしても!!」
は試作機を必死で旋回させた。
頭の中が掻き回されたような不快感を覚える。それでも、必死に操縦幹を握った。
だが、避けても避けても、敵機はその攻撃を緩めることはない。
一機避けたと思っても、すぐに別の一機が向かってくる。
「っ!!!」
すぐ傍で、特攻兵器が爆発した。
爆風と激しい衝撃が試作機を襲う。
また、爆発 .
「・・・・・・・・・っ・・・」
翳み始めた視界に、コックピット内を漂う紅い雫が映った。
傷が開いたか、それとも新に傷を負ったのか .
(ラッセ・・・・・・だけど!!)
浮かんだ不安を押し込んで、は傷だらけの体を酷使して操縦幹を握り続けた。
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