早く戻って来い。待ってるぞ      .

  端末に表示されたメッセージを見て、は微笑を浮かべた。

  データは即時削除するようにしている。が、このメッセージは消せそうにない。
  (・・・・・・これくらい、いいよね?)
  もう何度も眺めたメッセージから顔を上げて、は車窓から空を見上げた。

  見えるはずないのも分かってる。
  それでも、ラッセを想うとき、ラッセがいるだろう宙を見ている自分に気付く。
  (らしくない、本当に自分らしくない・・・でも、決して嫌じゃないから、不思議・・・・・・・・・)
  端末に目を落とし、もう一度微かに微笑んでから電源を落とした。


  車が、ゆっくりと止まる。
  は舞台に上がる女優のように、一度目を閉じて深呼吸をした。

  開けられたドアから降り立つ。
  今から演じるのだ、レジーナ・     .

  「お待ちしてました。レジーナ・さん、ですね?」

  かけられた声に、視線をその人物へと向ける。

  「アロウズの新型MS開発主任のビリー・カタギリです・・・先日のパーティーでお会いしましたね」

  差し出された手を取って、意識して笑みを浮かべて頷いた。

  「ええ。覚えていて頂いて光栄です。今日はよろしくお願い致します」











#10 天の光











  「さすが、としか言いようがありません。アロウズの技術力は素晴らしいですね」
  一通りMS製造施設を案内されてから、そう告げた。

  「ありがとうございます」
  穏やかに微笑んで、ビリー・カタギリが答える。
  否定しないあたりが、アロウズの現在の勢いを物語っているようだ。

  「正直、我社がアロウズのお役に立てるのか・・・自信がなくなりました」
  通された部屋でソファに腰掛けながら、そう口にした。
  「そんなことはないでしょう・・・失礼かと思いましたが、あなたのことを調べさせていただきました」
  「まぁ・・・お恥ずかしい」
  「いえ、素晴らしい経歴をお持ちです。恥ずかしがることなど何もない」
  向かいのソファに腰を下ろしたビリーが微笑みを浮かべる。

  「羨ましい限りです。開発者としてだけでなく、兵士としても、あなたは優秀だったようですから」
  「昔のことです・・・・・・羨ましいと仰いましたが、どうしてそうお思いに?」
  問いかければ、ビリーの瞳に陰が落ちた。

  「・・・僕には、MSを開発するしか、手がないんです」
  「手がない?」
  「それが僕の、復讐、なんです」
  「復讐・・・・・・・・・」
  (・・・・・・そのきっかけを作ったのは、アタシか・・・)
  スメラギ・李・ノリエガがいた場所を刹那に教えたのは自分だ。
  スメラギをソレスタルビーイングに連れ戻すために       だから、彼は、スメラギを、刹那を、ソレスタルビーイングを憎んでいる。

  先日のパーティーでの一件も聞いている。
  ソレスタルビーイングが潜入していると警備兵に通報したのも、目の前に座る彼。
  本当に、間の悪い、哀れな男だ。

  「あぁ、すみません。つまらない話を・・・」
  沈黙をどう受け取ったのか、慌てて苦笑を浮かべたビリーに、優しく微笑んでみせる。

  「・・・・・・それは、何に対する復讐なんですか?」
  一瞬、驚いた表情をしたビリーはすぐにその顔を苦笑に隠した。

  「あなたもご存知でしょう? ソレスタルビーイングを」
  「ええ、もちろんです・・・ただ、彼らが現れた時には、すでに軍を離れていたものですから、報道された程度にしか・・・」

  「僕は、ソレスタルビーイングを徹底的に滅ぼしたいんです」
  「・・・・・・」

  「そのためには、ガンダムを倒さなければならない。
  僕はガンダムを倒せるMSを開発するために、ここにいる・・・・・・あなたは、違うんですか?」

  ビリーの鋭い眼差しに、内心で息を詰めた。
  暗い、暗い、復讐者の眼差し       彼に、こんな目をさせたのは、自分だ。
  口先だけで、何とでも言うことは出来る。けれど      .

  「守るため、です」
  「ほぅ・・・・・・・」

  「大切な人が傷つかぬように、命を落とさぬように・・・・・・そのためです。いけませんか?」

  目の前に座る男は、にやりと唇を歪めた。

  「いいえ、問題ありません。あなたが兵器開発すれば、ソレスタルビーイングの滅びも早まる。
   そうすれば、戦闘で命を散らさずに済む兵士もいるでしょう・・・・・・実に合理的で、あなたらしいと思います」

  そう言って、目の前に座る男は微笑を浮かべ口調を和らげた。

  「"女王"の帰還を歓迎しますよ・・・実は、先日もソレスタルビーイングに、してやられましてね。
   疑似GNドライブを搭載した水中用MA6機とMS2個小隊、それに新型のMSを配備し、
   さらに静止衛星軌道上の部隊と連携したというのに、ソレスタルビーイングにまんまと逃げられましてね・・・」

  「まぁ、そんなことが・・・」
  (大気圏外へトレミーが離脱したときの・・・・・・)
  驚いてみせると、ビリーは肩を竦めて頷いた。

  「ええ・・・これだけハイスペックな新型を投入しても落とせないとは・・・・・・」
  そう言いながら、どこか嬉しそうにビリーが笑った。

  「でも、それもこれまでです。ライセンスを持つ友人のカスタム機を仕上げたところなんですが・・・出番があるかどうか」
  「・・・どういう意味でしょう?」
  訝しげに問い返すと、ビリーは再び、にやりと笑った。

  「彼らは、宇宙に逃げたつもりかもしれませんが、それは間違いです。宇宙には、アロウズが待ち構えている」
  「・・・・・・・・・」

  「それに、宙にはアレがある・・・・・・・」
  「アレ?」
  暗い目をして、開発主任・技術大佐のビリー・カタギリが宙を仰ぎ見るようにして、口を開く。

  「統一政府に仇なす者どもに与える天からの雷       神の裁き・・・・・・
   もしかすると、あなたの開発する機体も出番がないかもしれませんね。残念です」

  そう言って、彼は微笑を浮かべた。








     >> #10−2








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