* 社兵器工場・謎の爆発 *

        昨日深夜に発生した、社所有の兵器開発工場爆発事件は、
       鎮火に手間取り、未だ消火活動が続けられている。
        この工場は、社が1週間前にトラスト社から買収したものであり、
       社が再度立ち上げた兵器開発部門の主力工場となる予定だった。
       操業していなかったため、一般の従業員はおらず、近隣の町とも離れており
       延焼はなかったが、部門責任者で開発者のレジーナ・さんと
       連絡が取れなくなっている。爆発時に工場内にいた可能性が高いと見られ、
       捜査本部では所在の確認を急いでいる。
        爆発について不審な点が多くみられ、事故・事件、テロの可能性も視野に
       捜査が進められている。
        社代表のアーサー・氏は今朝の会見で、
       詳細が不明なためコメントは差し控えると発言した。
        行方不明になっているレジーナ・さんは、社で最新
       軍事兵器開発に携わる一方、AEUにおいて優秀な軍パイロットとして数々の
       作戦に参加、女性初のエースパイロットとしても注目を集めた人物であり、その
       安否が気遣われている      .






  静止衛星軌道上での爆発事故についてと、それに伴うニュースの隙間に、その記事を見つけた。
  「・・・・・・・・・・・・まさか・・・嘘でしょ?!!」
  スメラギ・李・ノリエガは茫然と呟いた。











#14 歌が聴こえる











  目覚めて、一番最初に視界に映ったのは医務室の真っ白い天井だった。
  自分は第三格納庫にいて、敵の攻撃を受けて      .

  「オーライザーは、戦闘は・・・?」
  自分が設計・開発した機体のことが脳裏に浮かび、ふらつきながら立ち上がったところで、ふと気がついた。

  「重力? いつの間に地上に・・・・・・?」
  疑問を呟きながら医務室の扉を開いて、イアンの思考は停止した。

  無残にも穴の開いたトレミーの向こうに広がる高原と、雪を抱いた山々      .
  「なんじゃ、こりゃぁ!!!!!!!!!?」
  表情を引き攣らせて、イアンは思わず叫んでいた。











  「      つまり、ダブルオーライザーを起動させ、ラグランジュ3の敵を退けたものの、アロウズが衛星兵器を使用したのを知り、そいつの破壊ミッションに突入。見事打ち倒したが、敵の奇襲を受けて、地球圏に落下、地上に不時着。しかも、刹那の乗ったダブルオーライザーとはぐれてしまった       と。そういうことだな?」
  説明を聞いたイアンが、眉間を押さえたまま状況を確認する。ミレイナが嬉しそうに頷いた。
  「その通りです!」
  「最悪じゃないか!!!」
  間髪入れずにイアンが声を上げ、ぎくりとミレイナが固まった。

  そんな二人に苦笑しながら、ラッセはイアンを宥めにかかる。
  「そう言うなよ、おやっさん。衛星兵器は破壊したんだ」
  「それに、GN粒子を使い切ったところに、奇襲を受けたんです」
  「しかも、敵部隊は新型のMAまで投入してきた。船が被弾した衝撃を加速に利用し、且つ船体をスモークでカモフラージュして地上に降りるという、スメラギ・李・ノリエガの機転がなければ、我々は確実にやられていた」
  フェルトとティエリアの的確なフォローを受けて、ラッセはイアンの肩を叩いて笑った。
  「命があっただけ、めっけもんだぜ?」
  ラッセの言葉に、イアンも苦笑を浮かべた。
  こんなふうに愚痴を言えるのも、命があってこそだ。イアンもそれをよく分かっていた。

  「で、トレミーの状況は?」
  「エンジンは無事でしたが、航行システムや火気管制通信、センサー類の損傷が酷くて・・・・・・」
  フェルトの答えに、イアンは思わず額を押さえて呻いた。
  「なんてこった・・・女王の仕事だらけじゃないか・・・・・・こんなときに、敵さんに襲われでもしたら・・・」

  「みなさん、食事をお持ちしました」
  苦々しく溜息を吐くイアンの後ろ、ブリッジの扉が開き、食事のトレーを抱えたマリーが入ってきた。
  漂ういい匂いに、ミレイナがスカートを翻し、両手を挙げて喜んだ。
  「わーいです!!」
  「のんきだろ、それ!!!」

  思わず突っ込んだイアンの肩を再び叩いて、ラッセは苦笑を浮かべた。
  「まぁまぁ、とりあえず、食ってからでもいいだろうぜ。腹が減っては何とやら、ってな?」
  「そうかもしれんが・・・何とも、楽観できん状況だぞ・・・・・・」
  深く溜息を吐いて、イアンは、じろりと視線を自分の娘に向けた。
  さっそくトレーの中身を摘んでいたミレイナが、ぎくりと固まった。
  そんな娘に、イアンは、やれやれと頭を振った。


  「・・・で、女王は戻ってるのか?」
  「いいや、まだ戻ってきていない」
  「女王から、何か連絡は?」
  「いいえ、ありません」
  「何も?」
  尋ねたイアンの視線がラッセに向いた。
  フェルトやミレイナ、ティエリアの視線までが何故かラッセに向けられる。
  (・・・・・・俺に訊くのかよ・・・・・・?)
  半分ヤケになりながら、ラッセは、頭にやった手を下ろして、溜息を吐いた。

  「・・・・・・ここ数日は何もない。衛星兵器破壊の影響で、回線が混み合ってるんじゃないか?」
  「そうか・・・となると、本当に楽観できんな・・・」
  顎に手を当ててイアンが唸った。

  再びブリッジの扉が開いて、スメラギが姿を現した。
  「イアン、もう体はいいの?」
  心配そうにかけられた言葉に、イアンが大袈裟に嘆いてみせた。
  「この艦の方が重症だ! 寝てる暇もないぞ・・・女王もまだ戻ってきてないしな」
  「・・・・・・・・・そうね・・・」

  瞬間、スメラギの表情が曇ったのをラッセは見逃さなかった。
  尋ねようか迷ったラッセを、フェルトが視線で止めた。

  大袈裟に肩を竦めたイアンが、呆れたように溜息を吐く。
  「で、どこから始めればいいんだ?」
  「・・・そうね、説明するわ。来てもらえる? イアン・・・」

  スメラギを伴ってブリッジを出て行きながら、イアンがラッセに軽く目配せをしてきた。
  (・・・・・・ったく、揃いも揃って、御節介な連中だぜ・・・)
  ラッセは苦笑を浮かべて、イアンに軽く頷いてみせた。

  「心配はいらない。彼女は、優秀だ」
  「分かってるよ」
  ラッセは目を見張ってから、ティエリアの言葉に、再び苦笑を浮かべたのだった。





















  「女王に、何かあったのか?」
  ブリッジを出たところでイアンに尋ねられ、スメラギは溜息を吐き出した。

  足を止め、厳しい表情で一つの情報を示した。
  何も言わずに示されたそれに目を通していたイアンの表情も、厳しいものへと変わっていく。
  「これは・・・・・・」

  「さっき、社のアーサー氏から正式なコメントも出たわ。
   『DNA鑑定により、発見された遺体をレジーナ・と確認。爆発は外部からの故意によるものの可能性が高い』って・・・
   有力各誌は、兵器開発を再開した社に対する反政府組織による脅し、テロ、ソレスタルビーイングの武力介入 、という見解が大勢を占めているわ」

  「おい、そんなことがっ・・・!!?」
  「私たちじゃないわ。カタロンだって、社が兵器開発を再開したなんて知るはずがないのよ・・・」

  「・・・それじゃぁ、まさかっ?!!」
  イアンの辿りついた最悪の予測に、スメラギは眉を寄せた。

  「本当にに何かあったのだとしたら、イノベイターが係わっている可能性が高い・・・もし、そうなら・・・・・・」

  「くそっ!! 待つ意味ないってか!?」

  「・・・・・・最悪、は・・・」
  瞳を伏せたスメラギに、イアンは、ぐっと腹に力を入れた。

  「そんなわけあるか! あいつは女王だぞ! そう簡単にやられたりせん!!」
  「・・・・・・イアン・・・・・・そうね、その通りだわ」
  何とか笑みを浮かべてみせたスメラギに、イアンは大きく頷いた。

  「とりあえず、出来るところから修理にとりかかる。さっさと刹那と合流せんとな」
  「ええ、そうね」
  スメラギも頷いてみせた。








     >> #14−2








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