「しししっ」


  あからさま聴こえた笑い声に、は足を止めて振り返った。
  「何か御用?」
  にっこりと笑顔で問えば、ベルもさらに浮かべる笑顔を深くする。
  「ししっ! あんた昔の女だったんだって? あの晴男の」


  内心で溜息を吐きながらも、は笑顔を浮かべたまま首を傾げてみせた。
  「何のことかしら?」
  「今更とぼけんなよ? 変態オヤジがヴァリアー中に広め回ってっから♪」
  「あら・・・困ったわね。デマなのに」
  内心で思いっきり舌打ちをしながらも笑顔を浮かべたまま、はのんびりと呟いた。
  ここで声を荒げるのはらしくない       そう考えれば、本当に声を荒げたかったのかさえ、もう分からない。


  「ま、すぐ忘れるだろうから、別にいいわ」
  「そんなアッサリでいいのか?」
  「いいんじゃない? だって、デマなんだもの」
  「ふーん」


  にっこりと微笑を浮かべるに、ベルが面白くなさそうに口を尖らせた。
  「ちぇっ。息の根止めてくれりゃぁ楽しかったのに。アンタが変態オヤジの」
  「・・・それは、そっちにお願いしたいわ・・・」
  心の底から嫌そうな顔をしたに、ベルも同じように顔を顰めた。
  「係りたくねーのは、俺もだもん」


  「ミーもです」


  「?!」
  慌てて振り返ったベルの後ろに、カエル       の被り物を被ったフランがいた。
  相変わらず何を考えているのか分からない4つの目(カエルの被り物についてる目玉と本人のと)が、とベルを見つめていた。
  「なので、レヴィさんのオヤツを食べたのは仮王子だって、教えてきちゃいましたー」
  「ゲッ!! なんつーことをっ?!」
  「いいじゃないですかー、本当のことだしー」
  顔を引き攣らせるベルを気にせず、さらっと告げる。
  「レヴィさん、結構本気でキレてましたしー」
  「マジかよっ?!」
  「大マジでーす。仮王子許さんーって騒いでましたから」


  「、レヴィが来たら殺っといてくれていいから! 俺の代わりに!!」
  「・・・めんどくさ」


  慌てて去っていくベルの背中に、ぽつりと思わず本音を零して、は残ったフランを振り返った。
  じっと見つめてくる感情のない4つの目を見つめ返して、はとりあえず、にっこりと微笑んだ。


  「昔の男の話、聞きましたー」
  「あっそう。デマなんだけどね」
  「さんの昔の話、初めて聞きましたー。さんにも、昔ってあったんですねー」
  フランの感想に、は微笑を浮かべたまま首を傾げた。
  「あら? 今まで私のこと、何だと思ってたのかしら?」
  「前に言ってたじゃないですかー? 過去には興味がないーとか、昨日のことは忘れる主義だーとか」
  「そんなこと、言ったかもしれないわねぇ・・・」
  「カボチャから生まれたーとか、国籍がないーとか、その他にもいろいろ」
  「そう言えば、そんなこと言ったわねぇ・・・」
  見つめる感情のない視線に、は無邪気に微笑を浮かべる。


  微笑むをじっと観察していた瞳が、パチリと瞬きをした。
  「そーそー、怒りんぼのボスがさんのこと呼んでましたよー」
  「あら? 何かしら・・・まぁ、いいわ。ありがと」
  首を傾げて、もう一度微笑みを浮かべてから、はくるりとフランに背を向けた。
  4つの視線を感じていたが、それを気にしていないフリをして、内心で溜息を吐きながら、は足を速めたのだった。











もう、堕ちている











  「何か御用かしら?」


  XANXUSが視線を上げる。
  グラスがゴトリと音を立ててサイドテーブルに置かれた。


  「・・・おい。オレに嘘を吐いたな?」
  「嘘って、どの嘘のことかしら?」
  にっこりと微笑を浮かべるに、XANXUSが冷たい視線を向ける。


  「・・・オレに嘘を吐くとは、いい度胸だな。殺されたいのか?」
  「まさか!? 殺すなら、私じゃなくてレヴィにしてちょーだい」
  「・・・・・・・・・」
  「そんな恐い顔されても、ボスがどの嘘に怒ってるのか、私には分からないんですけど?」


  「・・・ジャポネじゃないと言ったな?」
  「あー、それ? 確かに言ったわ」
  燃えるようなXANXUSの視線に怯まず、は肩を竦めた。
  「人種なんて、何だっていいじゃない?」


  「・・・・・・日本に行ったことはないと言ったな?」
  「言ったわね。それが?」
  睨むXANXUSとは対照的に、は口元に挑発的な笑みを浮かべた。
  「何? 私が日本にいたら、何か問題でもあるのかしら?」
  「・・・・・・・・・・・・チッ」
  舌打ちをして、XUNXUSがグラスに手を伸ばす。


  「・・・・・・10年前、あそこにいたのはお前か?」
  「さぁ? 10年も前のことなんて覚えてないし。第一、あそこがどこを指すのか判らないし」


  「・・・・・・それも、嘘か?」
  「例え本当でも、ボスは疑うでしょ?」
  挑発的に笑みを浮かべたまま、は首を傾げてみせた。
  「だって、私は嘘吐きだから」


  「・・・・・・・・・・・・チッ」
  XUNXUSが荒々しくグラスをサイドテーブルに叩きつけた。
  跳ねた酒がテーブルに染みを広げていく。
  毒々しい笑みを浮かべたの視線と、突き刺すような怒りの混じるXANXUSの視線がぶつかって音をたてる。


  どれくらいそうやって睨み合っていただろうか       互いの心臓がたてる音が聴こえるほど研ぎ澄まされた空気の中、フッとXANXUSが笑った。
  「・・・ああ。よく分かった。お前は嘘吐きだ」
  「・・・・・・そうよ。やっと分かったの?」
  XANXUSの口元に浮かんだ笑みに、は訝しげに微かに眉を寄せた。
  自分を窺うその視線に、XANXUSは浮かべる笑みを濃くして、再びグラスに手を伸ばす。


  「・・・なら、嘘吐きにはそれ相応の接し方をするまでだ」
  「・・・・・・?」
  飲み干したグラスを置いて、XANXUSは組んでいた脚を下ろして立ち上がった。そうすると目の前に立つを見下ろすことになる。

  XANXUSから発せられる威圧感に、悠然とソファに腰を降ろしている姿を見慣れていたは、常と化している笑みが微かに強張らせた。
  それにさえXANXUSは面白そうに浮かべる笑みを深くする。


  「お前は今日、今からオレの女だ」


  「・・・・・・は? ・・・え? はい? 何? 嘘でしょ?」
  驚きのあまり表情を無くしたの様子を思う存分楽しんで、XANXUSは不敵に笑う。


  「嘘だ。だが、オレに嘘を吐いたこと、後悔してももう遅い」
  「な・・・何なのよ・・・・・・?」
  身構えたの胸倉を掴んで、強引に引寄せる。
  ムカツク笑みを浮かべる余裕さえなくしたの狼狽を至近距離で観察し、XANXUSは獰猛な獣そのものの表情を浮かべた。


  「オレはジャポネは嫌いだが、それ以上に嘘は好かん」
  「な・・・?」
  「だから、嘘は本当にしてやる」
  まるでキスでもするような近さで素のをその目に収めて、口角を吊り上げた。


  「お前はオレの女だ。さっさと堕ちて来い」


  掴んでいた手を乱暴に突き放して、XANXUSは不敵な笑みを浮かべたのだった。





















 アトガキ
  XANXUS様、参戦!!!w
  待つつもりはない。奪うだけだ・・・

Photo by 水没少女

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