「艦内のシステムチェックのため、一時的に電源をカットします」
トレミー内に放送を流し終えたフェルトに、スメラギが頷く。
それを確認して、フェルトは艦内の電源を遮断した。
再構築したシステムが、次々とコンプリートされていく。
フェルトはその画面を見つめて、ぐっと唇を噛んだ。
(・・・・・・さん・・・・・・・・・)
の構築したシステムが、なんの問題もなく再起動していく。
今回のことで、の凄さを見せつけられた気がした。
彼女は消去されたシステム全体の1/3以上を、自分の半分以下の時間で復元させたのだ。
到底平常心ではいられなかったはずなのに、完璧に。
「・・・チェック終了、通常電源に復旧するです」
全てのチェックを終えたミレイナが報告し、暗かったブリッジの照明が、通常のものへと切換る。
だが、何もかも通常通りに戻ったわけではない。
この数ヶ月、その席に座っていたアニュー・リターナーはもういない。
・も、いない。その席は今、虚しく空いている。
ラッセ・アイオンが座っていた席も、今は代わりにティエリア・アーデが座っている。
「操船システム、回復。オールグリーン」
ティエリアの報告に、スメラギは内心で安堵の息を吐いた。
「ミレイナ、敵艦隊は?」
「有視界領域にはいないみたいです」
「油断は出来ない。この前のように卑劣な手段を使ってこないとも 」
「ティエリア」
ティエリアは言いすぎたと口を閉ざした。
仲間だと信じていたアニュー・リターナーの造反によって、トレミーは危機にさらされた。
トレミーの航行・戦闘システムが消去され、オーライザーが損傷を受け、ラッセが撃たれ、も重傷を負い、そして、アニュー・リターナーが死んだ。
誰に、どこに、この憤りをぶつけていいのかが分からない。
造反したアニュー? それを操っていたイノベイター? アロウズを台頭させた世界? その歪みを生み出した、自分たち自身?
仲間を失い、傷つけられた喪失感と、どこにもぶつけられない憤りだけが、胸の中を渦巻いている。
それらを抱え込んだまま、自分たちはどこへ向かえばいいのだろうか .
フェルトは、そんなことを思いながら、回復したモニターの隅に、メッセージを見つけた。
「・・・・・・スメラギさん、システムダウン時に、緊急暗号通信が届いていたようです」
「内容は?」
「宙域ポイントが書かれているだけです・・・ポイントは、ラグランジュ5、建設中断中のコロニー、エクリプスです」
このメッセージが、自分たちを最終戦へと導くことを、このときはまだ誰も知らない。
「私に艦の操舵をやれだと!!?」
ソーマの剣幕にひるむことなく、アレルヤは頷いた。
「ラッセが負傷している。それに、さんだって・・・・・・」
「だからと言って、何故私が!!?」
「誰かがトレミーを守らないといけないんだ」
アレルヤの言葉に、ソーマは唇を噛み締めた。
「・・・私を戦場へ出させない気か?!」
「スミルノフ大佐と、約束したんだ。お願いだ、僕の言うことを 」
「聞けるはずがない!!」
叫んで、ソーマは背を向けて出て行こうとする。
「ソーマ・ピーリス!」
その腕を、アレルヤは慌てて掴んだ。
脳裏に浮かんでいたのは、大破したGNSの姿だった。
コックピットを染めた赤色だった。
ソーマ・ピーリスと・ ずっと、どこか似ていると思っていた。
どこが似ているのか、先の戦いでアレルヤは気付いた。
アレルヤ自身も、もしかしたら、そうなのかもしれない。似ているかもしれない。同じなのかもしれない。
想いの強さ、抱え込んだ罪の意識、求める幸せ、受け入れらない平穏、限界を求める生き方、低い自己愛、自傷行為にも似た犠牲精神 似ていると思った。
だからこそ!! のあんな姿を見てしまったからこそ、アレルヤはソーマを戦場にもう出したくないと、その想いを強くしたのだ。
「そんな戦い方を続ければ、いつか君も・・・・・・」
振り払われた腕を、アレルヤは再び掴むことが出来なかった。
言いかけた言葉を、最後まで言うことが出来なかった。
ソーマの瞳はアレルヤを睨んでいた。それ以上言うなと .
宙に散った涙が語っていた。分かっていると .
だからアレルヤは、出て行くソーマを、それ以上引き止めることが出来なかった。
「ラグランジュ5へ行く? ポイントしか送ってこなかった相手に、答えるというのか?」
ティエリアの言葉に、スメラギは困ったように頷いた。
「気になるのよ・・・それに、刹那がどうしてもって・・・」
「刹那が?」
【ワシも賛成だ】
「イアン・・・」
ドックでガンダムを修理しながら会話を聞いていたイアンが、モニター越しに返答した。
【ラグランジュ5では、避難したリンダたちが研究を続けている。うまくいけば、提案していた新装備も手に入る。向こうに着くまで、ガンダムの補修も出来るしな】
「それに 」
フェルトも、スメラギの背後で口を開いた。
「 さんとラッセさんの、回復の時間に充てることが出来ます・・・」
「今のブリッジは寂しすぎるです!」
ミレイナも口を揃えた。
ティエリアは溜息を吐いて、頷いた。
「・・・了解した」
「・・・・・・トレミーは迂回して、敵の目を引きつける。その間に、通信者との接触を試みましょう」
顎に手を当てて、スメラギがプランを口にする
(・・・・・・ さん・・・・・・)
真っ赤に染まっていた の姿を思い出して、フェルトは、ぎゅっと目を瞑った。
「ラグランジュ5までは数日かかるわね・・・・・・フェルト、すぐに刹那とクロスロード君に発進の要請を」
「はい・・・・・・」
スメラギの指示に、フェルトは目を開けた。
それでも、瞼の裏に浮かんだ血まみれの の姿は、なかなか消えてくれなかった。
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