「あら〜ん♪ 珍しい人がいるわ〜ぁんvvv」
「うむ。久しぶりだな!」
眩しげに、ルッスーリアはサングラスの奥の目を眇めた。
「どうしたのぉ? まさか、私に会いに来てくれたってわけでもないんでしょ〜?」
「うむ。もちろんだ!!」
「あらぁ、はっきり言うのね・・・傷つくわ〜ぁ」
「問題ない!! ヴァリアーまで出向いたのは10代目の遣いだ!!!」
「あら・・・・・・ボスの機嫌が悪くなりそうだわ・・・それで? 用件はなぁに?」
「それが極限に忘れた!!!」
恥じることなく、悪びれることなく宣言した彼に、ルッスーリアは呆れた溜息を吐いた。
相変わらずだ。晴れのリングが、これほど似合う男もいないだろう。
嘗て負けた相手だが、ルッスーリアは彼のことが気に入っていた。
勝てなかった相手だから尚更、かも知れない。
「・・・じゃぁ、ボスに見つかる前に、出直して頂戴vvv」
「うむ。そうしたいところなのだが・・・何かまだ帰ってはいけない気がしてな・・・」
「不思議なこと言うのねぇ・・・・・・あらぁん、レヴィが戻ってきたみたい・・・?」
ボロボロの上着を羽織った、デカく強面のムサクルシイ男が、ドカドカとやって来た。
着ているヴァリアーの隊服は、あちらこちら穴が開いたり焼け焦げたりしているが、肉体の方に大きな傷はないようだ。
だが、疲れているのか、イラついた様子で、男は声を張り上げた。
「出て来い、!!! いい気になるのもいい加減にしろぉ!!!!」
「・・・・・・ホント、間の悪い男・・・最悪・・・・・・」
呟いて、は溜息を吐いた。
気配を消して隠れていたというのに、全てを台無しにしてくれた .
「ホント、ベルあたりにサクッと殺られてくれないかなぁ・・・・・・」
もう一度溜息を吐いて、は背中を預けていた壁から離れたのだった。
強すぎる刺激は痛みにしかならない
「・・・・・・・・・・・・・・・?」
「出て来い!! !!!!!」
雷鳴のようにレヴィの声が古城に響いた。
含まれた怒気が、空気をピリッと震えさせる。
「臆病者めっ!!! 出てこんかっ!!!!!」
「ウザイ。」
カチッと撃鉄を起こす音が声と同時に鳴った。
ゴリッと押し当てられた銃身の感触に、レヴィは思わず息を呑んだ。
「・・・、貴様ぁ・・・・・・!!!」
「キモイ。五月蝿い。」
大袈裟に顔を顰めて呟きながら、はわざとらしく耳を塞ぐジェスチャーをして見せる。
そんなの仕草に、レヴィの額に青筋が浮んだ。
「!!! よくも、閉じ込めてくれたな!!!」
「は? 何言ってんの、変態雷オヤジ」
「貴様が退路を破壊したせいで、脱出するのに今まで時間がかかってしまったのだ!!! どういうつもりだ!!!?」
レヴィの大声に萎縮することなく、はその顔ににっこりと笑みを乗せた。
「楽しかったでしょ?」
「なんだとぉぉぉぉ!!!?」
「私の機転のおかげで、思う存分殺しを楽しめたでしょ?」
「う・・・・・・」
悪気なんて欠片も感じていない、と笑顔で伝えてくるに、レヴィは言葉を詰まらせた。
確かに心ゆくまで殺しつくしてきた。誰も止めることなく、邪魔する者もいない .
そんな状況を楽しんでいなかったと、声を大にして宣言できるほど、レヴィは厚かましくなかった。
「今回の仕事で大活躍したんだから、ボスも褒めてくれるかも知れないわよ?」
「・・・・・・!」
にっこりと無邪気に微笑みながらが告げた内容に、レヴィは心を弾ませた。
ボスに褒めてもらえる それは、レヴィが何よりも欲しているものだった。
何にも代えられない喜びだった。
「・・・・・・そういうことなら・・・まぁ、仕方ない・・・」
何故か頬を赤らめてレヴィが納得する。
「・・・おバカさんねぇ・・・」
思わずルッスーリアは溜息を吐いた。
もちろん、レヴィの馬鹿さ加減に、だ。
味方に騙され、退路を絶たれ、余計な労力を使い、あわや殺されかけたというのに、納得してしまった馬鹿なレヴィ .
この程度で死ぬようではヴァリアーは務まらないから問題ないのだが 上手いこと言い包められてしまっているレヴィに呆れるしかない。
の無邪気な笑顔をそのまま信じている者は、ヴァリアーではおバカなレヴィ一人くらいだろう。
もう一度溜息を吐いて、ルッスーリアは未だ拳銃をレヴィに突きつけているに視線を向けた。
「ほぉら、も物騒なエモノなんて仕舞って 」
「!!! やはりそうだ!! ではないかっ!!!?」
突然隣で響いた大声に、ルッスーリアは肩を震わせるほどに驚いた。
見れば、ボンゴレの晴の守護者が瞳を熱く滾らせてを見つめていた。
「極限に久しぶりだなっ!!! 俺だ! 笹川了平だ!!!」
熱い雄叫びに、しかしはにっこりと無邪気に微笑んで首を傾げた。
「どちら様? 初めまして、だと思いますけど?」
「何を言う!! 俺が間違えるわけがない!! 今俺の目の前にいるのは・・・・・・
ん? 俺は、の葬式に出た記憶があるぞ?・・・どういうことだ???」
「じゃぁ、その方は死人ということでしょ? 私は御覧の通り生きてるから、別人でしょ?」
首を傾げた了平に、はにっこりと告げる。
だが、了平の方は全く納得出来ないらしく、眉間に皴を寄せてを見つめた。
「解らん!! だが、貴様はだ! それは極限に間違いない!!! 同じ並盛中の 」
「違います」
にっこりと笑顔を浮かべるに、了平は口を閉ざした。
居心地の悪い沈黙が満ちる。
「・・・ほら、レヴィ、邪魔者は退散しましょ」
この隙に、とルッスーリアは事態を呆然と眺めていたレヴィの背中を押した。
「じゃぁ、私たちはこの辺りで・・・・・・」
固まったままの了平に向かって投げキッスを送り、ワケが判らず戸惑うレヴィを半ば強引に
ルッスーリアはその場から引き摺るようにして連れ出した。
もしかすると、了平にはせっかくの投げキッスも、声も聴こえていないかも知れないが。
「・・・・・・どういうことだ?」
大分離れてから、怪訝そうにレヴィが呟いた。
にっこりと笑顔を浮かべていたから発せられていた、背筋が薄ら寒くなるような気が、ここまで離れて漸く薄まった。
殺気と呼んでも差し支えないような気に、さすがの了平も気付いただろう。鈍いレヴィでさえ感じていたようだから。
「とあの男は知り合いなのか? だが、あの殺気は・・・・・・」
「本当にバカねぇ・・・・・・二人は顔見知りに決まってるじゃない!! それに、女があんな顔をするのは 」
の微笑を思い出して、ルッスーリアは深く溜息を吐いた。
「 昔の男と決まってるのよぅ・・・」
残念ながら、ルッスーリアの読みはハズレだ。
笹川了平とが付き合っていた、という事実はない。
だが .
了平はじっと目の前の女性を見つめた。
了平がと最後に会ったのは、互いに10代の頃だ。
人が変わるには、充分な時間が経過している。
だが、了平の本能は、目の前にいるがだと叫んでいる。
「・・・何故、嘘を吐く? 貴様はであろう?」
「何度も言いますけど、人違いです」
にっこりとが断言する。
だが、引かないことでは了平も負けてはいなかった。
「いいや! 間違いない、貴様はだ!!!」
「だから、人違いですって」
「いいや!! 並盛中で3年間同じクラスだっただ!!」
「並盛なんて知りません。人違いです」
「いいや!! がで、間違いない!!」
「単なる偶然の同名でしょう? あなたなんて知らないもの」
「いいや!! 俺がを間違えるわけがない!!」
「すっごい自信・・・でも、間違ってますから」
「いいや!! 間違っていない!! 何故なら俺はのことが好きだったのだからなっ!!!」
了平の告白に、の目が見開かれた。
だがそれは一瞬で、すぐに元の人を喰ったような笑顔を取り戻した。
「 でも、死んだんでしょ? そのって子は」
了平は言葉を失った。
そうだ。大学に進学してすぐ、彼女は旅行先で事故に巻き込まれて .
「あなた、言ったじゃない? そのって子の葬式に出たって」
そうだ。自分は彼女の葬式に出席した。涙を流す嘗ての同級生たちと一緒に .
「だったら、ここにいるが、死んだと同一人物なわけないじゃない?」
微笑むを了平は見つめた。
やはりこの女性が言う通り、偶然の人違いなのだろうか 人違いなのだろう。
何故なら、了平の知っているはマフィアなどとは縁のない、
間違ってもヴァリアーになどいるはずのない、普通の女の子だったのだから。
先ほどのレヴィやルッスーリアとの会話からも、という女性がヴァリアーに馴染んでいるのが窺えた。
いいや、ヴァリアーに相応しい人間なのだろう。
ならば、はでは有り得ない。
「・・・・・・そうだな。どうやら、俺の勘違いだったようだ。すまない」
「別に分かってもらえたのなら、それでいいわよ・・・それで? 10代目の用件って何? 誰宛?」
の言葉に、了平は首を傾げた。
「それが極限に忘れてしまってな・・・困っているのだ・・・とても重要なことを頼まれたはずなのだが・・・」
唸る了平に、が呆れたような苦笑を浮かべる。
「一旦出直した方が良いんじゃない?」
「うむ・・・極限に二度手間だな・・・・・・」
「本当ね。ボクシングバカらしいけど」
「バカとは失礼だな! 最近では妹もボクシングに理解を示しているというのに!!」
「京子ちゃんも苦労するわ・・・」
「何だとぉ!!! 極限に失礼な奴だなっ!!!」
「あら、ごめんなさい」
「 ?!!」
ぺろりと舌を出して謝ってみせたに、了平が動きを止めた。
あまりにも唐突に停止した了平に、が怪訝そうに首を傾げた。
「・・・何? 突然止まって 」
「貴様、今何と言った?!!!」
「は?」
今度は突然大声を上げた了平に、が本気で引いた。
だが、了平は構わない。それよりも .
「今何と言ったかと訊いている!!」
「・・・突然止まって?」
「その前だ!!」
「・・・・・・一旦出直した方がいい?」
「あ〜違う! 違う!!」
ガシガシと短い髪を掻き乱して、了平は声を荒げた。
聞き逃せない言葉を聞いた。
「何故、俺がボクシングをやっていると知っている?!」
「・・・・・・・・・そんなのボンゴレ関係者なら、誰だって知ってるでしょ?」
一瞬間をおいて、が呆れたように笑った。
「それに、あなたを見てそれぐらいのこと分からないようなら、ヴァリアーなんて無理よ」
「では何故、妹の名前を知っている?!!」
「・・・それもボンゴレなら .」
「ボンゴレでも知らん!! 何故なら沢田が情報を伏せているからだ!!!」
「 !!」
の笑みが強張るのを捉えながら、了平は早まる鼓動を宥めるようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
「沢田は極力身内の情報を伏せている。家族や友達、ボンゴレと直接関わりを持たないものが巻き込まれないようにするためだ。
だから、俺に妹がいることや、ましてやその名前なんて知っているのは極限に限られた者だけなのだ!」
言葉が徐々に熱を帯びていくのを抑え切れなかった。
「だから!! だから、貴様が単なるヴァリアーだとしたら、京子の名を知っているのは極限におかしいのだ・・・」
了平は、いまやカタチばかりの笑みを表情に残すだけのを、しっかりと見つめた。
「だから・・・だから、やはり貴様は、なのだろう・・・?」
口に出した言葉に、了平の胸が小さく痛んだ。
残っていた笑みを自嘲に代えて、が溜息を吐く。
「・・・・・・私がだと思う?」
「ああ。俺の勘がそう告げている・・・」
「そっか・・・昔から、変なところで鋭かったりしたからなぁ・・・・・・」
「やはり・・・なんだな?」
確信しているのに尋ねて、了平の胸が再び痛んだ。
「・・・・・・だとして、何か問題ある? 今の私はヴァリアーので・・・・・・ただ、それだけでしょ?」
否定せず、吹っ切ったように笑うに、了平の心が酷く揺れた。
「そうよ。それだけのこと。だからって、何かが変わるわけじゃないでしょ?」
「・・・・・・ 」
「じゃぁね。用事を思い出したら、また来なさい」
何も言えない了平に背を向けて、は去っていく。
了平はただ立ち尽くしてその背中を見送るしかない。
が生きていた それはずっと忘れようとしていた恋心を刺激して。
が死んだ そう聞いた日からずっと宥め眠らせていた心が疼いて。
がヴァリアーにいる その事実がワケも分からないまま混乱する胸に突き刺さって。
一度葬った気持ちを目覚めさせるには充分すぎる事実たちに、了平はただただ痛みを感じていた。
アトガキ
了平、喋る喋る・・・・・・まとまらない、まとまらないw
・・・あの日封じた感情を呼び戻す事実。それは全然優しくなかった・・・・・・
Photo by 水没少女
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