激しい接近戦を繰り返し、ティエリアはイノベイターの機体 ガデッサに、嬉しさを隠せなかった。
「その機体、やはり接近戦が得意ではないらしい!」
【君の機体ほどじゃないさ。火力ばかり優先して】
組み合った機体から聞こえる声に、ティエリアは僅かに笑みを浮かべた。
「それはどうかな・・・・・・トランザム!!」
叫ぶと同時に、ティエリアはトランザムを発動させて、ガデッサを引き剥がした。
すぐさま、セラヴィーの背後から、隠されていたもう一組の腕を出現させた。
接近させまいと撃ってきたガデッサの攻撃をすべてGNシールドで防いで、セラヴィーは剣を引き抜いたその腕で、がっしりと掴みかかった。
【馬鹿なっ!!】
焦ったような声が聴こえた。
間をおかず、ガデッサの背中のバックパックが機体を離れて、緊急脱出していく。
「逃がさん!! セラフィム!!!」
ティエリアは、セラヴィーの隠されたもう一つの姿を起動させる。
セラヴィーを脱ぎ捨てて、セラフィムを繰って、ティエリアは逃れていこうとするバックパックを抱え込んだ。
腕の中に捕獲したバックパックから、それ以上イノベイターが逃れられないのを確認して、ティエリアは告げた。
「君には訊きたいことがある。答えてもらうぞ、イノベイター!!」
作戦目的を無事達成したことに満足していたティエリアは気付けなかった。
腕の中のバックパックで、イノベイターが秘かに笑っていたことに .
【准尉を、離せ!!】
ルイスが乗るアヘッドを庇うように突っ込んできた機体が、ダブルオーに向けてマシンガンを連射する。
離れていくルイスに、焦る沙慈だったが、刹那が無常にも時を告げる。
【トランザムの限界時間だ!】
「ルイス!!!!!!」
叫ぶ沙慈を裏切ってダブルオーのトランザムが終了した。
遠ざかっていくルイスのアヘッドに、沙慈は手を伸ばした。
届かないと分かっていても、沙慈にはルイスの名前を叫ぶことしか出来なかった。
「そこにいたかぁ!! アンドレイ少尉!!!」
ソーマの乗るGNアーチャーが振り下ろした剣は、背後からだったにもかかわらず、機敏に振り返ったアヘッドの剣にしっかりと受け止められた。
「何故だ!? 何故、大佐を殺した?!!」
ソーマは想いを叩きつけていた。
ずっと胸の中で燻り続けた問いに、通信機の向こうで、アンドレイ・スミルノフ少尉が息を呑むのが感じ取れた。
【・・・ピーリス中尉?! 何故生きて!!?】
「答えろ!!!」
呆然と呟かれた言葉に、ソーマは叩きつけるように叫んだ。
この胸の中で燻り続ける問いに、明確な答えを得ないままでいるわけにはいかない。
何故、彼は大佐を殺したのか?
どうして、実の父親を殺すようなことが出来るのか?
何故、大佐は死ななければならなかったのか その答えがソーマには必要だった。
【・・・・・・・・・あなたも、裏切り者かぁ!!!】
返ってきた言葉に、ソーマはGNアーチャーの腕を振り上げた。
「貴様が言うセリフかぁ!!!!!!!」
叫んで振り下ろした腕は、またしてもアヘッドに受け止められた。
【マリー!!】
先程まで、まるで別人のようだったアレルヤが、アヘッドと剣を交えているGNアーチャーのもとへ駆けてきた。
【またしても増援が・・・! 撤退するぞ、准尉!!】
状況を不利と見て取ったアンドレイが、庇うようにもう一機のアヘッドを引っ張って、撤退を計ろうとする。
「はぁぁぁぁ!!!」
【もうよすんだ、マリー!!】
追いかけようとしたGNアーチャーの前に、アリオスが飛び込んだ。
アンドレイを撃つことだけを考えていたソーマは、頭に血が上るのを感じた。
「邪魔をするな!!! 私は、大佐の仇を!!!!!!」
【やめろぉぉぉぉ!!!】
響いた怒声に、ソーマは動きを止めた。
【・・・もう、やめてくれ・・・・・何も変わらない・・・仇を討っても、誰も生き返ったりしない・・・・・・悲しみが増えるだけだ・・・】
声はとても悲しく響いて、ソーマは黙って瞳を閉じた。
【・・・・・・こんなことしてたら、みんな、どんどんおかしくなって、どこにも、行けなくなる・・・・・・】
アロウズが撤退し、静かになった宙域に、沙慈の悲しい呟きが響く。
撃墜した機体の破片が漂うのをぼんやりと見つめながら、はその声を聴いていた。
【・・・・・・前にすら、進めずに・・・・・・】
宙域にいる皆が、沙慈の声を黙って聴いていた。
は、ぎゅっと自らの手を握り締めた。
「・・・・・・知ってる・・・そんなこと、分かってる・・・それでも、アタシは・・・・・・!!」
( なのに、どうして?! どうして撃てなかったの・・・?!!)
掌に突き刺さる爪の感覚に、この手が自分のものだと、は確認する。
今まで躊躇いなく引鉄を引けていた、自らの手。
そして今日、トレミーを、ラッセを守りたいと思っていたにもかかわらず、引鉄を引くことが出来なかった、自らの手 .
は、ぎゅっと目を瞑った。
本当は、耳も塞いで、今は誰の言葉も聞きたくなかった。
だけど、は、沙慈の言葉を聴くことが義務のような、ソレスタルビーイングにいるための免罪符のような、そんな気がして、黙って目の前の闇を感じ続けていた。
Photo by Microbiz