(・・・・・・・・・)
目を開けたとき、眩しさに、一瞬自分がどこにいるのか判らなかった。
狭い、窮屈なコックピットとは違う .
(・・・・・・トレミー、だ・・・)
治療カプセルの中、横になっていることを認識する。
動こうとして、背中に痛みが走った。
(・・・・・・そうだった・・・背中・・・・・・)
イノベイターが乗るオーライザーと戦闘になって、その時に受けた攻撃でコックピットを突き破った破片が刺さって .
(ラッセ!!!!!)
急激に蘇った記憶に、は痛む背中に構わず体を起こした。
足を床に下ろして立ち上がろうとした途端、酷い眩暈と耳鳴りがを襲った。
とてもじゃないが立つことなど出来ず、は床にしゃがみこんだ。
(・・・・・・ラッセ・・・・・・)
何とか、頭だけ上げて、周りを見回す。
怪我をしたなら、この医務室にいるはずだから そして、見つけた。
治療カプセルの中で、青白い顔をして眠るラッセを .
(ラッ・・・セ・・・・・・・・・)
は、呆然とラッセを見つめた。
耳鳴りが、止まない。
規則正しい電子光が、ラッセが生きていることを伝えている。
巻かれた包帯と、人工光に照らし出されて、青白さを増して見えるその顔を、ただ見つめる。
微かに上下する胸と、規則正しい心電図だけが、生きていることを伝えている。
(・・・・・・ラッセ・・・・・・)
耳鳴りが酷くなる。
ここはどこだ? ここは・・・あの部屋じゃないのか?
月明かりに浮かぶ、あの部屋じゃないのか?
これは誰だ? これは・・・あの男じゃないのか?
ただ息をするだけの・・・これは、ラッセだ。
あいつじゃない・・・・・・
(・・・・・・どうして、こんなことに・・・・・・)
耳鳴りが止まない。
どうして、撃った? ・・・・・・・撃たなきゃ、もう、無理だった・・・
殺さなきゃ、殺さなきゃ、殺さなきゃ 誰を? ラッセを?
違う! 違う! あの男だ!! まだ生きてる、あの男を!!!
(・・・・・・アタシが、撃ったから?)
耳鳴りが煩い。
規則正しく点滅する光が鬱陶しい。
白い部屋を、片付けられたその場所を、すべての偽善を、もう全てぶち壊したい。
(・・・・・・だから、ラッセも・・・・・・?)
頭が痛い。
耳鳴りが 触れて、ぬるりとした感触があった。
手が、真っ赤に染まっていた。
誰の あいつの血だ! アタシが撃った、あいつの!!!
「っ!!!!!!!!!」
だから、ラッセがこんな目に合うんだ!!
アタシが、父を撃ったから!! だから、ラッセも同じように撃たれて .
アタシが、父を殺そうとしたから!! だから、ラッセも .
これは報いだ。
自分がしたことへの、報いだ。
父親を撃った、殺そうとした、その因果が、ラッセまでもを傷つけた!!
あいつが生きてることを許せなかった、その傲慢さが、ラッセまでも巻き込んだ!!!
アタシが存在すること自体が、きっとラッセを不幸にした!!!!
アタシが、あいつを撃ったから!!
アタシが、ラッセを愛したから!!
だから、ラッセが、こんなめに !!!!!!
「っ !!!!!!!!」
の叫びが響いた。
「!!? さん!!!」
ラッセとの容態を確認しようと医務室の扉を開けて、アレルヤは息を呑んだ。
慌てて駆け寄るが、はアレルヤの手を払いのけた。
しかし、アレルヤは諦めず、必死でを押さえつけた。
それでもまだ、叫び声を上げながら暴れようとするを押さえつけ、アレルヤはブリッジへの通信回線を開いた。
「誰か!! 医務室へ!!」
【どうされたんですか?!】
フェルトの返答に、薬瓶の割れる音が重なった。
「さんが!!」
【?!! すぐ行きます!!】
異常を感じ取ったのだろう、緊迫したフェルトの声が答えた。
アレルヤは、必死で暴れるを押さえつけていた。
「負傷と、精神的ショックによる一時的な意識混乱のようです。鎮静剤を投与したので、大丈夫だと思いますが・・・」
治療用のカプセルに横たわり、静かに眠るを見つめながら、フェルトが心配そうに呟いた。
「さん・・・・・・」
「精神的ショック・・・・・・」
アレルヤと、フェルトとともに駆けつけたスメラギも、心配そうにを見つめた。
「・・・おそらく、ラッセさんのことが・・・・・・」
そう言って、フェルトは目を伏せた。
「・・・自分のせいだと・・・さん、ずっと叫んでました・・・・・・」
アレルヤも悲しげに呟いた。
何度も何度も、喚くの悲鳴が、今も耳に残っている。
「・・・・・・怪我の方は、どうなの?」
スメラギの問いに、フェルトは首を振った。
「疑似GNドライブの影響かと・・・・・・再生治療を受け付けなくて・・・・・・」
「そう・・・・・・」
「傷痕が残ると思います・・・右耳は・・・・・・・・・」
フェルトが辛そうに唇を噛み締めた。
「分かったわ、フェルト・・・・・・ありがとう」
スメラギの言葉に、フェルトはただ首を振った。
もっと早くに、怪我のことを気付いていれば・・・
せめて、ブリッジでシステムの復元をしていた時に気付いてれば・・・・・・
浮かぶのは、後悔ばかりだ。
「・・・さんは、もう・・・・・・」
「そうね・・・・・・難しいでしょうね・・・・・・」
スメラギは、小さく溜息を吐いて頷いた。
が、かつての"女王"のように飛ぶことは、ない。
彼女にとっては、その方がよかったのかも知れない だが、そんなことを言えるはずがなかった。
そんなこと、絶対に・・・・・・
Photo by Microbiz