「ヴおぉい!! 死にたい奴からかかってこいやぁ!!!」
「んもうぅ!! 質より量なんて情けないわねぇ!!!」
「ししっ!! こいつらアレなんじゃねー? 馬鹿ってやつ!!」
「この程度とは!! なめるなぁ!!!」
「じゃーレヴィさん一人でさっさとやっちゃってくださーい」
「なんだとぉ!!?」
「暑苦しーですー。こっち向かないでくださーい」
「ヴぉらぁ!! さっさと片付けろ ?!」
怒鳴ったスクアーロの背後で、今にも襲い掛かろうとしていた敵が倒れた。
もちろん、スクアーロも反応していたのだが、その剣が翻る前に男は絶命し地面に倒れていた。
相対するヴァリアー幹部によるものではない。突如倒れた男に、敵の間に動揺が広がる。
ビシッ!!!
微かな音がして、今度は後方に位置していた男が崩れ落ちた。目前のヴァリアー幹部から攻撃が届く距離ではない .
「どうして・・・?! 援軍か・・・・・・いや! スナイパーだ!!!」
倒れた男の眉間に空いた穴 それを見つけて、敵が叫んだ。その瞬間、恐怖が伝染した。
辺りを見回しても、それらしい影は確認できない。それどころか、狙撃手がいるだろう方向さえ判断できない。
いったいどこから狙っているのか。次に狙われるのは誰なのか。もしや自分か 一瞬にしてパニックに陥ったのをヴァリアーが見逃すはずもない。
「ヴぉぉぉぉぃ!!! 余所見すんじゃねぇ!!!」
元々ヴァリアー幹部と相対するには力不足だった。それでも数で圧倒的有利だった敵が、このまま量で力押しすれば、掠り傷の一つくらい付けられる可能性はあったかも知れない。
だが、恐怖に囚われ、気力を削がれ、パニックに陥った今では、その可能性は消え失せた。
「・・・・・・・・・チッ、余計なことを」
呟いて足を組みかえる。
周囲では、ヴァリアー幹部たちが淡々と敵を倒している。すでに当初の勢いは削がれ、ヴァリアーによって殲滅させられるのも時間の問題だろう。
初めからありはしなかったのだが、自分が加わる必要はこれで完全になくなった。
それを確認して、XANXUSは興味を失ったと言わんばかりに瞼を下ろした。
スコープに映し出されたその仏頂面を確認して、静かに視線を外した。
姿勢は変えずに木の上に伏せたまま、じっと気配を殺して周囲に気をやる。
肉眼では確認不能なほど戦闘区域から離れているが、それでも注意を怠ることはない。近接戦闘になれば、自分はヴァリアー幹部の最弱部類に入るだろう。それでも、そう簡単にやられはしないだろうが 周囲に敵がいないことを確認して、もう一度射撃スコープを覗き込む。
粗方戦闘は終了したらしい。
敗残兵を追いかけて、ヴァリアーの下っ端隊員が四方へ散っていく。幹部の面々は、すでに緊張を解いているように見える。
再びXANXUSの仏頂面を確認して、今度こそは安堵の溜息を吐き出した。
わたしの存在理由
「ヴぉぉぉい!! てめぇ、アレはどぉいうことだぁ?!! 俺に喧嘩を売ってんのか?!!」
「あら? 私は私の仕事をしただけ、のつもりなんだけど?」
にっこりと微笑を浮かべたに、スクアーロはピクリとこめかみを引き攣らせた。無邪気に何のことか全く分かりませ〜ん、と笑う彼女の内心が、その通りではないことは既に周知の事実だ。
「俺が倒せる敵を横取りする許可なんて、出したつもりはねーぞ!!!」
「許可? そんなもの必要だったの? それは知らなかったわ」
「てんめぇ〜!!!」
「ごめんなさいね。私、そういうところ気がきかないの。許して?」
ぺろりと舌を出し、抵抗なく頭を下げたに、スクアーロは言葉を飲み込んで低く唸るしかない。
さっさと頭を上げたが、無邪気な笑顔を浮かべたまま小首を傾げた。
「でも、今回の私の役割って、戦闘のフォローでしょ? 危ないと思ったから、手を貸しただけなんだけど?」
「〜〜〜!!?」
「そうよね、作戦隊長様が危うい戦いなんてするはずないものね。私が、気を遣いすぎたの。ごめんなさいね」
「てんめぇ〜!!!!!」
「今度から気をつけるわ。でも、気を遣うの下手なの、私。だから、先に謝っておくわ。ごめんなさいね、許して?」
ぺろりと舌を出し、は無邪気だった微笑を、片頬だけを持ち上げて狡賢い笑みに変えた。
「許さねーぞ!!! 次やったら、ナマス切りにしてやる!!!」
「どうぞ、ご自由に。その前に、その後頭部に風穴開けてやるわよ」
愛用の射撃銃を抱えて、ブーツの踵を鳴らしては悠々とスクアーロの前から去っていった。
「・・・おい」
「あら? 何、ボス?」
いつものように言葉もなく通り過ぎようとしたを、ソファに腰掛けたままXANXUSが呼び止めた。
グラスを手にし、体を深くソファに預けたまま、その強烈な視線を上げることさえせずに。
「・・・・・・余計だ」
「何のことか、分からないわ」
「・・・・・・・・・」
にっこりと微笑を浮かべたに向かって、ようやくXANXUSが視線を向けた。ヴァリアーのボスに相応しい鋭さに、けれど怯むことなくはにっこりと笑う。
「仕事をしただけよ。それとも、ヴァリアー・クオリティには相応しくなかったかしら?」
「・・・・・・ふん」
鼻で笑ったXANXUSに、は肩を竦めた。
「・・・・・・おい」
再び歩き出そうとしたところを、呼び止められては若干面倒そうに振り返った。
「なぁに? 一人が寂しいって性格じゃないでしょ?」
「・・・・・・」
「ボスの瞬き一つで一緒に寝てくれる女なんて、沢山いるでしょ? わざわざ私にする必要性なんて、ないでしょうに?」
挑発するような笑みを浮かべて、はXANXUSを窺う。
「・・・それとも、ボスは硝煙と血の匂いがする女を御所望? 悪いけど、私はベッドの中でまで戦う気はないわよ?」
「ハッ」
鼻で笑ったXANXUSに、はその笑みから毒を抜いた。
だが、XANXUSはグラスの酒を煽って、再びに冷たい視線を向けた。
「・・・お前、ジャポネか?」
「そう見える? もし、そうだって言ったら?」
「・・・・・・ジャポネは好かん」
XANXUSの言葉に、が面白そうに片眉を上げた。にっこりと微笑を浮かべる。
「あら。なら良かった。私、チャイニーズ系コリアンよ」
「・・・・・・そうは見えん」
「だったら、チャイニーズ・アメリカンでもいいわよ?」
「・・・・・・・・・」
「アジア系ヨーロッパ人でもいいし、好きに判断してちょーだい」
「・・・・・・日本に行ったことはないのか?」
「残念ながら、ないわね」
「・・・・・・・・・チッ」
舌打ちの音を聞きながら、はXANXUSに背中を向けた。
「・・・おい」
今度こそ歩き出そうとしたところで、またしても声をかけられ、は振り返らずに足だけを止めた。
「だから。寝室までは付き合わないわよ」
呆れたように投げられた言葉は取り合わず、XANXUSはの背中に燃えるような視線を向けて口を開いた。
「跳ね馬が来ると、連絡があった」
「・・・いつ?」
「来週だ」
「ふ〜ん、そう。来週ね・・・」
「逃げるなよ」
「誰が」
「なら構わん・・・・・・それだけだ」
「了〜解」
抱えたままの銃を軽く持ち直して、は今度こそXANXUSの視界から歩み去っていった。
アトガキ
Photo by 水没少女
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