「アニュー」
ライルの声に、俯いていたアニューが顔を上げた。
涙を溢れさせながら、ライルを見つめる。
【・・・ライル・・・わたし・・・わたしは・・・・・・】
ヘルメット越しに、アニューは自分の唇に触れた。
アニューは、心を決めた。
自分がいるべき場所は、いたい場所は .
アニューは、ゆっくりと、操縦席から腰をあげた。
手を差し出すケルディム、ライルの方へ .
【・・・・・・愚かな人間だ】
「アニュー?」
アニューらしくない物言いに、ライルは一瞬戸惑った。
それでも、アニューは戻ってくると信じて、ライルは微笑を浮かべて、手を伸ばし続けていた。
「?!! うわっ!!!!!!?」
しかし、それは裏切られた。
動きを止めていたはずのイノベイター機が、いきなりケルディムに切りかかったのだ。
今までのアニューの動きとは違う、容赦ない攻撃に、ケルディムはどんどん追い詰められていく。
「アニュー!!!!!」
【イノベイターは、人類を導くもの・・・】
しかし、ライルの声は届かない。
ライルには、目の前にいるのがアニューだとは思えなかった。
これは、別の誰かだ。アニューじゃない! アニューがこんな顔をするわけがない!!
しかし、アニューは冷酷な薄笑いを貼り付けたまま、ケルディムに容赦ない攻撃を繰り返している。
【・・・そう、上位種であり、絶対者だ。人間と対等に見られるのは、我慢ならないな・・・力の違いを見せ付けてあげるよ・・・】
「やめろ・・・やめるんだ、アニュー!!!」
もう、ライルは戦えなかった。
ケルディムが大破したからだけじゃない。
もう、アニューとは戦えなかった。
「アニュー!!!!!!」
とどめの一撃を見舞おうと突っ込んでくるアニューに、ライルは叫ぶことしか出来なかった。
ライルは、死ぬことを覚悟した。
納得は出来ない。だが、自分はアニューを殺せない。だったら .
向かってくるアニューを、必死の想いで見つめていたライルの、時間が止まった。
一瞬、何が起こったのか、理解できなかった。
隣を、ダブルオーライザーが駆け抜けて行き、アニューの機体が、まるで力を失ったかのように、ケルディムの腕の中に倒れこんできた。
その瞬間、粒子がライルを包み込んだ。
腕の中、きつく抱きしめたその存在が、とても愛しかった。
ずっと、このまま .
「ライル・・・・・・あたし、イノベイターでよかったと思ってる」
「な、なんでだよ・・・?」
驚いて、腕の中の顔を覗きこんだ。
どうして、そんなこと .
「・・・そうじゃなかったら、あなたに会えなかった・・・この世界のどこかで、すれ違ったままになってた・・・」
再び抱きしめて、その可能性を考えてみた。
だけど、それはきっと .
「・・・・・・いじゃねぇか・・・それで生きていられるんだから」
それはとても、寂しいことだけど 微笑んでみせたが、すっと彼女が腕を伸ばして頬に触れてきた。
「あなたがいないと、生きてるハリがないわ・・・」
「アニュー・・・・・・」
優しく微笑んだ、その顔が、とても綺麗だった。
本当に、いい女だ .
正面から見詰め合って、改めてそう思う。
最高の女性だ その微笑が、少し寂しそうに歪んだ。
「・・・・・・ねぇ、私たち・・・分かり合えてたよね?」
その言葉に、驚きを隠せず そうして、しっかりと頷いた。
「あぁ・・・もちろんだとも・・・」
その言葉に、彼女が優しく微笑んだ。愛おしい .
「・・・・・・よかった・・・」
呟いて、彼女は満足そうに目を閉じた。
本当に、俺は君のことを .
「!!?」
腕の中の機体が放電を繰り返しながら、最後の力を振り絞るように、ケルディムの肩を押した。
まるで、自らの爆発に巻き込まないように .
「!!!!!!!!!!!」
力の限りに叫んだライルの声は、彼女に届かなかった。
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