「光学カメラがオービタルリング上に、大型物体を捉えました!!」
「やはり・・・・・・」
最悪の状況を確定させる報告に、スメラギは拳を握り締めた。
「二つも作ってやがったのか!!」
ラッセも怒りを抑えきれずに吐き捨てた。
「そんな・・・6万人の一般市民を巻添えに・・・・・・」
「それくらい、何とも思ってないんだ」
「そんな!! 酷すぎるです!!!」
ミレイナの抗議の言葉に、は首を振った。
「事実を知った一般市民も、連邦にとって反連邦勢力と同じってこと。
それだけの犠牲で、支配体制が確立されるなら、躊躇わない・・・そういう考え方をしてるんだ、あいつらは」
「クソッ!! 人の命を何だと思ってやがるんだ!!!」
「酷い・・・・・・」
ブリッジを絶望的な空気が包み込む。
「・・・馬鹿げてるわ・・・・・・何としてでも、止めなければ・・・!!」
スメラギは衛星兵器を止めるため、必死に頭を巡らせていた。
「トレミーを宙へ上げるだと?! 冗談だろ!!? この状態じゃぁ、無理だ!!!」
【けど、多くの人命が!!】
モニターの向こうで必死に叫ぶスメラギに、イアンは唇を噛み締めた。
分かっている。
分かっているが、今のトレミーを宇宙へ上げるのは自殺行為だ。
押し黙ったイアンの後で、パイロットスーツを着込んだも表情を厳しくした。
衛星兵器を破壊する攻撃力を考えれば、とてもじゃないが MA−3改めGNS では、宇宙に行けたとしても、破壊までは難しい。
そこまでの攻撃力を持っているのは、満身創痍のトレミーと .
「ダブルオーを出す」
「刹那!!」
扉が開いて、医務室の治療カプセル内にいるはずの刹那が現れた。
しっかりとパイロットスーツを着込んだその姿に、沙慈とスメラギが驚きの声をあげた。
【何言ってるの! そんな体で!!】
まだ顔色が悪い。
当たり前だ。右肩の銃傷は、細胞異常を併発したと聞いた。
そんな体で宇宙に上がろうなんて、無茶もいいところだ。
「衛星兵器を止められるのは、ダブルオーライザーだけだ。あんたも分かっているはずだ」
【トランザムライザー・・・・・・】
「・・・スメラギさん、トレミーを上げるより成功する確率は高い・・・・・・行けるというなら、刹那に託した方がいい・・・」
【そうね・・・・・・分かったわ】
の言葉に、スメラギも折れた。
「ミッションプランを頼む」
刹那はスメラギにそう告げて、通信を切った。
「オーライザーにパイロットが必要だ。ラッセに頼みたいところだが・・・」
「やめてよ、イアン!!」
思わず声を上げて、気まずそうにが唇を曲げた。
「・・・ラッセは、トレミーに必要だから・・・」
が言い訳をするように呟く。
ヘルメットをつけた刹那が沙慈を振り返った。
「オーライザーに乗れ」
「え?! 僕が?」
突然の指名に、沙慈が驚いた様子で目を見開いた。
「6万人もの人命がかかっている。これは、守るための戦いだ」
「守る、ための・・・・・・」
「成功の確率は低いだろう・・・」
刹那の言葉に、沙慈は表情を引き締めた。
「だが、始める前から諦めたくない!」
「守るための、戦い・・・・・・」
ぎゅっと拳を握った沙慈に、が肩を竦めた。
「・・・アタシはもう、止めないから。沙慈くんが自分で決めればいい。もう、口は出さない」
は沙慈の顔を見つめた。
「もう、決めてるんでしょ・・・・・・・・・成功を祈るわ」
「さん・・・・・・」
大丈夫というように、が微笑んで頷いた。
イアンも、パイロットスーツを差し出した。
「こいつを着てけ」
「イアンさん・・・」
真剣な表情で差し出されたスーツを受け取って、沙慈は頷いた。
「頼むぞ。命を守れ」
「はい!!」
表情を引き締めて、沙慈は刹那の後を追いかけていった。
【カタパルトで二次加速をかけるわ。いいわね?】
【了解】
「了解です」
刹那と二人、声をそろえて返事をして、沙慈は視線を伏せた。
「相手は機械だ・・・人じゃないんだ・・・・・・」
自分に言い聞かせるように呟く。
そうじゃないと、緊張に押しつぶされそうだった。
【トレミー、第一、第三ハッチ、オープン! 射出タイミングを両機へ譲渡します】
ゆっくりと開いていく扉に、沙慈は息を呑んだ。
初めてではない。前回も、ダブルオーで戦場に出た。
たけど、今は、それとは違う。
自分の意思で、確かに自分で選んでここに座っている。
それだけで、見える景色はこんなに違うのかと .
【刹那・F・セイエイ、出る!】
発進していくダブルオーを見送りながら、沙慈は深く息を吐いた。
ぎゅっと、顔を引き締める。
「沙慈・クロスロード、発進します!!」
かかるGに歯を食いしばって耐えながら、それでも沙慈は宙を見上げていた。
「刹那・・・・・・」
宙を見上げるスメラギに、が声をかけた。
「スメラギさん、アタシも出る。アフリカタワーへ向かうよ」
「・・・いいの? ・・・・・・まだ、あなたのことを知っている人だって 」
「いるに決まってる」
肩を竦めては笑った。
名前を名乗らなくても、機体とその軌跡を見て、女王だと気付ける人間は、まだ戦場に多く居るだろう。
「それでも、行くよ。そのために、アタシはここにいるんだし。
ガンダムマイスターたちばかりに、戦わせて黙って見てるわけにはいかない」
「分かったわ。頼むわね、」
「了〜解」
深刻さを感じさせないように、は笑う。
ソレスタルビーイングの・らしい彼女だった。
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