(・・・・・・・・・ラッセ・・・?)

  目を開けて、映ったものが幻かと疑った。
  何度か瞬きを繰り返すうちに、それが幻でないと理解した。


  「・・・・・・ラ、セ・・・・・・」

  「・・・・・・よぉ・・・」

  左右非対称に顔を歪めて、ラッセが呟いた。

  「・・・平気か?」

  「・・・・・・ゆ、め・・・?」
  「・・・だったら、よかったのにな・・・」

  ラッセが呟く。
  まだ、顔色がよくない。
  その瞳が酷く悲しげで、胸が痛んだ。

  体を起こそうとして、背中と頭に痛みが走った。

  「まだ、横になってた方がいい・・・」

  痛みは我慢できそうだったが、まるで地面が、ぐにゃぐにゃになってしまったように眩暈が酷くて、大人しくラッセの言葉に従った。
  横になると、随分楽だった。


  「・・・仲間に撃たれるなんざ、二度とゴメンだが・・・」

  腹部の傷に触れて、ラッセが視線を向けた。


  「・・・・・・お前が傷つくなんて、一度だって願い下げだ・・・・・・」

  ラッセの顔が歪んだ。


  「・・・それが・・・目覚めてみれば、傷だらけで       まるで死んだみたいに・・・・・・悪い冗談なんじゃねぇかって・・・」

  ラッセは手で顔を覆った。
  ぼんやりと、はそれを見つめていた。


  「・・・なんで、なんで、こんなことに・・・・・・」

  「・・・・・・アタシのせいで、ゴメン・・・・・・」
  「・・・・・・のせいじゃねぇ・・・・・・」

  くぐもった呟きが、ラッセの手の中から零れ落ちた。


  「違う・・・アタシが、ラッセを巻き込んだ・・・アタシが、ラッセを、愛したから・・・・・・」

  は、瞳を閉じた。

  「・・・きっと、罰があたった・・・・・・アタシが父を撃ったから・・・」
  「・・・・・・・・・?」

  「・・・もう、耐えられなかった・・・・・・全て・・・何もかも・・・・・・」
  「・・・・・・・・・・・」

  「・・・アタシだけ、さっさと死んどけばよかったのに・・・ラッセまで、巻き込んで      
  「

  手を握られた感触に、ゆっくりと目を開けた。
  真剣なラッセの瞳が、痛いくらいに見つめている。


  「こんな傷、俺はどうってことない・・・だから、二度と、死んだ方が良かった、なんて言うな。
   もしも、そんなふうに思うことがあったら、俺に話してくれ。何でもいい。いつだっていい。だから      

  「・・・ラッセ・・・・・・」

  「俺が、全部受け止めるから、だから      

  ラッセの顔が、くしゃりと歪んだ。


  「      だから、もう、俺にこんな想いさせないでくれ。・・・」

  「・・・ラ、セ・・・・・・」

  そうだった。
  艦に戻ったら、ラッセに話そうと思っていたことがいっぱいあった。
  全部、全部、話してしまおうと思っていた。
  自分の醜い部分も全て、ラッセに聞いて欲しいと思った。
  知って欲しいと思った。
  そして、まだ知らないラッセのことも、ラッセの口から聞きたいと思った。
  もっともっと知りたいと思った。

  大丈夫だ。
  まだ間に合う。

  だって、まだ二人とも生きてるから。

  語り合える。
  理解しあえる。
  これからが、ある。

  (・・・・・・アタシ、生きてて良かった・・・・・・)

  初めて、心の底からそう思った。


  「・・・・・・ありがと、ラッセ・・・・・・ゴメン・・・ありがと・・・・・・」

  呟いて、は瞼を閉じた。
  握り返した手の温もりが、今はとても幸せだった。





















  刹那は格納庫へと足を進めていた。
  今のトレミーは、ラッセ・アイオンが傷つき、も戦えない。
  そんな中、自分がダブルオーとオーライザーでトレミーを離れるのは、危険だと分かっている。
  しかし、どうしてもラグランジュ5へ行かなければならない。
  行かなければ、この戦いは終わらない      .

  刹那は足を止めた。
  通路の先、ロックオン・ストラトスがいた。

  「・・・・・・ライル・・・」
  刹那の呼びかけに、ロックオンは目を逸らした。
  「ライル、俺は・・・」


  「戦うぜ」


  ロックオンの言葉に、刹那は顔を上げた。
  しっかりと刹那と視線を合わせて、ロックオンが繰り返す。

  「・・・・・・俺は、戦う」

  「・・・・・・分かった」
  目を伏せて、刹那は答えた。

  ロックオンの目に、怒りと、悲しみと、そして絶望があった。


  刹那は、ロックオンの前を通り過ぎた。

  もしも今、ロックオンが銃を抜いて自分の背中に照準を中てたら       だが、ロックオンは引鉄を引かないだろう。
  刹那には確信があった。自分は、今、ここでは死なない       何の根拠もないその確信を、刹那は信じた。






  「俺は、変わる・・・その果てに、何があろうと・・・・・・」

  呟いて、刹那は顔を上げた。


  そこには、ダブルオーガンダムが刹那を見下ろしていた。








     >> #21−5








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