イノベイターの専用機が3機と、新型のMAが1機、真っ直ぐトレミーへ向かってくる。
  こちらはガンダム3機と、GNSだ。

  【敵は少数だが、MAがいる。前のとは違うタイプか・・・】
  ティエリアの声が通信機から聴こえた。

  その新型のMAの中央、大型砲が熱を持つ。

  【来る!!】
  アレルヤの言葉とほぼ同時に発射されたビームを、それぞれが散開して回避しようとする。
  しかし、それはすぐに驚きに変わった。

  【粒子ビームが!!?】
  【曲がった?!!】

  通常、直進しかしないはずのビームが、途中で角度を変えて向かってきたのだ。

  は、すぐさま左へ舵をきった。
  頭の中で痛覚が反応するのを押さえ込む。

  ビームは、またもや角度を変えてGNSに迫ってくる。
  機首を下に向け急旋回。数メートルの差で、ビームとすれ違う。
  酷くなる痛みに、は僅かに顔を顰めた。


  【く!! この威力は!!!】
  向かってきたビームをセラヴィーのGNシールド受け止めたティエリアが呻いた。

  【!? この攻撃、やられる!!】
  【させるかぁ!!】
  向かってきたビームをかわしきれず叫んだアレルヤに、ソーマの声が重なった。
  アリオスにドッキングしていたGNアーチャーが離脱する。その反動で、アリオスは何とかビームをかわしきった。

  ロックオンも、シールドピットで向かってきたビームを防いでいた。
  そのケルディムに、イノベイター機が切りかかった。

  【アニュー!!!】

  ロックオンの声が響いた。
  ケルディムに切りかかったイノベイター機に、アニュー・リターナーが乗っていることに、皆が気付く。


  【あっははははは!!】

  耳障りな笑い声が通信から流れ出す。

  【劇的な再会よね・・・愛した女はイノベイターで、自らの敵       まさに、命がけの恋ってやつだね!!!】

  アニュー機と戦いながら、ケルディムが徐々に戦闘宙域から離されていく。


  【くっ!! このビーム!!!】
  再び新型MAから発せられたビームが、残った機体を襲う。

  は再び、操縦幹を捻った。
  反応した機体が、すぐさま向きを変える。

  またもや角度を変えたビームが、GNSへと向かってくる。
  ギアを入れ替えて、かわそうとした瞬間、限界をこえた負荷に再び激痛が走った。
  それでも、ロールしながら、は風に舞う木の葉のように、何とかビームを避けた。

  (・・・・・・・・・っ、ちっくしょう・・・)

  頭の中で、自分の脈打つ音がガンガン響いている。
  それ以外のことが分からなくなりそうで、は必死で操縦幹を握る手に力を込めた。


  【突破口を開く!! ハイパーバーストモード!! 高濃度圧縮粒子、開放!!】

  どこか遠くで、ティエリアの声が聴こえた。
  宙が一瞬光に溢れ、すぐに消えた。

  【ば、馬鹿な!!? ハイパーバーストが・・・・・・!!】

  通信機から、微かに爆発音が響く。

  【ティエリア!!】

  セラヴィーが被弾したらしいことを知る。
  再び、何かが剥がれるような音が響く。

  【よくも!!!】

  ソーマの声が微かに聴こえた気がし       目の前で光が弾け、は直感だけで、操縦幹を押し込んでいた。





















  「何故だ!!!? 何故、俺たちが戦わなければならない!!!」
  【それはあなたが人間で、私がイノベイターだからよっ!!!】

  そんな理屈、分かるものか!! 分かってたまるか!!!!       そう思いながら、ロックオンはミサイルを放った。

  ケルディムもアニューの乗る機体も、すでにどちらもボロボロだった。
  アニューの放った攻撃の衝撃に歯を食いしばって、ロックオンは叫んだ。

  「分かり合ってた!!」
  【偽りの世界でね!!!】

  なんだそれ!! なんだよ、それは!!!       アニューの言葉に、ロックオンの中で何かが切れた。

  「嘘だというのか?! 俺の思いも、お前の気持ちも!! ・・・なぁらよぉ!!!!!!!」

  叫んで、ロックオンはトランザムを発動させた。

  アニューの反応速度を超えて、ロックオンは何度も銃を構えた。
  一撃で狙えるのに、あえてそうせず、ロックオンはまずイノベイター機の頭部に向かって攻撃を放った。続いて、機体の片側だけに攻撃を集中させる。
  アニューが反撃する余裕も与えずに、ロックオンは一方的に攻撃を加えた。
  ただし、搭乗者であるアニューを傷つけないように細心の注意を払って       ロックオンは全ての銃口をアニューに向けた。

  (・・・・・・アニュー・・・俺は・・・・・・)

  戦闘不能の機体にとどめを刺す       その段になって、ロックオンはトランザムを解除した。


  【・・・・・・・・・ライル・・・?】
  訝し気なアニューの呼びかけに、ロックオンは眉を寄せた。


  (・・・・・・そうだ。自分で言ったじゃねぇか・・・・・・どうして、俺たちが戦わなきゃいけないのかって・・・・・・・・・そうだよ・・・その通りだ!!)

  腹は決まった。

  自分は、ロックオン・ストラトスだが、アニューの前ではライル・ディランディだったのだ。
  だったら、今だって       !!!
  ロックオン、いや、ライルはアニューに突きつけていた銃を放り捨てた。
  こんなもの、二人の間に必要ない。


  ライルは、アニューの乗る機体のコックピットの開閉部分に、ケルディムの手をかけた。
  ググッと操縦幹を押し込めば、先の攻撃で、大分弱くなっていたらしい装甲は、ゆっくりとひしゃげていく。

  【な、なにを!!?】
  戸惑うアニューの声に、ライルは、にやりと笑みを浮かべた。

  「決まってんだろ!! もう一度、お前を、俺の女にする!!」

  ライルからアニューを隔てていた装甲が、剥がれ落ちた。
  やっとアニューがライルの前に現れた。

  自分の言葉に目を丸くしているアニューは、見慣れたいつもの彼女で、ライルは笑みを濃くした。
  イノベイターだろうが、なんだろうが、アニューは、アニューだ。

  「イヤとは、言わせねぇ!!!」
  【ラ、ライル・・・・・・】
  「欲しいモンは奪う・・・例えお前が、イノベイターだとしても」
  【・・・・・・・・・ライル・・・】

  アニューが涙ぐむのが見えた。

  大丈夫。俺たちは、分かり合えてる       ライルは、ケルディムの腕を、アニューに向かって差し出した。

  「アニュー、戻って来い!」

  大丈夫。俺たちは、この世界でちゃんと分かり合えてる       ライルは、優しく微笑んで、アニューに手を伸ばした。





















  (・・・・・・・・・っ、ちっくしょう・・・)

  頭の中で、自分の脈打つ音だけがガンガン響いている。
  気を抜けば、痛みで霞みだす視界で、は懸命に戦場を駆けた。

  アリオスが損傷している。
  セラヴィーも新型のMAに苦戦している。
  GNアーチャーは、上空でイノベイター機と交戦中だが、こちらも押されている。

  は、直感だけで再び迫ったビームを避けた。
  もう、ほとんど感覚がない。
  体に染み付いたやり方だけで、宙を飛び、引鉄を引いている。

  イノベイター機が、突破を図った。
  向かう先はダブルオー、トレミーだ。

  (・・・・・・ラッセ!!!)

  その想いだけで、引鉄を引く。
  大丈夫、まだ、この手は引鉄を引ける       放った弾丸が、イノベイター機の行く手を阻む。

  阻まれた敵機が憤慨したように、に向かってランチャーを向ける。
  放たれる光を、ほとんど反射でかわす。

  (・・・・・・まだ・・・まだ、だ・・・・・・!)

  頭の中で反響する心音が、煩わしい。
  さっきから、意識が呑み込まれそうになるのを、必死で堪えている。
  気を抜けば、すぐに塗りつぶされてしまいそうで、は必死で操縦幹を握る手に力を込めた。


  そうしているうちに、GNアーチャーと交戦していたイノベイター機も、トレミーへと進路を変えた。

  (・・・・・・行かせないっ      !!?)

  その機体に向けて引鉄を引こうとした瞬間、は自分の指が震えだすのを感じた。
  とっくに限界を超えた痛覚のせいか、それとも      .

  (どうしてっ・・・・・・!!?)

  もう、自分でも、脳から指に引鉄を引けと命じているのか、引くなと命じているのか分からなかった。
  そして、気付いた。

  (       !!アタシは、本当は・・・・・・)


  【
さん!!!】
  (?!!)

  背後に注意を向けたときには、新型のMAがすぐそこまで迫っていた。
  避ける間もなく、電磁拘束ムチが迫っていた。

  【!!!】

  「ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

  (       ラッセ・・・・・・)

  トレミーへ向かうイノベイターの機体と、トレミーから緑色の光が溢れ出すのを、霞んでいく視界が捉えたような気がした。
  だが、それを認識する前に、頭の中で一際大きく、何かが弾ける音がした。

  それっきり、の意識は暗転した。








     >> #20−goodbye LOVER








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