「ラッセ、あなたの身体データ見させてもらったわ。このままにしておくとあなたは・・・・・・」
「今更、降りるわけにはいかねぇよ」
ラッセは微笑を浮かべて振り返った。
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべているスメラギに、殊更軽い調子で肩を竦めてみせる。
「ま、騙し騙しやってくさ」
「・・・は、知ってるの?」
「・・・・・・いや・・・」
ラッセは苦笑を浮かべて、肩を竦めた。
「言って、今すぐどうにかなるもんでもないからな」
「でも・・・・・・」
納得できない様子のスメラギが何か言う前に、通信機が鳴った。
モニターの中、フェルトの強張った顔があった。
【スメラギさん、観測システムが地球圏で異常な熱源反応を捉えました】
「何ですって!!?」
【至急、ブリッジへお願いします】
「分かったわ」
厳しい表情で、スメラギはブリッジへ急いだ。
足元の映像を見て、スメラギは眉を寄せた。
大地に大きなクレーターが出来ている。
まだ熱を持った部分が、赤く炭化しているのが確認できた。
「これは・・・・・・衛星兵器」
「おそらく、太陽光発電を応用したものだと思われます。入ってくる情報は少ないですけど・・・」
フェルトの報告に、スメラギが、ちらりと顔を上げた。
「王留美やからは?」
「いいえ・・・衛星兵器による電波障害の影響か、連絡が取り辛くなっているようで・・・」
「そう・・・・・・」
先の報告でが"極秘"と言ってきたのは、これを指すのだろう。
今頃、必死に情報を集めているに違いない。
腕を組んで黙ったスメラギに代わり、ラッセが口を開いた。
「何処が狙われた?」
「中東、スイールです」
「スイールが?!!」
ラッセの隣にいた刹那が反応した。
「スメラギさん」
アレルヤに厳しい表情で呼ばれ、スメラギは頷いた。
こんなことが出来る兵器を、このままにしておくことは出来ない。
「補修が終わり次第、トレミー出航! 連邦の衛星兵器破壊ミッションに入ります。各員持ち場に 」
「待ってください!!」
スメラギの言葉をティエリアが遮った。
皆の視線を集めたティエリアが、重い顔で口を開いた。
「その前に、みんなに話しておきたいことがある・・・・・・連邦を裏から操り、世界を支配しようとする者たちがいるんだ」
「何?」
「支配だと?!」
寝耳に水のティエリアの言葉に、ラッセとイアンが驚きの声をあげる。
「どうして・・・そんなことを知ってる?」
訝しげに尋ねるロックオンに、ティエリアは意を決して口を開いた。
「僕は彼らと会った・・・彼らの名は、イノベイター」
「・・・・・・ヴェーダによって産み出された生態端末・・・イノベイター・・・」
ティエリアの告白に、刹那が呟いた。
合点が言ったというふうに、イアンが苦々しく口元を引き結んだ。
「そいつらがアロウズを動かし、ヴェーダまでも掌握しているってのか・・・」
「ということは、僕たちが武力介入をした5年前から・・・」
「活動をしてた、ってことになるな」
アレルヤに続いて、ロックオンも苦々しく呟いた。
腕を組んだまま、スメラギが考えをまとめる。
「トリニティ 3機のガンダムスローネを武力介入に参加させ、疑似GNドライブを搭載した30機のジンXを国連に提供したのも、彼らの仕業・・・・・・」
「つまり、やつらがイオリアの計画を変えたってことかよ!?」
「そのせいで、ロックオンやクリスを・・・・・・」
苛立たしくラッセが言えば、フェルトも眉を寄せて呟いた。
イノベイターという敵の登場に揺れるブリッジで、ロックオンが鋭さを増した瞳でティエリアを見つめた。
「何故、そんな大事なことを今まで言わなかった?」
「彼らは、イオリア・シュヘンベルクの計画を続けていると言った。それが事実なら、我々の方が異端である可能性も 」
不安そうに瞳を曇らせたティエリアに、スメラギが首を振った。
「そんなこと・・・」
「そうだよ! アロウズを創り、反政府勢力を虐殺、そんなやり方で本当の平和が得られるわけがない!」
「破壊する。アロウズを倒し、イノベイターを駆逐する。俺が、俺の意思で」
アレルヤと刹那の言葉に、ティエリアの不安そうな顔が少し晴れた。
強い瞳で言い切った刹那に、一つ息を吐いてラッセが微笑んだ。
「のったぜ、刹那!」
その言葉に、アレルヤも微笑んで頷いた。
尖らせていた眼光を緩めて、ロックオンも溜息を吐いた。
「俺もだ」
ミレイナも元気よく手を挙げた。
「はいです!!」
イアンも、にやりと笑みを浮かべて頷いている。
「そうだな」
未だ不安そうな表情のティエリアが口を開いた。
「みんな、僕も彼らと 」
右肩に置かれた手で、言いかけた言葉は遮られた。
「大体の事情は分かったわ。でも、今、しなければならないのは、敵衛星兵器を破壊することよ」
「スメラギ・李・ノリエガ・・・・・・」
「あなたは、私たちの仲間よ」
その言葉に、ティエリアは僅かに微笑んだ。嬉しそうに、悲しそうに・・・・・・
眼下にある新型機を見下ろすふりをしながら、ロックオンは隣に立つアニュー・リターナーを窺った。
美人だと思う。
頭もいいようだし、医療方面にも秀でているらしい。
才色兼備の美女なのに、取澄ましたようなところがない。
何もかも完璧なところは同じだが、・とは違う。
これは、ロックオンにとって有難かった。
ああいう扱いづらそうな女は、どちらかというと苦手だった。
もっと柔らかい、今隣にいるアニュー・リターナーのような なんと誤魔化そうと、ロックオンはアニュー・リターナーのことが気になって仕方が無かったのだ。
「俺やティエリアの機体にも、新システムが追加されたらしいな」
アニューは顔を上げて微笑んだ。
「リンダさんの自信作です。戦果を期待します」
「オーライザーも出撃出来んのかい?」
とにかくアニューと話していたかった。
アニューは首を振った。
「いいえ・・・プトレマイオスに搬送してからもダブルオーのトランザムシステムに合わせて調整作業を行うことになります。操行システムに急な変更もあったようですし・・・」
「・・・・・・これでお別れか。あんたとは、もう少し話をしてみたかったが」
「それが、お別れしないんです」
嬉しそうに笑ったアニューの声に、ロックオンは目を見開いた。
「お?」
「イアンさんの推薦を受け、プトレマイオスに乗船することになりましたから・・・なんでも、操船技術を持った人が急に降りたとかで、人員不足だからって」
「へぇ・・・・・・そいつは」
声が弾むのを押さえられなかった。
何たる幸運!! ・が降りてくれたおかげで!!
にっこりと微笑んだアニューに、ロックオンも嬉しそうに笑ったのだった。
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