「光学カメラがオービタルリング上に、大型物体を捉えました!!」
  「やはり・・・・・・」
  最悪の状況を確定させる報告に、スメラギは拳を握り締めた。

  「二つも作ってやがったのか!!」
  ラッセも怒りを抑えきれずに吐き捨てた。

  「そんな・・・6万人の一般市民を巻添えに・・・・・・」
  「それくらい、何とも思ってないんだ」
  「そんな!! 酷すぎるです!!!」
  ミレイナの抗議の言葉に、は首を振った。

  「事実を知った一般市民も、連邦にとって反連邦勢力と同じってこと。
   それだけの犠牲で、支配体制が確立されるなら、躊躇わない・・・そういう考え方をしてるんだ、あいつらは」

  「クソッ!! 人の命を何だと思ってやがるんだ!!!」
  「酷い・・・・・・」
  ブリッジを絶望的な空気が包み込む。

  「・・・馬鹿げてるわ・・・・・・何としてでも、止めなければ・・・!!」
  スメラギは衛星兵器を止めるため、必死に頭を巡らせていた。











#17 散りゆく光の中で











  「トレミーを宙へ上げるだと?! 冗談だろ!!? この状態じゃぁ、無理だ!!!」
  【けど、多くの人命が!!】
  モニターの向こうで必死に叫ぶスメラギに、イアンは唇を噛み締めた。
  分かっている。
  分かっているが、今のトレミーを宇宙へ上げるのは自殺行為だ。
  押し黙ったイアンの後で、パイロットスーツを着込んだも表情を厳しくした。

  衛星兵器を破壊する攻撃力を考えれば、とてもじゃないが       MA−3改めGNS       では、宇宙に行けたとしても、破壊までは難しい。
  そこまでの攻撃力を持っているのは、満身創痍のトレミーと      .


  「ダブルオーを出す」
  「刹那!!」
  扉が開いて、医務室の治療カプセル内にいるはずの刹那が現れた。
  しっかりとパイロットスーツを着込んだその姿に、沙慈とスメラギが驚きの声をあげた。
  【何言ってるの! そんな体で!!】
  まだ顔色が悪い。
  当たり前だ。右肩の銃傷は、細胞異常を併発したと聞いた。
  そんな体で宇宙に上がろうなんて、無茶もいいところだ。

  「衛星兵器を止められるのは、ダブルオーライザーだけだ。あんたも分かっているはずだ」
  【トランザムライザー・・・・・・】

  「・・・スメラギさん、トレミーを上げるより成功する確率は高い・・・・・・行けるというなら、刹那に託した方がいい・・・」
  【そうね・・・・・・分かったわ】
  の言葉に、スメラギも折れた。

  「ミッションプランを頼む」
  刹那はスメラギにそう告げて、通信を切った。


  「オーライザーにパイロットが必要だ。ラッセに頼みたいところだが・・・」
  「やめてよ、イアン!!」
  思わず声を上げて、気まずそうにが唇を曲げた。
  「・・・ラッセは、トレミーに必要だから・・・」
  が言い訳をするように呟く。

  ヘルメットをつけた刹那が沙慈を振り返った。
  「オーライザーに乗れ」
  「え?! 僕が?」
  突然の指名に、沙慈が驚いた様子で目を見開いた。

  「6万人もの人命がかかっている。これは、守るための戦いだ」
  「守る、ための・・・・・・」
  「成功の確率は低いだろう・・・」
  刹那の言葉に、沙慈は表情を引き締めた。
  「だが、始める前から諦めたくない!」

  「守るための、戦い・・・・・・」
  ぎゅっと拳を握った沙慈に、が肩を竦めた。
  「・・・アタシはもう、止めないから。沙慈くんが自分で決めればいい。もう、口は出さない」
  は沙慈の顔を見つめた。
  「もう、決めてるんでしょ・・・・・・・・・成功を祈るわ」
  「さん・・・・・・」
  大丈夫というように、が微笑んで頷いた。

  イアンも、パイロットスーツを差し出した。
  「こいつを着てけ」
  「イアンさん・・・」
  真剣な表情で差し出されたスーツを受け取って、沙慈は頷いた。

  「頼むぞ。命を守れ」
  「はい!!」
  表情を引き締めて、沙慈は刹那の後を追いかけていった。











  【カタパルトで二次加速をかけるわ。いいわね?】
  【了解】
  「了解です」
  刹那と二人、声をそろえて返事をして、沙慈は視線を伏せた。

  「相手は機械だ・・・人じゃないんだ・・・・・・」
  自分に言い聞かせるように呟く。
  そうじゃないと、緊張に押しつぶされそうだった。

  【トレミー、第一、第三ハッチ、オープン! 射出タイミングを両機へ譲渡します】

  ゆっくりと開いていく扉に、沙慈は息を呑んだ。
  初めてではない。前回も、ダブルオーで戦場に出た。
  たけど、今は、それとは違う。
  自分の意思で、確かに自分で選んでここに座っている。
  それだけで、見える景色はこんなに違うのかと      .

  【刹那・F・セイエイ、出る!】

  発進していくダブルオーを見送りながら、沙慈は深く息を吐いた。
  ぎゅっと、顔を引き締める。

  「沙慈・クロスロード、発進します!!」

  かかるGに歯を食いしばって耐えながら、それでも沙慈は宙を見上げていた。











  「刹那・・・・・・」

  宙を見上げるスメラギに、が声をかけた。
  「スメラギさん、アタシも出る。アフリカタワーへ向かうよ」
  「・・・いいの? ・・・・・・まだ、あなたのことを知っている人だって      
  「いるに決まってる」
  肩を竦めては笑った。

  名前を名乗らなくても、機体とその軌跡を見て、女王だと気付ける人間は、まだ戦場に多く居るだろう。

  「それでも、行くよ。そのために、アタシはここにいるんだし。
   ガンダムマイスターたちばかりに、戦わせて黙って見てるわけにはいかない」

  「分かったわ。頼むわね、
  「了〜解」
  深刻さを感じさせないように、は笑う。
  ソレスタルビーイングのらしい彼女だった。


  ただひとつ、ソレスタルビーイングに加わって以降、初めて彼女から香る煙草の匂いに、スメラギは僅かな不安を感じたのだった。








     >> #17−2








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