【先行し過ぎだ!! おい、聞こえてんだろっ!!】
返ってこない返答に苛立ちながら、ロックオンはスコープを覗き込んだまま引鉄を引く。
背後から発射されるケルディムの銃撃をかわしながら、それでも前を飛ぶGNSは速度を落とすことなく、アロウズの部隊へ突っ込んでいく。
敵部隊を混乱させるかのように飛び回りながら攻撃を繰り返しているGNSだが、敵の数が多すぎる。
【道を開く!】
メメントモリ2号機への距離を詰められないことに焦れたティエリアがセラヴィーの粒子を放った。
その粒子ビームに沿って滑るように、GNSが敵陣を突破しようとする。
しかし、急接近してきたジンXにその行く手を遮られる。
そのジンXを破壊しても、すぐにまた別の機体が行く手を阻む 先ほどから、その繰り返しだ。
【さすがアロウズ・・・守りが堅い!!】
さらに上方からアロウズ部隊の突破を図っていたアレルヤが、唸った。
こちらも、先ほどから何度も突破をかけようとしているが、全て遮られてしまっている。
【ならば!!!】
【マリー!!?】
アリオスにドッキングしていたGNアーチャーが離れた。単独でアロウズへ特攻をかけようとする。
慌てたアレルヤが止めようとするが、GNアーチャーはその制止を振り切って、敵陣へ突っ込んでいく。
【アレルヤ、彼女のフォローを】
【了解・・・】
刹那の言葉に、アリオスもGNアーチャーを追って、アロウズの部隊へ突入していく。
刹那はそれを見送って、ドッキングしているオーライザーに声をかけた。
【ジェネレーターの制御は?】
【やってる!!】
必死な沙慈の声が返ってきた。
衛星兵器を破壊する その目的を果たすために、ソレスタルビーイングはオービタルリング上でアロウズと戦闘を行っていた。
【! 同調した!!】
【了解】
沙慈の言葉に答えて、刹那はメメントモリ2号機を見下ろした。
(今度こそ、破壊する!!)
【トランザムライザー!!!!!】
刹那の振るったソードが、4ヶ月の遅れを取り戻そうとするかのように、衛星兵器を破壊した。
【反連邦勢力による未曾有の大型テロ・ブレイクピラーから4ヶ月、多数の犠牲者とその遺族の悲しみは未だ癒えません。
しかし、メメントモリにより軌道エレベーターの完全崩壊は免れ、崩落の影響による異常気象も沈静化の兆しをみせています。
そして今日、人類は新たなる復興の日を迎えました。
連邦加盟国の技術支援により、アフリカタワーの送電が再開されたのです。この喜ばしい日に 】
地球連邦政府大統領の演説を鼻で笑って、は映像を消した。
この4ヶ月間のことを思い返して、溜息を吐く。
( 4ヶ月・・・・・・も、なのか・・・もう、と言うべきか・・・)
兄貴から、カティ・マネキンがアロウズから姿を消した、と情報があった。もちろん、パトリック・コーラサワーも一緒にだ。
彼女のことだから、何か策があってのことだろうと分かっているが、少しばかり気がかりだった。
ついでに、兄貴自身も連邦政府軍がアロウズに集約されるのを機に除隊した。
現在は、に居候中だ。
何かと衝突しがちなアーサーとカイウスが一緒に暮らしているなんて、ちょっと信じられない。
(・・・・・・仲良くやってればいいけど・・・・・・)
ここのところ習慣になってしまった煙草に手を伸ばす。
(・・・・・・アロウズ、イノベイター、リボンズ・アルマーク )
煙と溜息を吐き出す。
クラウスたちカタロンとの連絡も途絶えてしまっている。
ロックオンでさえクラウスの無事を確認出来ていないらしい。
心配事だらけだ。
世界の行く末、ソレスタルビーイングのこと、クラウスのこと、マネキンのこと、兄貴とアーサーのこと、ラッセとのこと、そして .
( あぁ、くそ。苛々する・・・・・・!!)
思いっきり舌打ちをして、は煙草を捻り消した。
精神安定剤たる煙草でも消せない苛つきを何とかしたくて、は上着を羽織り、部屋を後にした。
(何故だ、何故、大佐が死ななければならない・・・?!
・・・あのジンXは、アンドレイ少尉だった・・・・・・実の父親を、殺したっ!!!)
「あ・・・」
聴こえた声に、ソーマ・ピーリスは振り返った。
何か言いたそうな顔をした彼を真正面から睨みつける。
「何か?」
「あ・・・・・・いいえ・・・」
何も言えずに目を逸らせた沙慈・クロスロードを一瞥して、さっさと視線を外した。
(・・・何故だ、アンドレイ少尉?! 私が欲しくても手に入れられないものを、何故そう簡単に捨てられるの? どうして・・・?!)
あの日から、ずっと心の中で叫び続けている疑問がある。
誰も答えてくれない疑問 だが、それに決着をつけるまで、誰かと馴れ合う気になどなれなかった。
「マリー!!」
呼ばれた名前に、怒りをもって振り返った。
悲しそうな、困惑したような視線が、さらに怒りを誘う。
「その名で呼ぶなと何度言えば分かる!!
私はソーマ・ピーリス!! 超人機関の超兵一号だっ!!!」
言い放って、格納庫を飛び出した。
寂しげな視線が背中に刺さることも、それ以上追ってこようとしないことも、すべてが腹立たしかった。
「・・・・・・大佐に、彼女を二度と戦わせないと誓ったというのに・・・僕は・・・・・・」
がくりと肩を落とし顔を覆っているアレルヤ・ハプティズムが気になって、沙慈はその場を離れられなかった。
自分がここにいても、かける言葉が見つからないことは分かっていたが、それでもアレルヤを放っておけなかった。
「しばらく、そっとしておけ。心の整理をつけるのに、時間は必要だ」
ロックオンの進言に、アレルヤが顔を上げた。
「しかし、彼女に危険なマネを!!」
縋るようなアレルヤの視線に、ロックオンは動じることなく静かに告げた。
「自分の考えだけを押し付けんなよ。大切に思ってるなら、理解してやれ 戦いたいという、彼女の気持ちを 」
ロックオンが出て行き、扉が閉まっても、沙慈は動くことが出来なかった。
隣では、アレルヤが再び膝を抱えて、悲しみの宿った溜息を吐いた。
沙慈もつられて、肩を落とした。
ロックオンが口にした言葉が、心に重かった。
大切に思ってるなら、理解してやれ。戦いという、彼女の気持ちを .
(・・・ルイスも同じなんだろうか・・・・・・家族を失った悲しみを憎しみに変えて・・・・・・)
そう思うと、沙慈の心は不安に揺れた。
(・・・・・・僕は、ルイスに何を言えば・・・・・・)
答えは見つからないまま、沙慈とアレルヤは、互いに自分の大切な人のことを想っていた。
「刹那の容態はどう?」
スメラギの問いに、パネルを操作していたアニューが顔を上げた。
再生治療の心得があるアニューは、このところ医務室での仕事が増えつつある。
今も、アリー・アル・サーシェスに撃たれた刹那を治療カプセルに入れて、その経過を確認しているところだった。
「肩口の傷を中心に、細胞の代謝障害が広がっています」
アニューの返答に、スメラギは眉を寄せた。
ラッセに続いて刹那までとなると、何とも気分が重くなる。
「疑似GN粒子の影響・・・・・・」
ラッセは大丈夫だと言い張っているが、大丈夫なはずがない。
ラッセが傷を負ったのは、もう5年近く前 先の最終戦のことだ。
時間的に考えても、本当ならトレミーを降りて、治療に専念した方がいい頃合だ。
難しい顔をしているスメラギに、しかし、アニューが解らないと首を捻った。
「・・・ですが、その進行は極めて穏やかなんです。
ラッセさんの症状とはまるで違う・・・・・・何かの抑制が働いているとしか・・・」
「詳しく聞かせてくれない? その話」
聴こえた声に、スメラギは振り返り、体を強張らせた。
「・・・・・・!!」
医務室の扉に寄りかかるようにして、が剣呑な瞳でスメラギたちを見つめていた。
「ねぇ、ラッセの症状って、何?」
固まっているスメラギにが再度尋ねる。
「・・・さん、どうしてここへ・・・?」
アニューの言葉に、が片頬を吊り上げた。
医務室内に足を踏み入れ、薬棚から錠剤をいくつか取り出す。
「クスリ貰おうと思って来たんだけど、ね・・・・・・で? 何の話?」
二人に向き直ったの冷たい瞳に、スメラギは言葉を見つけられない。
そんなスメラギを横目で窺って、アニューが恐る恐る口を開いた。
「・・・・・・ラッセさんから、聞かれてないんですか・・・・・・?」
その瞬間、の苛立ちが限界を超えるのをスメラギは感じた。
から立ち昇る不穏な気配に、アニューも自分の発言が不用意だったことを悟るが、既に遅く、室内は凍りつくような空気が漂っている。
「・・・・・・そう・・・公然の秘密ってわけね」
「あ、あのね、!!!?」
「ラッセは、ブリッジ?」
慌ててフォローをしようとするスメラギに構うことなく、は踵を返した。
(・・・・・・ちょっと、ラッセ・・・・・・なんで、に言ってないの・・・・・・?!)
ピシャリと閉まった扉に、スメラギは溜息を吐いた。
ここ最近の苛ついているの状態を思うと とてもラッセと落ち着いて話が出来るとは思えず、スメラギは頭を抱えたのだった。
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