「抵抗するようなら射殺して構わん」

  異論を唱える者はいない。
  相手は、嘗てAEUでエースの座にいたパイロットだ。
  命を保障するつもりなど、最初から無い。

  突入を指示し、部屋に踏み込んだ。
  予期していたような抵抗はない。

  (・・・買いかぶりすぎたか・・・・・・)

  だが、見渡した部屋に、目的の人物は見当たらなかった。
  部下が、隠れられるような場所を片っ端から捜索しているが、目当ての人物は見つからないらしく、焦った様子で首を振っている。

  (逃げられた       !!)

  ギリリと口を噛み締めたその時、部屋に備え付けられている通信機が着信を告げた。
  不気味に鳴り続ける通信機を注意深く部下が確認して頷いた。危険物は仕掛けられていないようだ。

  【よぉ! 無駄足ご苦労さん!!】

  通話ボタンを押すと、軽い声が響いた。
  こちらの神経を逆撫でし、嘲笑うかのような口調に、苛立ちのバロメーターが一気に振り切れる。

  「カイウス・!! 貴様、今、どこにいる!!!?」

  通信機の向こうで、微かに笑う気配が伝わってきた。

  【俺が、あんた等をのんびり待ってると思ったのか?】

  正当防衛を主張し、カイウス・を始末する予定だったのだが、どうやら知られてしまっていたらしい。
  苦々しく思ったが、上の命令は絶対だ。
  今は逃げ遂せても、カイウス・は近いうちに必ず抹殺されるだろう。

  「カイウス・!! 貴様、クーデターの首謀者であるパング・ハーキュリーと親しくしていたな?!!
  貴様も軍のクーデター派であると、それどころか首謀者の一人だとの証言があった!!
  反政府勢力とも通じているとの疑惑もある! 何か反論はあるか!!?」

  【俺は清廉潔白、真っ白だぜ?】

  相変わらず、怯えを見せない男に、苛々が募る。

  「貴様も、喜んで罪を認めるだろう! 今ここで、私に殺されなかったことを後悔するさ!!!」


  【そろそろだな・・・そこに、テレビがあるだろ? 点けてくれ、国営放送だ】

  素早く部下が動いてテレビを点けた。
  女性キャスターの、落ち着いた声が流れ出す。

  『      それでは、本日の地球連邦大統領です』
  今日の大統領の一日がダイジェストで次々と映し出され       思わず叫び声を上げそうになった。

  そこには、握手を交わす、カイウス・と地球連邦大統領の姿が映し出されていた。

  【奴が連邦軍施設に視察に来た際に親しくなってな。意気投合しちまって、飲み友達なんだ】
  現大統領を"奴"呼ばわりしながら、自慢するでもなく、カイウス・は嘯く。
  【クーデターの首謀者と仲良しな大統領ねぇ・・・残念。奴の任期も今日で終りか。大統領選挙で忙しくなるぜ。お疲れさん】

  「き、きさま・・・大統領の代わりなぞ、誰でも       !!!!!」
  【それだけじゃないんだなぁ・・・】
  笑いを含んだ声が、鼓膜を打つ。

  【現政権与党のPR映像にも、俺が映ってる。もちろん、与党の支持者として、な!
   俺が反政府勢力に加担してたとなれば、与党自体もバッシングを免れないだろうぜ?】

  「じょ、情報操作など、いくらでも       !!!」

  【やればいいぜ? ・・・でも、国防局は大変だな。俺と国防長との写真、政府発行の冊子に載ってるぞ。
   回収するとなると・・・・・・大量に発行したはずだから、どれだけかかるかな?
   あ、他にもあったな・・・誰だったかなぁ・・・・・・】

  楽しげに話される内容に、もう、言葉も見つからない。

  【連邦政府の大統領と国防長がスキャンダルで退陣、与党も政権の危機     となれば、今度の選挙は盛り上がるだろうなぁ?
   ・・・反政府勢力も、さぞや動きやすいだろうな?】

  他人事のように言う男に殺意を覚えても、唸ることしか出来ない。

  【穏便にやろうじゃないか、なぁ?】

  「クソッ!!!貴様など       !!!!!」

  笑い声を残して、ガチャリと切られた通信を、ただただ睨むことしか出来なかった。








     >> #16−3








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