何となく予感めいたものを感じて、読んでいた本から顔を上げる。と同時に、傍らで寝そべっていたジョンが尻尾を振って体を起こした。
  玄関へと向うジョンに、予感が当たったことを確信した。

  鍵の差し込まれる音に、アタシも本を閉じてジョンの後を追った。


  「やぁ、!」
  「おかえり、キース」
  「ただいま!」

  足元で尻尾を振るジョンの体を一撫でし、一緒に家の中に入ってきながら、彼がにっこりと微笑んで腕を広げる。

  「・・・・・・何?」
  「つれないなぁ」

  両腕を広げたまま、彼が苦笑する。

  「お帰りのハグとキスだよ」

  ほら、と促すように一層腕を大きく広げる彼。

  「・・・そんなに楽しかったの?」
  「ああ、楽しかった。そうとも、楽しかったんだ!」

  力説するように彼がぐっと拳を握る。

  「考えても御覧よ、。ヒーロー同士で呑むなんて、素敵なことだと思わないかい?!
   確かに、彼らとはランキングを争うライバルではあるが、同時に平和を守る仲間なんだ!!
   そんな彼らと友好を深めることが出来て、私はとても嬉しい! そして楽しかったんだ!!」

  「・・・はいはい。よかったね」

  どうやら、大分呑んできたらしい。いつもの彼よりも、大分テンションが高いのがその証拠。それと     .

  「だから、にもこの嬉しい気持ちを分けてあげたいんだ!」

  言うなりアタシを抱きしめた。抱きしめられた腕の中は、やっぱりアルコールの匂いがした。
  思ったとおり、大分呑んできたらしい。酔うと彼は普段以上に距離を縮めてくるから。


  「・・・うん、ありがと。キース」
  背中を軽く叩いて離して、と合図を送るのに、彼の腕は全然緩まない。寧ろさらにギュッと抱きしめられて、アタシは手を止めた。

  「・・・・・・キース?」

  名前を呼んでも彼の腕は緩まなくて。

  「・・・キース、何      
  「。私は不安なんだ」
  「え・・・?」

  突然の告白に彼の真意を確かめるためにその顔を覗き込もうにも、ギュッときつく抱きしめられてはそれも叶わない。

  「最近のは、何だかとても遠く感じることがあるんだ
   ・・・今だって、この手を離したら消えてしまいそうな気がするんだ」

  さっきまでの楽しそうな声とは打って変わって真剣な彼の声に、彼が本気だと知れた。

  「だけど、私にはどうしたらが帰ってきてくれるのかが分からないんだ・・・・・・」

  「・・・キース、アタシここにいるよ?」

  「そうだね。今晩だって、この扉を開けてが私の帰りを待っていてくれて、とても嬉しかった・・・・・・
   もしかしたら、いないんじゃないかって、私はそう思っていたんだ」

  「・・・留守の間、ジョンと一緒にいるって言ったでしょ?」

  「あぁ。君はそう言っていた。だけど      

  腕が緩み、彼がアタシを覗き込む。
  その空色の瞳は今にも雨が降り出しそうだった。

  だけど       アタシの顔に何を読み取ったのか、彼はその色を隠して、苦笑を浮かべた。


  「そうだね。私が少しナーバスになっていたのかもしれないね」
  「もぅ・・・大丈夫? ちょっと呑みすぎたんじゃない?」
  「う〜ん、そうなのかもしれない」
  「二日酔いのヒーローたちなんて、全然格好良くないんだけど?」

  笑いながら、内心ドキリとした。


  脳裏にはずっとあの女性の姿が焼きついていて。
  キースと親密な雰囲気でいた、綺麗なあの人      忘れたくても忘れられず、何度も再生されたあの場面は擦り切れるどころかより鮮明に記憶に焼きついてしまっている。

  アタシじゃ敵わない。

  だから、彼の唯一になることを諦めようと思ったのに。
  それでもいいと思ったのに。
  騙されててもいいと思ったのに。
  いつか別れがくることを受け入れようと思ったのに。
  あの時は思えたのに     .

  再び抱きしめられた腕の中で、アタシは溺れそうになる。
  まるでそれが当然のように、自然と繋がれた彼の手に。口付ける唇に。抱き寄せる腕に     .
  どんどん苦しくなる。


  だから、今ならあの日のアタシに言える。



  (愛していたら全て許せる       そんなのは、嘘だ)






だから、愛なんて信じないと
                >>>  彼のこの手を、信じていいの?











 アトガキ
  ・・・・・・・・・前回の話をあんな展開にしたため、何だか死亡フラグが立ちそうで、書いてる張本人がビクビクしてます。
  信じたい、信じさせて。だけど、本当はもう・・・・・・・・・

Photo by clef

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