【 大型テロを未然に防ぐ為、地球連邦軍はその指揮権を独立治安維持部隊アロウズに集約、反連邦勢力を撲滅し、真の統一世界実現の為慢心していく所存です 】
地球連邦政府大統領の大層な演説に、ラッセは苦々しく顔を顰めた。
「ついに連邦軍がアロウズの指揮下に入りやがったか・・・!」
「この4ヶ月間だけでも、アロウズからの攻撃は20回を越えているの・・・」
「私たち、ジリ貧ですわぁ」
頬を膨らませたミレイナが、椅子に倒れこんだ。
モニターに映していた映像を消して、ラッセも腕を組んだ。
「その件だが、やはり敵さんはこっちの位置を特定できるんじゃないのか?」
背後で同じく映像を見ていたティエリアと刹那、それからスメラギに向かってラッセは疑問を投げた。
そうでも思わないと納得できない。
おかげでトレミークルーは、ほとんど休息を取れていない。
ブリッジメンバーは交代で最低限の休息時間を確保しているし、マイスターたちも出撃の合間に何とか休息しているが、問題なのはメカニックだ。
出撃と出撃の間の短時間で機体を整備するイアンは大忙しだ。ミレイナや沙慈も頻繁に手伝いに借り出されている。
一番いつ休息しているのか分からないのが、だ。
GNSでアロウズとの戦闘に参加し、戻れば自分の機体整備だけでなく、各機体の整備も手伝い、さらにブリッジの交代要員としても働いている。
まさに不眠不休、いつ眠っているのか分からない。
休むように言っても、大丈夫の一点張りで、どうやら医務室のクスリを大量に消費しているらしい。
(・・・・・・それが原因の一つかと思ってはいたが・・・・・・)
ねぇ、父親殺しって、そんな糾弾されるほどの罪なの? .
の口から聞いた言葉が浮かんできて、ラッセは頭を振った。
何も答えられずにいたラッセに、は虚ろに笑った。
感情のコントロールが出来ないなんて、アタシも駄目だね・・・もっとしっかりしなきゃ .
それからは、まるで自分自身に言い聞かせるように呟いた。
絶対、死なせたりしない・・・ラッセは、アタシが守るから .
そのときのの怖いくらい真剣な瞳を思い出して、ラッセは小さく溜息を吐いた。
(・・・・・・結局、休ませるどころか、さらに気合入れさせちまったし・・・・・・こんなことなら、さっさとに打ち明けとけば・・・いや、それは難しかった・・・・・・)
ぐるぐると頭を悩ませていたラッセの後で、ティエリアがスメラギに向き直った。
「スメラギ・李・ノリエガ、やはり例の作戦を実行に移した方がいい」
「例の作戦?」
フェルトがティエリアの言葉に首を傾げた。
例の作戦とやらが何なのか、まったく心当たりがない。
ラッセも悩ませていた思考を一旦中断して、注意を向けた。
「連邦・・・いいえ、イノベイターは、ヴェーダを使って情報統制していると見て、まず間違いないわ。ヴェーダを奪還すれば・・・・・・」
「だが、肝心のヴェーダの所在が分からなければ、どうしようもないだろう?」
スメラギの作戦に、当然の疑問をラッセは口にした。
スメラギの代わりに、刹那が口を開いた。
「ならば、情報を知っている者から話を聞くしかない」
「え? ・・・!! まさか、イノベイターを!!?」
「そうだ」
「そのまさかだ」
刹那と、ティエリアにも頷かれ、ラッセは表情を引き締めた。
しばらく黙って考え込んでいたスメラギが席を立った。
「・・・プランを練るわ・・・フェルト、自室の方へデータを送っておいてくれる?」
「分かりました」
刹那とティエリアもブリッジを出て行く。
僅かでも、彼らが休めることを祈らずにはいられない イノベイターから直接情報を聞き出すためには、マイスターたちの活躍が鍵となることは間違いないのだから。
(・・・・・・のやつ、大丈夫なのか・・・・・・)
ラッセはアタシが守るから .
呟かれた言葉が浮かんだ。そして、真剣なの瞳 .
(・・・俺だって、のことを守らなけりゃ!!!)
「そういえば! さん、何だったですか?」
ミレイナの言葉に、はたと気付けば、ブリッジにはラッセとフェルトとミレイナのみ。
が踏み込んできた時と、同じメンバーになっていた。
「・・・頬くらい腫らして戻ってくるかと思ってたんですけど・・・・・・」
フェルトもラッセに何か含むような視線を向けた。
「・・・・・・どういう意味だよ、そりゃぁ?」
「そのままです。さん、ラッセさんに対して、かなり怒ってたみたいでしたから」
フェルトの視線が痛い。
「なのに、ラッセさんは、出てった時とそんな変わらずに戻ってくるし・・・」
「さん、相当ぷんぷんだったのに、です!!」
「さん、泣かせてないですよね?」
フェルトの視線が痛い。
「何で、俺がを泣かせるんだ・・・・・・」
ラッセは、隣の空いている操縦席に視線を逸らせた。
今ほど、休憩中のアニューに戻って来て欲しいと思ったことはない。
付き合いが長いからなのか、フェルトとミレイナの3人だけの時の方が、彼女らに言いたい放題言われているような気がする。
(・・・前から思ってたが、フェルトのやつ、妙にのこと気にするよな・・・・・・)
「さんを傷つけてないですよね?」
「俺がそんなこと・・・・・・あ!!」
(・・・・・・の気持ちを疑った・・・・・・)
思い出して固まったラッセに、フェルトの視線が冷たく光る。
「・・・傷つけてないですよね?」
「あ、まぁ、いや、その・・・・・・」
「ラッセさん!!」
言い訳をさせて欲しい。
ここ最近のは本当に近寄り難かった。
それに、少々拒否られて、少々避けられて。
そんなことが続いて、あんな心にもないことを尋ねてしまったのだ。
けっして、本心からの言葉ではなく .
「ラッセさん、どうなんですか!?」
「・・・・・・スマン。俺が悪かった・・・」
そんな言い訳が出来るはずもなく、ラッセは頭を下げた。
「アイオンさん、それは、さんに言わなきゃ駄目です!!」
「もちろん、言ったんですよね、ラッセさん?」
フェルトの厳しい視線に、ラッセは再び頭を下げた。
「・・・・・・いや、まだ・・・・・・」
「ラッセさん!!!」
「それじゃぁ駄目ですぅ!!!!!」
フェルトとミレイナの声と、警報音がハモった。
我に返ったフェルトが急いで艦内放送のスイッチを入れる。
【光学カメラがMS部隊を捕捉しました! 戦闘宙域到達まで0054!!】
【総員、大変です! 敵が来るです!! そんなこんなで、いつもの感じでヨロシクです!!!】
【ミレイナ、端折りすぎ・・・・・・】
思わず苦笑して、フェルトは通信を切った。
そして、既に前を向いているラッセの背中に視線を投げた。
「ちゃんとさんに謝ってください!!」
「・・・ったく、分かってるよ」
念を押すフェルトの言葉に苦笑して、ラッセはとりあえず、今は戦闘に集中しようと思った。
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