「アジトへ戻る間に、エクシアのマッチングテストを行う」
「シミュレートでは、エクシアはオーガンダムの太陽炉と連動率が高かったはずだが?」
イアンの言葉に反応したティエリアの疑問に、パネルを操作しながらが軽い口調で答える。
「シミュレートはシミュレート。他の太陽炉でも80%の稼働率を越えてないし、ね」
「実際に試してみなけりゃわからんさ・・・トランザムとともにイオリア・シュヘンベルグから送られてきた新たなガンダムの理論。
机上の空論か、二百年後の科学水準を見越しての予見か 」
「二つの太陽炉を同調させて粒子生産量を二乗化する。これが、ダブルオーのツインドライブシステム 」
イアンの言葉をが補足する。
軽やかにキーを叩いていた手を止めて、はイアンとティエリアを振り返った。
「さ、それでは早速、始めましょう」
ロック解除の証に点灯がグリーンに切換り、扉が軽やかな音とともに開いた。
「お食事持ってきたです! 赤ハロも置いていくです、データベースも閲覧できるです!!」
明るく言うミレイナだが、部屋の中にいる青年は大して反応を示さない。
(・・・・・・そりゃ、まぁ当然だろうが・・・・・・)
刹那がプラウドから連れてきた青年 沙慈・クロスロードという名の彼は、刹那が4年前に潜伏していた日本でお隣さんだったらしい。
プラウドに置き去りにするわけにもいかず、今はトレミーで保護しているのだが 本人のためを思って連れてきたのだろうが、どうやら彼は自分の置かれている状況の重大さが分かっていないらしい。
「・・・・・・・・・僕を、どうするつもりですか?」
ラッセは溜息を殺して、出来るだけ淡々と返事をした。
「お前はアロウズに目をつけられた」
「 っ!? 僕はカタロンなんかじゃない!!」
「向こうもそう思ってくれればいいがな」
息を呑んで、彼はそれでもラッセを睨んだ。
「あなたたちは、また武力介入を行うつもりですか!?」
「いいや、アロウズを叩く」
「連邦軍を?!」
「その政府直轄の独立部隊だ。やつらは既に14件もの鎮圧という名の虐殺を行った。被害は数万人規模だ。
その情報はすべて揉消されている。お前も、やつらのやりかたは味わったはずだ」
自分の身に降りかかった出来事を思い出したのだろう。
彼は悔しそうな顔をしたが、それでも負けまいとラッセに食ってかかった。
「だから・・・何です?! 連邦政府はあなたたちの武力介入がもとで出来たんじゃないですか?!!」
「だから、ケジメをつけるのさ」
信実を告げても、彼は納得しない。噛み付くように、ラッセに牙をむく。
「戦えば、また罪のない人が傷つく!!」
「戦わなくても人は死ぬ」
ラッセの言葉に、とうとう青年は口を噤んだ。
「・・・・・・アイオンさん、もうすぐテストが始まるです」
気まずい雰囲気を気にしたのか、ミレイナが太陽炉のマッチングテストのことを口にした。
話を切り上げるタイミングだと判断して、踵を返した。
「・・・・・・刹那は?」
青年の問いに、ミレイナが笑顔を浮かべた。
本来の明るい声と、人懐っこい笑みを浮かべて返事をした。
「人を迎えに行ったです」
「俺らの、仲間をな」
ラッセも抑えきれない笑みを浮かべて、扉を閉めた。
「何故だ、何故安定しない!!? 何が足りないというんだ!!?」
「70%は行くんだけどね・・・・・・今までの最高だけど、安定領域には届かない・・・」
髪の毛を掻き毟るイアンにが淡々と告げる。
「トランザムで強制的に機動させれば 」
「そんなことしたら、オーバーロードして最悪自爆だ!!!」
イアンに喚くように遮られて、ティエリアは不満そうに眉を寄せる。
「ならば、システムの再点検を 」
「やるわよ。やりますよ・・・・・・・・・絶対完璧だけど」
に、ぎろりと睨まれて、ティエリアは不満そうに口を閉ざす。
メカニックとしてもシステム開発者としても、イアンもも信頼に価する。
その二人が完璧だというのなら、間違いないのだろうが、ツインドライブシステムが机上の空論では困るのだ。
「・・・・・・・・・お願いする」
結果、ティエリアはそれだけを言葉にした。
イアンが頷き、も片手を挙げて了解の意を伝える。
マッチングテストが終了し、各々が出て行こうとしたところで、フェルトがに声をかけるのが、ラッセの目にとまった。
(・・・いい加減、俺も諦めが悪い、というか何というか・・・・・・)
先日来、態度の冷たくなったを未練たっぷりに、ついつい目で追ってしまっている自分に、ラッセは苦笑を浮かべた。
今も気付けば、の姿を無意識に視界に入れてしまっている。
「さん、最近、疲れてませんか?」
フェルトの言葉に、一瞬驚いた顔をしてから、が僅かに笑みを浮かべた。
「・・・そんなこと、ないつもりだけど?」
ここ最近が貼り付けていた"笑顔"とは違っていたが、フェルトは引き下がらない。
「・・・・・・最近ちょっと・・・焦っておられるような気がして・・・」
フェルトの言葉に、は愕然と言葉を失ったようだ。
「〜〜〜〜〜参った。降参・・・・・・・・・」
溜息をついて両手をあげるジェスチャーをして、は苦笑いを浮かべた。
「フェルトに心配かけるようじゃダメね、アタシ・・・」
「そうじゃなくて !」
笑って茶化そうとしたをフェルトが遮った。
「・・・もっと頼って欲しいんです。私も頼ってばかりじゃなくて、もっとみんなの力になりたいんです!!」
「・・・・・・ありがとう、フェルト」
必死に想いをぶつけたフェルトに、が頷いた。
「・・・確かに、思い当たることは、ある・・・・・・けど、大丈夫。平気だから」
「いえ・・・・・・私も出過ぎたことを 」
そう言って慌てて頭を下げようとしたフェルトをは制した。
「サンキュー、フェルト。アタシ、結構フェルトのこと頼りにしてるんだから、ね?」
そう言って、は鮮やかな笑顔を浮かべた。
(・・・・・・マズイな・・・ますます惚れるだろうよ?)
自分に向けられた笑顔でもなかったのに、ラッセは思わず見惚れてしまった。
(・・・・・・諦められる、自信がない・・・)
ラッセは苦笑を浮かべた。どうやら自分は、すでに重症だったようだ。
ラッセは、とうとう天井を仰いで溜息を吐いた。
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