「ラッセ、あなたの身体データ見させてもらったわ。このままにしておくとあなたは・・・・・・」
  「今更、降りるわけにはいかねぇよ」
  ラッセは微笑を浮かべて振り返った。

  苦虫を噛み潰したような表情を浮かべているスメラギに、殊更軽い調子で肩を竦めてみせる。

  「ま、騙し騙しやってくさ」

  「・・・は、知ってるの?」
  「・・・・・・いや・・・」
  ラッセは苦笑を浮かべて、肩を竦めた。
  「言って、今すぐどうにかなるもんでもないからな」
  「でも・・・・・・」

  納得できない様子のスメラギが何か言う前に、通信機が鳴った。
  モニターの中、フェルトの強張った顔があった。

  【スメラギさん、観測システムが地球圏で異常な熱源反応を捉えました】
  「何ですって!!?」
  【至急、ブリッジへお願いします】
  「分かったわ」
  厳しい表情で、スメラギはブリッジへ急いだ。











#11 ダブルオーの声











  足元の映像を見て、スメラギは眉を寄せた。

  大地に大きなクレーターが出来ている。
  まだ熱を持った部分が、赤く炭化しているのが確認できた。

  「これは・・・・・・衛星兵器」
  「おそらく、太陽光発電を応用したものだと思われます。入ってくる情報は少ないですけど・・・」
  フェルトの報告に、スメラギが、ちらりと顔を上げた。

  「王留美やからは?」
  「いいえ・・・衛星兵器による電波障害の影響か、連絡が取り辛くなっているようで・・・」
  「そう・・・・・・」
  先の報告でが"極秘"と言ってきたのは、これを指すのだろう。
  今頃、必死に情報を集めているに違いない。

  腕を組んで黙ったスメラギに代わり、ラッセが口を開いた。
  「何処が狙われた?」
  「中東、スイールです」
  「スイールが?!!」
  ラッセの隣にいた刹那が反応した。

  「スメラギさん」
  アレルヤに厳しい表情で呼ばれ、スメラギは頷いた。
  こんなことが出来る兵器を、このままにしておくことは出来ない。

  「補修が終わり次第、トレミー出航! 連邦の衛星兵器破壊ミッションに入ります。各員持ち場に      

  「待ってください!!」
  スメラギの言葉をティエリアが遮った。

  皆の視線を集めたティエリアが、重い顔で口を開いた。
  「その前に、みんなに話しておきたいことがある・・・・・・連邦を裏から操り、世界を支配しようとする者たちがいるんだ」
  「何?」
  「支配だと?!」
  寝耳に水のティエリアの言葉に、ラッセとイアンが驚きの声をあげる。

  「どうして・・・そんなことを知ってる?」
  訝しげに尋ねるロックオンに、ティエリアは意を決して口を開いた。

  「僕は彼らと会った・・・彼らの名は、イノベイター」

  「・・・・・・ヴェーダによって産み出された生態端末・・・イノベイター・・・」
  ティエリアの告白に、刹那が呟いた。
  合点が言ったというふうに、イアンが苦々しく口元を引き結んだ。
  「そいつらがアロウズを動かし、ヴェーダまでも掌握しているってのか・・・」
  「ということは、僕たちが武力介入をした5年前から・・・」
  「活動をしてた、ってことになるな」
  アレルヤに続いて、ロックオンも苦々しく呟いた。
  腕を組んだまま、スメラギが考えをまとめる。

  「トリニティ       3機のガンダムスローネを武力介入に参加させ、疑似GNドライブを搭載した30機のジンXを国連に提供したのも、彼らの仕業・・・・・・」
  「つまり、やつらがイオリアの計画を変えたってことかよ!?」
  「そのせいで、ロックオンやクリスを・・・・・・」
  苛立たしくラッセが言えば、フェルトも眉を寄せて呟いた。

  イノベイターという敵の登場に揺れるブリッジで、ロックオンが鋭さを増した瞳でティエリアを見つめた。
  「何故、そんな大事なことを今まで言わなかった?」
  「彼らは、イオリア・シュヘンベルクの計画を続けていると言った。それが事実なら、我々の方が異端である可能性も      
  不安そうに瞳を曇らせたティエリアに、スメラギが首を振った。
  「そんなこと・・・」
  「そうだよ! アロウズを創り、反政府勢力を虐殺、そんなやり方で本当の平和が得られるわけがない!」
  「破壊する。アロウズを倒し、イノベイターを駆逐する。俺が、俺の意思で」
  アレルヤと刹那の言葉に、ティエリアの不安そうな顔が少し晴れた。
  強い瞳で言い切った刹那に、一つ息を吐いてラッセが微笑んだ。
  「のったぜ、刹那!」
  その言葉に、アレルヤも微笑んで頷いた。
  尖らせていた眼光を緩めて、ロックオンも溜息を吐いた。
  「俺もだ」
  ミレイナも元気よく手を挙げた。
  「はいです!!」
  イアンも、にやりと笑みを浮かべて頷いている。
  「そうだな」

  未だ不安そうな表情のティエリアが口を開いた。
  「みんな、僕も彼らと      
  右肩に置かれた手で、言いかけた言葉は遮られた。

  「大体の事情は分かったわ。でも、今、しなければならないのは、敵衛星兵器を破壊することよ」
  「スメラギ・李・ノリエガ・・・・・・」
  「あなたは、私たちの仲間よ」
  その言葉に、ティエリアは僅かに微笑んだ。嬉しそうに、悲しそうに・・・・・・





















  眼下にある新型機を見下ろすふりをしながら、ロックオンは隣に立つアニュー・リターナーを窺った。

  美人だと思う。
  頭もいいようだし、医療方面にも秀でているらしい。
  才色兼備の美女なのに、取澄ましたようなところがない。
  何もかも完璧なところは同じだが、とは違う。

  これは、ロックオンにとって有難かった。
  ああいう扱いづらそうな女は、どちらかというと苦手だった。
  もっと柔らかい、今隣にいるアニュー・リターナーのような       なんと誤魔化そうと、ロックオンはアニュー・リターナーのことが気になって仕方が無かったのだ。

  「俺やティエリアの機体にも、新システムが追加されたらしいな」
  アニューは顔を上げて微笑んだ。
  「リンダさんの自信作です。戦果を期待します」
  「オーライザーも出撃出来んのかい?」
  とにかくアニューと話していたかった。

  アニューは首を振った。
  「いいえ・・・プトレマイオスに搬送してからもダブルオーのトランザムシステムに合わせて調整作業を行うことになります。操行システムに急な変更もあったようですし・・・」
  「・・・・・・これでお別れか。あんたとは、もう少し話をしてみたかったが」
  「それが、お別れしないんです」
  嬉しそうに笑ったアニューの声に、ロックオンは目を見開いた。
  「お?」
  「イアンさんの推薦を受け、プトレマイオスに乗船することになりましたから・・・なんでも、操船技術を持った人が急に降りたとかで、人員不足だからって」
  「へぇ・・・・・・そいつは」
  声が弾むのを押さえられなかった。

  何たる幸運!! が降りてくれたおかげで!!

  にっこりと微笑んだアニューに、ロックオンも嬉しそうに笑ったのだった。








     >> #11−2








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