「Eセンサー、光学カメラ、ともに反応なし。この空域に、連邦軍は展開していないようです」
対艦光学迷彩が復旧しただけのトレミーは、未だに外装部分の修理を続けながら山間の谷間を抜け、ゆっくりと航行していた。
「合流ポイントへ急ごう。カタロンの補給部隊はすでに到着しているらしい」
ロックオンの言葉に、ラッセが、にやりと笑った。
「情報をくれたカタロンに感謝しなきゃ、な?」
向けられた笑みに、ロックオンは苦笑を浮かべた。
表向き、自分がカタロンと繋がっていることは秘密のはずだ。
(あの女がバラしてなければ、だがな・・・・・・)
諦め半分、開き直り半分で、ジーン1ことロックオン・ストラトスは頷いた。
「・・・・・・言っとくよ」
もうバレてもいいと思ってしまっている自分に、ロックオンは諦めの溜息を吐いたのだった。
格納庫では、セラヴィーガンダムを見上げて、ミレイナが気合を入れていた。
「うん! とにかく、直せるところだけでも直すです!!」
「僕たちも手伝うよ」
ミレイナは振り返った。
沙慈・クロスロードとマリー・パーファシーだった。
「協力、感謝です!!」
敬礼してみせたミレイナに、沙慈とマリーは思わず微笑を浮かべた。
「アタシも手伝う」
「さん!!?」
ミレイナは目を丸くした。
まだ医務室のベッドで休んでいるはずのの登場に驚いた。
「もう起きて大丈夫なんですか?」
マリーの言葉に、は飄々と肩を竦めた。
「充分よ・・・悠長に寝てられるほど、医務室のベッド、寝心地よくないし」
「もう少し休んだ方が・・・また倒れたりしたら・・・」
沙慈の言葉に、は嫌そうに顔を顰めた。
「あんなヘマ、もうしない」
「で、でも!! それなら、ここよりも、航行システムやセンサー類の損傷の方が、大変なのです!!」
「それなら、出来るとこはもう直してきた」
「えぇ〜!!? さん、ホントに休んだのですか?!!」
驚くミレイナに、は溜息を吐いた。
「休んだ、休んだ。火気管制は損傷酷くて、物資の補給がないと触れないし。ほら、さっさと始めないと終わらないよ?」
「は、はいです!!!」
「・・・・・・ちょっとそこの、沙慈・クロスロード君にも用事あるし・・・」
「え? 僕ですか?」
驚く沙慈に、は苦笑を浮かべて頷いた。
「そう、君に。確認しておかないと、アタシが戦えないから」
「え・・・・・・?」
首を傾げた沙慈を放って、はミレイナの肩を叩いた。
「ほら、さっさと指示出す」
「は、はいです!!!」
背筋を伸ばして答えたミレイナに、は満足気に笑って、セラヴィーの補修に取り掛かった。
「どうして、トレミーを降りなかったの?」
「僕にも、何かやれることがあると思ったんです・・・自分に出来ることを、何かしないとって・・・・・・」
手持ちの資材で出来るところまでの補修を終えた格納庫の片隅で、・と沙慈・クロスロードは話をしていた。
一人フロアに残ったミレイナが、セラヴィーの細かい部分をハロたちに手伝わせながら調整を続けている。
「・・・そのおかげで、ルイスにも会えたっていうか・・・・・・こんなカタチでの再会を望んだわけではなかったけど・・・・・・」
「・・・・・・そう・・・」
寂しげに笑った沙慈から視線を外して、が溜息を吐いた。
「・・・・・・沙慈君とは違うけど・・・」
呟かれた言葉に、沙慈は手元に落としていた視線を上げた。
どこか遠くを見つめたまま、が僅かに微笑んだ。
「・・・・・・殺されないために、テロリストの仲間になって、その世界が当たり前になって そうして平和な世界を受け入れられなくなった人間を、アタシは知ってる・・・そんなふうに、あなたにはなって欲しくない。まだ、戻れるんだから・・・・・・そう思ってた」
「さん・・・・・・」
ふっと、が微笑んだ。
「やれることは、見つかった?」
沙慈は首を横に振った。
「分かりません・・・でも、僕はどうしても、ルイスを取り戻したいんです」
「そのために他人を殺せる?」
「・・・殺したくない・・・・・・戦わなくても、殺さなくても、僕にやれることがあると思うんです」
「・・・・・・やっぱり、あなたはアタシと似てないわね・・・」
「さん?」
苦笑を消して、は沙慈と向かい合った。
「だったら、何があっても、どんなに困難でも、自分の想いを貫きなさい」
真剣な言葉に、沙慈は背筋を伸ばした。
そんな沙慈を見つめて、ふっとが表情を緩めた。
「・・・大丈夫・・・・・・あなたらなら、大丈夫よ」
そう言って微笑んだに、沙慈も笑顔を見せた。
【間もなく、合流ポイントに到着します】
艦内に響いたフェルトの声に、が壁から体を起こした。
「とりあえず、戦わなくても出来る仕事の第一は、補修作業ってところね。期待してるからね?」
「はい、頑張ります!」
沙慈の答えに満足気に頷いて、が腕を伸ばした。
「さて、忙しくなるわよ!!」
整備と補修を受けてピカピカになったセラヴィーガンダムを見上げて、ティエリア・アーデは微笑を浮かべた。
振り返れば、格納庫の冷たい床で仕事を終えた満足な表情で眠り込んでしまった仲間の姿がある。
ティエリアは毛布を抱えて近づいた。
余程疲れているのだろう、ティエリアの近づく足音に沙慈・クロスロードもミレイナ・ヴァスティも目を醒ます気配はない。
床に直接丸くなって眠っているミレイナの横に膝をつき、ティエリアはその体に毛布を優しくかけてやった。
「ありがとう。君がいてくれて、よかった」
素直に呟いた感謝の言葉に、ミレイナが擽ったそうに微笑を浮かべた。
「惚れてはダメです・・・・・・」
むにゃむにゃと呟かれた寝言に、思わず笑ってしまった。
他意はなかったのだが .
「君がいてくれて、よかった」
もう一度呟いて、ティエリアは微笑んだ。
そう思っているのは、紛れもなく自分、ソレスタルビーイングのティエリア・アーデだ。
そう思える自分に、ティエリアは満足そうに笑みを浮かべた。
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