「跳ね馬〜?! ヴおぉぉい!!!何で、てめぇがここにいんだぁ?!!」

「・・・あいかわらずだな、S・スクアーロ」
「ヴぉぉぉい!! 答えになってねぇぞ!!」

吼えるスクアーロに、ディーノは小さく笑みを浮かべた。

「そうだな・・・・・・囚われのお姫様を助けに、なら良かったんだけどな・・・」

「意味分かんねーぞ?!!!」

「分からなくていいんだよ・・・」
「ヴぉぉぉぉい!!!?」

「分からないほうがいい。その方がいいさ・・・」

呟いて、ディーノは肩を竦めた。






太陽色の髪を確認して、はそっと溜息を吐いた。

来るとは聞いていたが、本当に来るなんて       来てしまったものは仕方がない。

腰のホルスターに納まっている銃の重さを確かめて、はヤケクソ気味にもう一度溜息を吐いた。











同情すら与えないその笑顔











「遥遥ご苦労様ね、キャバッローネ」

振り返れば、優雅な半円を描く階段を下りてくる黒髪の女性がいた。

「・・・・・・やぁ」
ディーノはそれだけ言って、口を噤んだ。

ボンゴレ独立暗殺部隊ヴァリアーが拠点としているのはイタリアの古城の一つだ。
石造りの堅牢なこの建造物は、城と呼ばれるに相応しい。
見事な装飾を施された回廊や、質のよいアンティーク調の家具が配された部屋、
今いるこの玄関ホールも吹き抜けの天井と、客人を抱き込むように階段が優雅に伸びている。

完璧に城だ。

硬い石の廊下は靴音が響き、扉の開閉には重たい音が鳴り、微かな音さえ壁に反響する。
けして、気配を殺すのに適した場所とは言えない。
なのに、声をかけられるまで、ディーノは彼女がそこにいることに気付けなかった。
スクアーロと話していたから?  考え事をしていたから?
だが、ディーノだってキャバッローネを率いる10代目ボスだ。
感覚はいつだって研ぎ澄ましているつもりだ。なのに、彼女の接近に気付けなかった。
気付かされなかった。
その事実が、とても重たい。

「なぁに? せっかくの男前がしょぼくれて」

片頬を吊り上げて、意地悪そうにが笑う。
笑われたディーノより先に、スクアーロがピクリと青筋を立てた。

「あぁぁぁぁん?! てめぇレヴィとの任務はどうしたよ?!!」
「レヴィ? 誰だったけ?」
「ヴぉぉぉぉぃ!!!!」

「冗談よ。忘れたいのは本当だけど」
「・・・言うようになったじゃねーか?!」

「彼、一人でやりたいんですって。ボスにいいとこ見せたいんじゃない?」

そう言って、は肩を竦めた。
スクアーロの額にまた一つ青筋が増える。

「っあんのヤロ〜!!!」

「だから、邪魔が入らないように、出入り口は全部破壊してきたわ。
今頃、一人で頑張ってるんじゃないかしら?」

「・・・・・・・・・」

「一人でやりたいって言うんですもの、仕方ないでしょ? 頑張ってもらいましょうよ」

「・・・仕事は、ターゲットの暗殺だったはずだろーが?」

「ええ。でも、構わないでしょ? レヴィなら、皆殺しにしちゃうでしょうけど」

元々の作戦は、レヴィの雷撃を陽動として、その隙にが対象を狙撃するというものだったはずだ。
殺しのターゲットは一人だけだったのだが      .

「多分レヴィ、ターゲットの顔、覚えてないわよ。脱出するためには通路の破壊も必要だし。
レヴィなら、手っ取り早く皆殺しにして、建物ごとフッ飛ばすでしょうね」

「・・・・・・・・・まぁ構わねーなか」
「でしょ? 作戦隊長なら、そう言ってくれると思ってたわ」

はにっこりと無邪気な笑顔を浮かべた。

殺しの対象は唯一人       だが、皆殺しにするなとは言われていない。

仕事を邪魔する者は躊躇い無く殺す       ヴァリアーの理屈では、何の問題もない。

「なぁに? 眉間に皴が寄ってるわよ、キャバッローネ」

振り返って笑ったに、ディーノはグッと奥歯を噛み締める。
そんなディーノを嘲笑うように、は目を細めた。

「やぁねぇ、そんな顔しないでよ? 私に会いに、わざわざ来てくれたんでしょ?」

「そういうことなら、さっさと言え!! おかげで余計な時間を割いちまったじゃねーか!!!」

「あら? スクアーロが勝手に話し込んでたじゃない。誰も引き止めてないわよ?」

「チッ・・・・・・」

完全に機嫌を損ねたスクアーロが背を向けて去って行く。






「・・・・・・で? アルコバレーノの指示?」

スクアーロの気配が完全に消えてから、が口を開いた。
感情を伴わない淡々とした確認口調に、ディーノは首を振った。

「いいや。リボーンは、そんなこと言わねぇ・・・」

「そうよね。彼は反対しなかったもの・・・ホントさすがアルコバレーノ、“最強の赤ん坊”よね」

ディーノを振り返って、は唇を吊り上げた。

「人の本質を見抜く目を持っているんですもの」

「・・・俺は、そんなふうには思ってない・・・」

ディーノの呟きに、が嘲笑を浮かべた。

「往生際が悪いわよ、キャバッローネ。今の私を見て、どうしてそんなふうに言えるのか・・・疑問だわ」

「君はこんな世界に踏み込んじゃいけなかったんだ・・・今からだって、遅くない。日本へ戻って      

「笑わせないで。自分の適職を辞めろって言うの?」

「君に人殺しなんて! しかもよりにもよってヴァリアーなんて! 君はこっちの世界の住人じゃない!!」

「今更戻れるわけないじゃない。それとも、なに? 相変わらず責任とか、良心の呵責とか、そういうのが理由なわけ?」

      !」

息を詰めたディーノを、は馬鹿にしたように見やった。

「私は“生まれながらの殺し屋”だそうじゃない? なら、それに相応しい生き方をしてるだけよ。
あなたに心配される筋合いなんてないし・・・寧ろ、迷惑だわ。
そういうことだから、用事がそれだけならさっさと帰れば?」

「だが・・・、君は      

「ああ。それとも、こう言えばいいのかしら? “あなたのおかげで私らしい生き方が出来てるわ。
ありがとう、キャッバローネ。あなたのおかげよ
”って」

「!!! 、君は       !?」

思わずディーノは息を止めた。
突き刺すような殺気が、ディーノを射抜いていた。

「黙って、って言ってるのが分からない、ディーノ?」

の手に握られた拳銃が、ぴたりと照準をディーノに合わせていた。

「帰って。そして、二度とその名で呼ばないで」

いつでも浮かべている笑みが消え、氷のような無表情で銃口を向けるに、ディーノはグッと唾を呑んだ。
向けられる殺気に、気を抜けば後退してしまいそうだ。
けれど、ここで引くわけにはいかない。
キャバッローネ10代目ボスとして。
そして、一人の男として      .

「・・・、君は撃たない。撃てるような人間じゃない」

「キャバッローネが同盟ファミリーだから?」

「違う。君が、だから、だ」

ディーノの言葉に、は呆れたようにディーノを見ながら、ゆっくりと唇を吊り上げた。

「・・・・・・だったら、証明してあげるわ」

の言葉と同時に、熱風がディーノの頬を掠めた。  
遅れて、背後の壁で石が砕ける音が響いた。

「・・・・・・・・・」

薄く切れた頬から血が溢れるのを、ディーノは無言で拭った。

腰のホルスターに銃を納めて、がにっこりと微笑を浮かべる。

「お分かりいただけたかしら?」

「・・・・・・・・・」

「帰ったら、アルコバレーノにも伝えて頂戴。
アルコバレーノのおかげで、自分らしく生きられる。
ありがとう
”って」

「・・・・・・・・・」

「“ありがとう、キャバッローネ。感謝してるわ。あなたのおかげよ”」

満面の笑みを浮かべて、はディーノにそう告げた。





















アトガキ
来週・・・のつもりが1ヶ月遅れですw
その笑顔に俺は。"本当"が分からなくなりそうだ・・・

Photo by 水没少女

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