ブリッジには緊迫した空気が流れていた。
  ガンダムマイスターたちと、スメラギ、フェルト、そして沙慈とソーマが、ブリッジに集まり、スクリーンを見つめていた。

  CZ9842R、ラグランジュ2       ヴェーダがあると情報のあった月の裏側に、異変があった。
  その場所を映し出すスクリーンには、今、多くのアロウズ艦隊が映し出されていた。


  「王留美が指定したポイントに、艦隊が集結している・・・」
  アレルヤの言葉に、ティエリアが頷く。
  「間違いないな・・・あの場所に、ヴェーダがある」
  「イノベイターの本拠地もな」
  厳しい表情をして、ロックオンが呟いた。

  「アロウズ艦隊を突破し、ヴェーダを奪還する」
  「今までにない激戦になるな・・・・・・」
  ティエリアの呟きに、刹那は隣に立つ沙慈に視線を向けた。
  分かっている、と言うように沙慈は顎を引いて頷いた。
  「・・・行くよ。僕の戦いをするために」
  「クロスロード君・・・・・・」
  「決めたんです。もう迷いません」
  困惑したようなスメラギの呼びかけにも、沙慈は真っ直ぐ答えた。

  もう、沙慈の心は決まっていた。
  必ずルイスを取り戻す。
  そのためなら、戦場だって怯まない。

  沙慈の決意を読み取って、スメラギは僅かに眉を寄せただけで、それ以上は止めなかった。

  壁際で皆のやりとりを聞いていたソーマが、徐に口を開いた。
  「私も参加させてもらう」
  「・・・ソーマ・ピーリス・・・」
  アレルヤが控えめに、しかし、はっきりと否定の意味でソーマの名を呼んだ。
  「私にも、そうするだけの理由がある」
  しっかりと前を見据えて言い切ったソーマに、ロックオンが溜息を吐いた。

  「・・・・・・そうだな・・・目的は違っても、俺たちはあそこに向かう理由がある」

  「・・・そして、その思いは未来へ繋がっている       俺たちは、未来のために戦うんだ」

  刹那の言葉にスメラギが嬉しそうに微笑んだ。
  いつの間にか、頼れる存在へと成長した刹那の、皆の姿が頼もしかった。


  刹那の言葉に、ティエリアが頷く。
  「イノベイターの支配から、人類を解放するために!」

  アレルヤも、一歩前へ進み出た。
  「僕や、ソーマ・ピーリスのような存在が、二度と現れない世界にするために」
  ソーマも、黙ってアレルヤの背中を見つめている。

  ロックオンも口を開いた。
  「連邦政府打倒が俺の任務だ。イノベイターを狙い撃つ・・・そして      

  目を伏せたロックオンに代わって、刹那が顔を上げて口を開いた。

  「俺たちは変わる。変わらなければ、未来とは向き合えない」

  「刹那・・・・・・」
  頼もしい刹那の言葉に、フェルトも頷いた。

  皆の言葉を黙って聞いていたスメラギも微笑んでから、表情を引き締めてブリッジを見渡した。
  「補給が済み次第、トレミーを発進させるわ。いいわね?」
  「・・・・・・・・・ああ」
  飄々と肩を竦めて、ロックオンが答えた。


  「・・・でも、今のトレミーには操舵手が・・・?!」
  心配そうに言ったアレルヤの背後で、ブリッジの扉が開いた。
  慌てて振り返ったアレルヤの視線の先で、ラッセが自分に向けて親指を立ててみせた。

  「ここにいるだろ?」

  「ラッセ!! それに、さんも!!」
  「いいのか?!」
  「寝てても仕方ないしね」
  ティエリアの質問に、が肩を竦めて答えた。

  「でも・・・・・・」
  スメラギの言いかけた言葉を遮って、ラッセが、にやりと笑った。

  「仲間外れにするなよ?」
  「ブリッジに入れてくれないんなら、MAで飛び出すけど?」
  も、にやりと笑った。

  二人の顔に、スメラギは苦笑を浮かべた。
  なら、本当にやりかねない。

  「・・・分かったわ。大丈夫なのね? ラッセ、
  「もちろん、いけるぜ」
  「任せといて」
  笑って、二人もブリッジの中へ足を進める。


  刹那は、ぐるりとブリッジを見回した。
  頼もしい仲間たちの顔を見て、刹那は大きく頷いた。

  「・・・・・・行こう。月の向こうへ」

  最後の戦場に向かって、トレミーは針路を定めた。





















  「超望遠光学カメラが、敵艦隊を捕捉したです!」
  「総員、第一種戦闘配備!!」
  「トレミー、全ハッチオープン」











  セラヴィーガンダムのコックピットで、ティエリア・アーデは目を瞑った。
  脳裏に浮かぶのは、嘗ての仲間の姿      .

  「何としてでもヴェーダを取り戻す・・・・・・僕を導いてくれ、ロックオン・・・・・・」

  【アーデさん! 戦果を期待してるです!!】
  ティエリアは目を開いた。映るのは、ヴェーダがある星空      .

  「了解。ティエリア・アーデ、行きます!!」

  いつもと同じ表情で、ティエリアがセラヴィーガンダムを発進させた。











  アリオスガンダムのコックピットで、アレルヤ・ハプティズムはGNアーチャーに乗るソーマ・ピーリスに尋ねた。
  「準備はいいか? ソーマ・ピーリス」
  【・・・・・・マリーでいい】
  「え?」
  一拍おいて返ってきた言葉に、アレルヤは思わず聞き返した。
  怒ったようなソーマの声が通信から流れる。
  【そう呼びたければ、それていい・・・・・・しかし、私は      

  「・・・分かってるよ」
  アレルヤは微笑んだ。
  驚いたようなソーマの気配が伝わってくる。

  アレルヤは顔を上げた。広がるのは、星空の海      .

  「アーチャアリオス、アレルヤ・ハプティズム、ソーマ・ピーリス、目標へ飛翔する!!」

  前を見据えて、アレルヤはアリオスガンダムを発進させた。











  ケルディムガンダムのコックピットで、ロックオン・ストラトスは瞳を閉じた。
  あれから、想うのは彼女のことばかり      .

  【ケルディム、出撃準備完了です!】

  何故、この声がアニューではないのだろう。
  何故、彼女が死ななければならなかったのだろう。

  ロックオンは瞼を上げた。もうここに、彼女がいないのだとしても      .

  「・・・アニュー・・・・・・俺はやるぜ・・・・・・ケルディム、ロックオン・ストラトス、狙い撃つ!!」

  星輝く宙を睨みつけて、ロックオンはケルディムガンダムを発進させた。











  「本当にいいんだな? 沙慈」
  ダブルオーガンダムのコックピットで、刹那・F・セイエイはもう一度沙慈・クロスロードに尋ねた。
  【心配しないでくれ。僕だって、未来を見つけたいんだ】
  返ってきた言葉に、刹那は宙を見つめた。
  全ての歪みを破壊し、そして、変わるために      .

  「・・・了解。ダブルオー、刹那・F・セイエイ、出る!!」
  【オーライザー、沙慈・クロスロード、発進します!!】

  輝く尾を引きながら、刹那と沙慈はトレミーを飛び立っていった。











  「・・・・・・後悔してるか?」
  かけられた言葉に、は首を振った。
  ラッセの隣、この間まではアニューが、その前は自分が座っていた席に戻って来て、は皆の発進を見送った。

  「アタシに今出来るのは、MAに乗ることじゃない・・・そうでしょ?」
  「ああ」
  力強い返事が返ってきて、は微笑んだ。

  こんな時だが、聴こえなくなったのが右耳でよかったと思う。
  不謹慎かも知れないが、それでも、よかったと思う。
  だって、もし聴こえなくなったのが左だったら、今こうしてラッセの右隣に座っていても、彼の声をちゃんと聴けなかっただろうから。

  「アタシが、でいられるのは、MAに乗ってる時だけじゃない・・・そうなんでしょ?」
  「そう言っただろ?」
  どこか照れたように、ぶっきらぼうな言い方でラッセが答えた。
  も微笑んで、視線を前方へ戻した。

  静かな星の輝くこの宙が、今から激しい戦場になる。
  操縦幹を握る手に力を込めた。
  トレミーを守る、何としてでも       それは、MAに乗っていようがいまいが、変わらない。
  だから      .


  「ミッション、スタート!!!」


  スメラギの声が、ブリッジに響いた。








     >> #22−4








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