【総員、敵MS部隊に対して、戦術プランS43で迎撃準備。敵は12機・・・おそらく増援が出てくるでしょうね。みんな、油断しないで】
  【了解】
  スメラギの指示に、出撃した仲間たちの声が聴こえた。

  「了解」
  刹那も答えて、オーライザーに乗る沙慈に声をかけた。

  「沙慈! ルイス・ハレヴィに会いに行くぞ!」
  【ああ!】
  力強い沙慈の返答が返ってきた。
  刹那も頷いて、操縦幹を握る手に力を込めた。

  「ダブルオーライザー、先行して、敵部隊を叩く!」
  告げて、敵部隊の中へ突っ込んでいく。

  「彼女の機体を探せ!!」
  【あ、ああ!!】
  戸惑いながらも、しっかりとした沙慈の返事が返ってきた。
  刹那は、ダブルオーライザーを駆り、向かってくる敵機を次々と撃破し続けた。

  「       ?!!!」

  瞬間、刹那は回避運動を行った。
  先ほどまでダブルオーライザーがいた空間を、ビーム砲が貫いていく。
  向かってくる新型MS       間違いない。あの機体だ。

  「イノベイターの機体を捕捉した! ティエリア!!」
  【了解】
  ヴェーダ奪還のための序章が始まろうとしていた











#19 イノベイターの影











  「左右より敵部隊の増援です」
  「やっぱり来やがったか」
  フェルトの報告に、ラッセは眉を寄せた。
  戦術を読んでいたとはいえ、増援は有難くない。

  「総数14です!」
  ミレイナの言葉に、スメラギが頷く。

  「プランD67でアリオスとに応戦させて。アニュー、回避行動を」
  「分かりました」
  答えたアニューが、トレミーの舵を切った。











  ブリッジからの指示を受けて、アレルヤとは機首を返した。
  【ミサイルで弾幕を張る! マリー!!】
  「ソーマ・ピーリスだ!!!」
  アレルヤに怒鳴り返して、ソーマは操縦幹のボタンを押した。発射されたミサイルが、トレミーの後方にスモークを広げる。

  「これぐらいで・・・!!」
  ソーマはアリオスとのドッキングを一方的に解除し、スモークを抜けて向かってくる、アロウズ機に機首を向けた。
  【マリー?!!】
  通信機から聴こえる煩わしい呼び声には、聞こえていないフリをした。
  【マリー!!!!!】
  「どこにいる!!?」
  叫ばれる名前など関係ないフリをして、ソーマは突っ込んできた敵機を撃破して叫んだ。
  「どこにいる!!? アンドレイ少尉!!!」
  【前に出すぎだ! マリー!!】
  援護しながら追いかけてくる声など聞こえず、ソーマは敵機に向かって引鉄を引き続けた。











  鋭角に旋回して、は引鉄を引いた。
  対するジンXも撃ってきた。
  は機敏にロールしながら上昇し、その銃撃を避け       すぐに反転。
  ジンXを見下ろす形になったところで、すかさず引鉄を引く。
  短く撃った軌道が、ジンXに吸い込まれて       爆発。
  その爆発を見届ける前に機首を返して、背後を取ろうとしていたもう一機のジンXに向かって、引鉄を引く。
  「・・・・・・」
  爆発するジンXの脇をすり抜けて、は進路をトレミーに向けた。

  今回の作戦のメイン、イノベイターの捕獲は、ティエリアやロックオンの仕事だ。
  は、いつもと同じようにトレミーを守ればいい。

  (・・・というより、アタシはトレミーを守れればそれでいい・・・・・・)

  逆サイドからの接近を試みた増援部隊には、アレルヤとソーマが向かっている。
  此方側の敵機は、すでに全て撃墜した。
  万が一、アレルヤたちが撃ち漏らした敵がトレミーに接近するようなことがあれば、対処すればいい。

  の視線の先、周囲の引力とは異なる動きをする隕石が二つ       トレミーへ接近しようとしている。
  「・・・・・・カティがいないと、この程度?」
  鼻で笑って、は距離を詰めた。

  まさか、アロウズは本当に、あんなので誤魔化せると思っているのだろうか?
  隕石に擬態したMSなのは、その不自然な動きで明らかだ。

  は、偽隕石に照準を合わせた。
  「・・・ナメんな!」
  トレミーを、仲間がいるあの艦を、大切なラッセを、やっと掴んだ居場所を守りたい       の想いが感覚を研ぎ澄ませていく。

  は引鉄を引く指に、力を込めようとした。


  「?!!」

  弾かれたように、は引鉄から指を離した。

  「・・・何・・・・・・?」

  撃て!       そう念じた瞬間、何かがを止めた。そうとしか表現できない。
  撃たなきゃいけない、撃たなきゃ守れない       そう分かっているのに、引鉄を引かなきゃと念じれば念じるほど、何かがの内でブレーキをかける。
  力を込めようとすればするほど、指先が震えだす。

  トレミーに接近していた隕石は、その擬態を解き、アロウズのMSが姿を現そうとしている。

  「・・・・・・何、で・・・・・・?      !!」
  はっと気付いたときには、すぐ傍にアリオスが迫っていた。

  咄嗟に旋回から急降下       その軌道を避けた。
  その突進をかわせたのは、の能力の高さゆえだったに他ならない。
  少しでも判断を間違えば、間違いなくアリオスとGNSは激突していただろう。

  「何? ・・・どうしたっての・・・アレルヤ!」
  【・・・・・・はは・・・ははははは!!】
  ノイズ混じりに、聞き慣れない笑い声を通信機が拾う。
  物凄い速度で戦場を突っ切ったアリオスは、アレルヤとは思えない攻撃的な旋回に入っている。
  【はははっ!!! この加速粒子、俺らの脳量子波にギンギン来るぜぇ!!!】

  「?! アレルヤ・・・?!!」
  旋回しながら、アリオスが敵MSにその先端を突き刺した。そのまま、先端を開いていく。
  串刺しにされたジンXは、内側から引き裂かれ、爆発した。
  いつものアレルヤらしからぬ残虐な戦い方に、は顔を強張らせた。
  【そうだろぉう?!!! アレルヤァ!!!!!!】
  耳障りに通信機から聞こえてくる声に、は悟った。

  何かが起こっている       ここは、今までの、慣れ親しんだ、いつもの戦場ではない      .

  は唇を引き結んだ。
  どうしていいのか、今の自分に何が出来るのか、何も判らなかった。











  「隕石からMSが出てきたです!」
  「そんな手、二度は食わない! ラッセ!!」
  「了解! ミサイル、一斉発射!!」
  答えたラッセがトレミーの引鉄を引こうとした      .


  〔〔やめろ!!!!!!〕〕


  「何?!」
  突然ブリッジに声が響いた。
  引鉄を引こうとしていたラッセも、その手を止めて辺りを見回す。

  「声?!」
  スメラギも、驚いて腰を浮かせた。
  聞こえるはずのないものを、聴いた。

  「今のは・・・・・・?!」
  「刹那・・・沙慈・・・?!!」
  皆が驚いて、宇宙へ眼を向けた。

  トレミーの上空に、∞を描く光が眩く煌いている。


  〔ずっと待ってた・・・・・・逢いたかった!!〕


  光の中から、沙慈の声が聴こえた。

  戦場に、宙域に、ブリッジに、GN粒子が放つ優しい光が広がっていく。


        兵器ではなく、破壊者でもなく、俺と、ガンダムは変わる!!!〕


  〔ルイス!!!〕


  光の帯を放出しながら、ダブルオーがトレミーと敵MSの間に降下してくる。
  そのまま、アヘッドを一機抱きかかえるように包み込んだ。


  「あ、あの光は・・・・・・粒子放出量が・・・通常の7倍を示しているです・・・!!」
  ミレイナの報告に、ブリッジは声を失った。

  「・・・あれが、ツインドライブなの・・・・・・」
  呆然と呟くアニューに、ラッセも息を呑んだ。

  「・・・・・・ダブルオーの、光・・・」

  ブリッジの中にも、粒子の光が流れ込んできている。

  「・・・聴こえたわ、刹那・・・あなたの声が・・・あなたの想いが・・・」
  呟いて、スメラギは、アヘッドとともにトレミーから離れていくダブルオーを見つめていた。








     >> #19−2








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