ミレイナのハチャメチャな、彼女らしい放送に、ティエリアは僅かに頬を緩めた。
(本当に、彼女には癒される・・・・・・)
表情を引き締めて、ティエリアは後を移動している刹那を振り返った。
「刹那、肩の具合は?」
「問題ない」
そう答える刹那に、ティエリアは頷いた。
やるしかない。
ヴェーダを取り戻すには、イノベイターに直接訊くしかない .
その決意を抱えて、ティエリアはセラヴィーガンダムの元へと急いだ。
「・・・・・・アニュー」
ブリッジへ向かう彼女を思わず呼び止めていた。
(虫の知らせ? ・・・・・・いいや、気のせいだ)
「なぁに?」
微笑んで振り返ったアニューを見て、ロックオンは臆病な自分自身を笑った。
今まで腕の中にいた彼女のことを、とても愛おしく思った。ずっと、腕の中に閉じ込めておきたいと思った。
(・・・それには、まず・・・・・・だな・・・)
「・・・いいや、何でもねぇよ」
ロックオンは不敵に笑ってみせた。
何よりも、大切に想う人を守りたい .
そう思える自分に満足しながら、ロックオンはケルディムガンダムの元へ向かった。
「・・・・・・行くのかい?」
部屋の前で、まるで見張っていたかのようなアレルヤに、マリーは一旦足を止めた。
挑発的な目が、アレルヤを突き刺す。マリーでは有得ない鋭さだった。
「無論だ」
言い放って、マリー、いや、ソーマ・ピーリスはさっさと格納庫へ向かおうとする。
(・・・・・・僕は君を戦わせたくないんだ、マリー・・・・・・)
それでも、その声は今の彼女には届かない。
大切に思ってるなら、理解してやれ .
ロックオンに言われた言葉が、再び頭に浮かび、アレルヤは目を閉じた。
(・・・・・・だったら、僕に出来ることは一つだけだ・・・・・・)
「分かった」
低く低く、吐き出すように呟いた。
きっと遠ざかっていく彼女の背中には届いていないだろう .
それでも、何に変えても彼女を守りたくて、アレルヤはその背中を追いかけた。
煙草を揉消して、はヘルメットを手に取った。
この苛立ちは、戦うことで薄れるだろうか?
いいや、けっしてそんなことはない。それが分かっているのに、自分は何度も戦場へと向かう。
(・・・・・・アタシは・・・とにかく、死なせたくない、守りたい・・・・・・)
その想いだけで、再び戦場へ立つことを決意したのに、今は別の感情が、その純粋さをかき乱す。
それは、怒りだったり、痛みだったり、後悔だったり .
(後悔? 笑わせないで。今更・・・そんな感情、あるわけない・・・)
頭を振って、は乱れた髪をかき上げた。
「・・・そうよ、アタシは、ラッセを、トレミーを守りたいんだ・・・」
呟いて、は前を見据え、だいぶ伸びた髪を軽く結わえながら、自らの機体の元へと足を速めた。
「・・・沙慈・クロスロード・・・・・・」
廊下の先、パイロットスーツを着込んだ沙慈の姿を見つけて、刹那はダブルオーへ向かっていた足を止めた。
視線を刹那から僅かに離したまま、沙慈が口を開く。
「・・・アロウズの部隊の中に、ルイスの乗った機体があったよ・・・・・・
この4ヶ月は、戦力を整えるために、敵から逃げ続けてきた・・・・・・でも、もう戦うんだろ?」
「ああ」
「ルイスを、撃つつもり?」
「それは、お前次第だ」
刹那の言葉に、沙慈が顔を上げた。
沙慈を真っ直ぐに見つめたまま、刹那は言葉を紡ぐ。
自らの、想いを .
「戦いは、破壊することだけじゃない。作り出すことだって出来る・・・俺は信じている。
俺たちのガンダムならそれが出来ると・・・・・・後は、お前次第だ」
真剣な刹那の瞳に、沙慈は顔を俯けて呟く。
「・・・・・・・・・僕は、引鉄を引けない」
「分かっている」
「・・・・・・ルイスに、叫び続けることしか出来ない・・・」
「分かっている」
「・・・それでも!! ・・・僕は、僕は・・・・・・」
拳を握り締めて呟く沙慈に向かって、刹那は手を差し出した。
「会いに行こう。ルイス・ハレヴィに」
「・・・ああ・・・・・・ああ!!」
顔を上げた沙慈は、大きく頷いた。
その瞳に宿る決意に、刹那は頷き返した。
「トレミー、第一、第二、第三ハッチ、オープン」
ブリッジにも、今回の戦闘への緊張感が漂っていた。
敵のMS数は12体と少ないものの、敵部隊の中にイノベイターの専用機があることが確認出来ている。
この作戦が成功すれば、イノベイター側の優位性を覆すことが出来るかもしれない .
【会いに行くぞ、沙慈!】
【ああ。行こう、刹那!!】
決意を込めて、沙慈が答える。
【ダブルオー、刹那・F・セイエイ、出る!】
【オーライザー、沙慈・クロスロード、発進します!】
確固たる想いを抱えて、ダブルオーガンダムとオーライザーが勢いよく発進していく。
「アーデさん、戦果を期待するです!」
【了解。セラヴィー、ティエリア・アーデ、行きます!】
ミレイナの呼びかけに答えて、セラヴィーガンダムが発進していく。
【準備はいいかい?】
【いつでもいい。やってくれ】
【分かった・・・・・・君を守るよ、マリー・・・】
素っ気無い返答にも迷うことのない、アレルヤの声が聴こえた。
【アーチャーアリオス、アレルヤ・ハプティズム、ソーマ・ピーリス、迎撃行動に向かう!】
ドッキングしたまま、アリオスガンダムとGNアーチャーが発進していく。
突然、アニューの前の通信機が鳴った。
【アニュー、聞いてるか?】
「どうかしたの?」
通常はオペレーターであるフェルトかミレイナへの通信が、アニューの回線指定で開かれたのだ。
何かあったのかと息を詰めるアニューに、ロックオンが不敵な笑みを浮かべた。
【愛してるよ】
「えっ!!?」
突然の告白に、アニューの頬が真っ赤に染まった。
もちろん、ロックオンの告白は、トレミーの全員に聴こえたわけで、ブリッジの視線が一斉にアニューに集中した。
「お〜!! まさに狙い撃ちだなぁ」
「っていうか、いつの間に?!!」
「凄いです!! 恋の花が咲いたですぅ!!!」
「おめでとうございます」
「えぇっ? ・・・あ・・・・・・」
次々とかけられる言葉に、顔を真っ赤にして、パニくったアニューがモニター越しにロックオンに叫んだ。
「・・・・・・いいから行って!!」
【オゥライ! ケルディム、ロックオン・ストラトス、狙い撃つぜぃ!!!】
そんなアニューの様子に満足そうに笑みを浮かべて、いつもより張り切った様子でケルディムガンダムが発進していく。
ラッセは、背中に刺さる視線に首を竦めた。
フェルトの視線だけかと思っていたが、気付けば隣で頬を覆っているアニューを除く全員の視線が、自分の背中に突き刺さっている。
(・・・いや、無理だから・・・・・・)
フェルトの視線の意味は、まぁ、分かる。
アレだ。にこの場で謝れ、ということだ。
(・・・何なんだよ、今日の発進は・・・・・・)
が、他の視線は若干違う。
ロックオンが作った不自然な流れのせいで、自分にも同じことをしろ、という無言の圧力がかかっている。そして、この流れを、絶対に楽しんでいる。
アレだ。ラッセとも、トレミー公認の仲になりたかったら、今この場で愛の告白をやれ、とそういうことだ。
(・・・・・・・・・いや、無理だろ、絶対に・・・!!)
突き刺さる視線に、冷や汗が出そうになる。
何事もなくこのまま発進してくれ、というラッセの願いも虚しく、ミレイナが無邪気に微笑んだ。
「GNSの発進は、アイオンさんに任せるです!」
当然のことのように繋がれる通信に、ラッセは頭を抱えた。
(・・・えぇい!! こうなりゃ、ヤケだっ!!!)
顔を上げたラッセの前、通信が開いた。
音声のみしか繋がっていないことに、一瞬不思議な気がしたが、そういえば、の機体に操縦席カメラが積まれていなかったことを思い出した。
(・・・・・・音声だけなら、何とか・・・)
モニターに向かって、咳払いをして呼びかける。
「あ、あのな、・・・」
【ラッセ?】
驚いたように響いたの声に、ラッセは、ごくりと唾を飲んだ。
ブリッジ中の視線が痛い。
「えっと、だな・・・・・・あのな、!!」
【・・・ラッセ。戻ってから聞く・・・そういうのは、直接聞きたい】
の言葉に、ラッセは詰めていた息を吐いた。
何となく、察したのだろう。
先のロックオンの告白は、GNSの通信機でも聴こえたはずだ。
「・・・了解」
安堵を滲ませて答えたラッセの言葉に、ブリッジの期待が溜息に変わる。
(・・・楽しませるために、のこと愛してるわけじゃねぇんだよ・・・!!)
皮肉気に唇を綻ばせて、ラッセはに呼びかけた。
「・・・悪かったな・・・・・・それから、気をつけろよ、」
【・・・アタシも、ゴメン・・・・・・でも、ラッセのこと、アタシは真剣に想ってるから】
「なっ!!!?」
不意打ちの言葉に、ラッセが固まった。
もちろん、聴こえていたブリッジの面々からは惜しみない歓声が上がる。
【GNS、・、出ます!!】
ラッセが衝撃から立ち直る前に、GNSが発進して行った。
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