* 社兵器工場・謎の爆発 *
昨日深夜に発生した、社所有の兵器開発工場爆発事件は、
鎮火に手間取り、未だ消火活動が続けられている。
この工場は、社が1週間前にトラスト社から買収したものであり、
社が再度立ち上げた兵器開発部門の主力工場となる予定だった。
操業していなかったため、一般の従業員はおらず、近隣の町とも離れており
延焼はなかったが、部門責任者で開発者のレジーナ・さんと
連絡が取れなくなっている。爆発時に工場内にいた可能性が高いと見られ、
捜査本部では所在の確認を急いでいる。
爆発について不審な点が多くみられ、事故・事件、テロの可能性も視野に
捜査が進められている。
社代表のアーサー・氏は今朝の会見で、
詳細が不明なためコメントは差し控えると発言した。
行方不明になっているレジーナ・さんは、社で最新
軍事兵器開発に携わる一方、AEUにおいて優秀な軍パイロットとして数々の
作戦に参加、女性初のエースパイロットとしても注目を集めた人物であり、その
安否が気遣われている .
静止衛星軌道上での爆発事故についてと、それに伴うニュースの隙間に、その記事を見つけた。
「・・・・・・・・・・・・まさか・・・嘘でしょ?!!」
スメラギ・李・ノリエガは茫然と呟いた。
目覚めて、一番最初に視界に映ったのは医務室の真っ白い天井だった。
自分は第三格納庫にいて、敵の攻撃を受けて .
「オーライザーは、戦闘は・・・?」
自分が設計・開発した機体のことが脳裏に浮かび、ふらつきながら立ち上がったところで、ふと気がついた。
「重力? いつの間に地上に・・・・・・?」
疑問を呟きながら医務室の扉を開いて、イアンの思考は停止した。
無残にも穴の開いたトレミーの向こうに広がる高原と、雪を抱いた山々 .
「なんじゃ、こりゃぁ!!!!!!!!!?」
表情を引き攣らせて、イアンは思わず叫んでいた。
「 つまり、ダブルオーライザーを起動させ、ラグランジュ3の敵を退けたものの、アロウズが衛星兵器を使用したのを知り、そいつの破壊ミッションに突入。見事打ち倒したが、敵の奇襲を受けて、地球圏に落下、地上に不時着。しかも、刹那の乗ったダブルオーライザーとはぐれてしまった と。そういうことだな?」
説明を聞いたイアンが、眉間を押さえたまま状況を確認する。ミレイナが嬉しそうに頷いた。
「その通りです!」
「最悪じゃないか!!!」
間髪入れずにイアンが声を上げ、ぎくりとミレイナが固まった。
そんな二人に苦笑しながら、ラッセはイアンを宥めにかかる。
「そう言うなよ、おやっさん。衛星兵器は破壊したんだ」
「それに、GN粒子を使い切ったところに、奇襲を受けたんです」
「しかも、敵部隊は新型のMAまで投入してきた。船が被弾した衝撃を加速に利用し、且つ船体をスモークでカモフラージュして地上に降りるという、スメラギ・李・ノリエガの機転がなければ、我々は確実にやられていた」
フェルトとティエリアの的確なフォローを受けて、ラッセはイアンの肩を叩いて笑った。
「命があっただけ、めっけもんだぜ?」
ラッセの言葉に、イアンも苦笑を浮かべた。
こんなふうに愚痴を言えるのも、命があってこそだ。イアンもそれをよく分かっていた。
「で、トレミーの状況は?」
「エンジンは無事でしたが、航行システムや火気管制通信、センサー類の損傷が酷くて・・・・・・」
フェルトの答えに、イアンは思わず額を押さえて呻いた。
「なんてこった・・・女王の仕事だらけじゃないか・・・・・・こんなときに、敵さんに襲われでもしたら・・・」
「みなさん、食事をお持ちしました」
苦々しく溜息を吐くイアンの後ろ、ブリッジの扉が開き、食事のトレーを抱えたマリーが入ってきた。
漂ういい匂いに、ミレイナがスカートを翻し、両手を挙げて喜んだ。
「わーいです!!」
「のんきだろ、それ!!!」
思わず突っ込んだイアンの肩を再び叩いて、ラッセは苦笑を浮かべた。
「まぁまぁ、とりあえず、食ってからでもいいだろうぜ。腹が減っては何とやら、ってな?」
「そうかもしれんが・・・何とも、楽観できん状況だぞ・・・・・・」
深く溜息を吐いて、イアンは、じろりと視線を自分の娘に向けた。
さっそくトレーの中身を摘んでいたミレイナが、ぎくりと固まった。
そんな娘に、イアンは、やれやれと頭を振った。
「・・・で、女王は戻ってるのか?」
「いいや、まだ戻ってきていない」
「女王から、何か連絡は?」
「いいえ、ありません」
「何も?」
尋ねたイアンの視線がラッセに向いた。
フェルトやミレイナ、ティエリアの視線までが何故かラッセに向けられる。
(・・・・・・俺に訊くのかよ・・・・・・?)
半分ヤケになりながら、ラッセは、頭にやった手を下ろして、溜息を吐いた。
「・・・・・・ここ数日は何もない。衛星兵器破壊の影響で、回線が混み合ってるんじゃないか?」
「そうか・・・となると、本当に楽観できんな・・・」
顎に手を当ててイアンが唸った。
再びブリッジの扉が開いて、スメラギが姿を現した。
「イアン、もう体はいいの?」
心配そうにかけられた言葉に、イアンが大袈裟に嘆いてみせた。
「この艦の方が重症だ! 寝てる暇もないぞ・・・女王もまだ戻ってきてないしな」
「・・・・・・・・・そうね・・・」
瞬間、スメラギの表情が曇ったのをラッセは見逃さなかった。
尋ねようか迷ったラッセを、フェルトが視線で止めた。
大袈裟に肩を竦めたイアンが、呆れたように溜息を吐く。
「で、どこから始めればいいんだ?」
「・・・そうね、説明するわ。来てもらえる? イアン・・・」
スメラギを伴ってブリッジを出て行きながら、イアンがラッセに軽く目配せをしてきた。
(・・・・・・ったく、揃いも揃って、御節介な連中だぜ・・・)
ラッセは苦笑を浮かべて、イアンに軽く頷いてみせた。
「心配はいらない。彼女は、優秀だ」
「分かってるよ」
ラッセは目を見張ってから、ティエリアの言葉に、再び苦笑を浮かべたのだった。
「女王に、何かあったのか?」
ブリッジを出たところでイアンに尋ねられ、スメラギは溜息を吐き出した。
足を止め、厳しい表情で一つの情報を示した。
何も言わずに示されたそれに目を通していたイアンの表情も、厳しいものへと変わっていく。
「これは・・・・・・」
「さっき、社のアーサー氏から正式なコメントも出たわ。
『DNA鑑定により、発見された遺体をレジーナ・と確認。爆発は外部からの故意によるものの可能性が高い』って・・・
有力各誌は、兵器開発を再開した社に対する反政府組織による脅し、テロ、ソレスタルビーイングの武力介入
、という見解が大勢を占めているわ」
「おい、そんなことがっ・・・!!?」
「私たちじゃないわ。カタロンだって、社が兵器開発を再開したなんて知るはずがないのよ・・・」
「・・・それじゃぁ、まさかっ?!!」
イアンの辿りついた最悪の予測に、スメラギは眉を寄せた。
「本当にに何かあったのだとしたら、イノベイターが係わっている可能性が高い・・・もし、そうなら・・・・・・」
「くそっ!! 待つ意味ないってか!?」
「・・・・・・最悪、は・・・」
瞳を伏せたスメラギに、イアンは、ぐっと腹に力を入れた。
「そんなわけあるか! あいつは女王だぞ! そう簡単にやられたりせん!!」
「・・・・・・イアン・・・・・・そうね、その通りだわ」
何とか笑みを浮かべてみせたスメラギに、イアンは大きく頷いた。
「とりあえず、出来るところから修理にとりかかる。さっさと刹那と合流せんとな」
「ええ、そうね」
スメラギも頷いてみせた。
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