「大佐、アロウズの旗艦が落ちました!」
  オペレータの報告に、カティは頷いた。

  アロウズを断罪する       元アロウズ大佐、カティ・マネキンは、ソレスタルビーイングの母艦に視線を向け、もう一度頷いたのだった。











#23 命の華











  【敵艦隊を分断させる。MS隊、艦隊中央に攻撃を集中せよ】

  「よっしゃぁ〜!! 任せてください、大佐!!」
  愛しのカティの声に、パトリック・コーラサワーは俄然やる気を出した。
  敵旗艦は既に落ち、ここは"不死身のコーラサワー様"の出番に違いない。
  「行っくぜぇ!!!」
  気合を入れ、コーラサワーはアロウズのMSに突っ込んだ。

  が、旗艦が撃沈されてもアロウズは顕在だった。
  元々、各軍のエリートを選りすぐって作られたアロウズだ。
  旗艦が落ちたくらいで、戦意を喪失したりしない。

  無謀に突っ込んだコーラサワーは、危うく反対に撃墜されそうになって、慌てて操縦幹を引き戻した。
  「ちょっとぉ!!?」
  【・・・アホ】
  「なんだとぉ?!!」
  通信機から聴こえたカイウス・の呆れ声に、コーラサワーは頬を膨らませた。

  そもそも、エリートが集められているはずのアロウズに、最初自分が入っていなかったのは何でだ?
  自分はAEUのエース、7度のガンダム戦を生き抜いた不死身のコーラサワー、だというのに。
  それに、今自分をアホ呼ばわりした、カイウス・が、アロウズに入ってないのは何で       カイウスは本物のエースじゃないから、選ばれなかったということか!!
  俺はカティに、アロウズには関わるなって言われてたから、最初、入隊してなかったんだ。
  ということは、やっぱり、俺様が本当のエース!!! カイウスより、俺の方が凄い!!

  【・・・・・・バカなこと考えてる暇があるなら、攻撃に専念しろって】
  迫るアロウズのジンXを撃ち落し、カイウスが呟いた。


  【来たぞ!!】
  「おぅ!! 任せろっ!!!」
  【おいっ?!! コーラサワー!!!】
  カイウスの声が聴こえたときには、コーラサワーも失敗したと気付いた。
  標的にしたジンXの死角に、もう一機ジンXがいた      .
  (避けきれないっ?!!)

  ライフルを撃たれる直前、ジンXが、突然爆発した。

  【・・・・・・命拾いしたな・・・】
  カイウスの呟きに、コーラサワーは視線を上げた。
  視界に映った機影に、口をへの字に歪める。

  「遅いんだよ、ガンダム!!」

  助けられたにも関わらず、文句を垂れるコーラサワーに、カイウスが苦笑する気配がした。





















  「敵艦隊、分断されていきます!」
  「・・・・・・この戦術・・・」
  フェルトの報告に、スメラギは考え込んでいた顔を上げ、サブブリッジへの通信を開いた。
  「イアン、正面中央の艦隊に攻撃を集中して! 突破口を切り開いて!」
  【了解だ!】
  サブブリッジにいるイアンから、頼もしい返事が返ってきた。

  サブブリッジからの砲撃で敵艦隊を分断する       連邦軍の作戦に加わることをスメラギは指示した。
  指示を出さずとも、状況を把握したマイスターたちも、すぐにアロウズの艦隊へ集中攻撃を始めている。


  【      ガンダムは、母艦の護衛に専念せよ。繰り返す。ガンダムは母艦の防衛に専念せよ】
  ブリッジに突然通信が流れた。

  「連邦軍からの通信です?!」
  「やっぱり! マネキン!!」
  スメラギが思わず声をあげた。
  「・・・無事だった・・・よかった・・・・・・」
  がそっと微笑んだ。

  フェルトが通信回線を繋げた。
  ブリッジの中央モニターに、連邦軍の指揮席に座るカティ・マネキンの姿が映し出された。

  【久しぶりだな、クジョウ】

  この通信に反応するのが、リーサ・クジョウだと分かっていたように、モニターの向こうからカティが呼びかけた。
  対するリーサ・クジョウこと、スメラギ・李・ノリエガは複雑な表情を浮かべた。

  「カティ・マネキン・・・どうして、あなたが      
  【勘違いしてもらっては困る】
  にこりともせず、モニターに映るカティは、ぴしゃりと言った。

  【我々はアロウズを断罪するため、お前たちを利用したまでのこと。この戦いを終えた後、改めて、お前たちの罪を問わせてもらう】

  「・・・カティらしい・・・」
  ぼそりとが呟いた。
  苦笑を浮かべるとは違い、スメラギは厳しい表情でモニターを見つめた。
  (・・・彼女とは、どこまでいっても、分かり合えないのかしら・・・・・・)
  「カティ・・・      
  スメラギが想いを伝える前に、緊急の通信が割り込んだ。

  【全部隊に告ぐ!! すぐさま回避運動をとれ!!】

  ダブルオー、刹那からの通信だった。
  それも、トレミーへの通信ではなく、カティと同じように宙域にいる全てに向けてのものだった。

  回避運動? 何から       驚きと困惑が広がるブリッジの中で、が咄嗟にトレミーの舵を切った。
  艦船では有り得ない、それこそMAでの動きに近い舵の切り方だ。
  MAほどの反応スピードがないトレミーが不安定に揺れた。
  「?!」
  無茶苦茶な操舵に思わず声をあげたラッセの言葉に、再び割り込んだ刹那の通信が被った。

  【来るぞ!!! 攻撃が来る!! 禍々しい光がっ!!!】

  珍しく切羽詰ったような刹那の声に、スメラギは表情を厳しくした。

  突然、月の影から強力な光の線が伸びた。
  あまりに強大なそれは、凄まじいエネルギーの濁流を作り出した。
  ソレスタルビーイングも、カタロンも、連邦軍も、アロウズさえ関係ない。
  その光の道筋にあったものは、容赦なく呑み込まれていく。それだけでなく、近くにいたものも引き込まれていく。
  艦の爆発さえも、その光が飲み込んでしまい、確認することが出来なかった。

  の舵取りがなければ、トレミーもその濁流に引き込まれていただろう。
  これだけ離れているのに充分とはいえないのか、エネルギーに炙られて、トレミーの装甲が損傷を受けている。






  「・・・・・・ひでぇ」
  「・・・・・・・・・」
  目の前に広がる光景に、ラッセが思わず呟いた。
  も眉を寄せた。
  フェルトとミレイナも息を呑んでいる。

  宙域は、デブリが広がっていた。

  かつては戦艦だったものの瓦礫、MSの破片・・・・・・所属など関係なく、元の姿も分からないくらいに爆発し、砕け散ったものが広がっている。
  熱により溶解してしまったものもあるだろう。
  光によって、一瞬に蒸発してしまったものもあるだろう。
  ここに散らばるものには、人間が乗っていたはずなのに・・・・・・


  「・・・各員、被害状況を教えて」
  スメラギの言葉に、はっと皆が我に返った。

  「トレミー、右舷損傷・・・軽微です!」
  ミレイナが答える。

  「ガンダム各機、無事確認」
  も息を吐いた。

  「カタロン輸送艦、一隻轟沈。MSも20機以上が大破した模様・・・アロウズ艦隊、撤退を始めたようです」
  フェルトも報告した。
  それぞれの報告を聞きながら、スメラギは被害状況に冷や汗を拭った。


  「ん? ・・・おい・・・・・・あれは何だ?」
  「え?」
  ラッセの言葉に、スメラギは顔を上げた。

  「スクリーンに出す」
  厳しい表情で、ラッセが"それ"をスクリーンに表示した。
  クローズアップされた月の影に、うっすらとぼやけた様に何かが映っている。
  スメラギは、"それ"を確認しようと身を乗り出した。

  「・・・・・・?!! あれは・・・!!」
  ゆっくりと、光学迷彩が解かれて"それ"が姿を現した。

  巨大な隕石を擬態もかねてそのまま利用したのか、歪な形をした"それ"に、ブリッジは息を呑んだ。
  直径15キロ       その数字が実態を持って、そこにあった。
  表面には数え切れない小型のミサイル穴と、可動式の砲台が見て取れた。

  「これが、やつらの!!」
  「イノベイターの、本拠地・・・」
  「ここに、ヴェーダが・・・・・・」
  スメラギは拳を握り締めた。

  「      その前に、スメラギさん」
  が、勢い込むスメラギを制した。
  通信機を指し示して、片目を瞑ってみせる。
  「      挨拶ぐらい、してもいいんじゃない?」
  「・・・・・・そうね。ありがとう」
  笑ってスメラギは通信回線を繋げた。
  が、この宙域にいる全ての人が聞けるように、周波数を調節する。

  深呼吸してから、スメラギは口を開いた。

  「      各艦に通達します。
   我々ソレスタルビーイングは、これより敵大型母艦に進攻し、そこにある量子型演算システム・ヴェーダの奪還作戦を開始します。
   ここに、これまで協力していただいた多くの方々への感謝と、戦死された方に哀悼の意を表します      

  通信を切ったスメラギが顔を上げた。

  「ラッセ! ! トレミーの針路を敵母艦へ!!」
  「了解!」
  「敵母艦へ進路修正!」
  答えて、も前を見つめた。

  「ヴェーダを奪還!! 最悪、破壊してでも敵母艦の動きを止めるのよ!!」
  【了解】


  「みんな、行きましょう・・・私たちが世界を変えたことへの償いを、そのケジメをつけましょう!
   イノベイターの支配から、世界を開放し、再び世界を変えましょう!!
   未来のために!!!」

  ソレスタルビーイングの皆が、頷いた。


  「ラストミッション、スタート!!」

  トレミーは、敵母艦に向けて、進攻を開始した。








     >> #23−2








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