足早に改札を抜けて駅前広場へ辿り着けば、予想通り、綺麗な金髪が真っ先に目に飛び込んできた。
「」
すぐにアタシに気付いて手を振る、彼のその爽やかな笑顔 ホント、何でこの人こんなに完璧なんだろう。若干、天然ではあるけれど。
今時の線の細いイケメンとは違って、ちょっと筋肉質ではあるけれどモデルのような均整の取れた体つきと、整った甘いマスク。ホント、完璧。
えー?! の彼氏、超カッコイイ!! どこで知り合ったの? 何してる人? ・・・友人たちに聞かれる度に、苦笑いを浮かべながら濁してきた。
えっと、ポセイドンの委託会社、みたい。よく知らないんだけど・・・・・・あははは。
我らがキング・オブ・ヒーロー、スカイハイなんです、彼・・・・・・なんて、言えるわけないじゃないか。
「ごめん、待った?」
「いいや。私が早く着きすぎただけだよ。行こうか、」
そう言って、さりげなく、エスコートしてくれるところとか、ホント、完璧すぎ。
寧ろ、エスコートされ慣れてないアタシの方がどこかぎこちない。
彼の腕に腕を絡ませるのだって、実は未だに緊張するのだ。でも、二人で歩くときはそれが定位置、みたいな自然な流れがあるから何とか・・・あぁ、でもやっぱり緊張する!!
「店まで少し歩くけど、いいかい?」
「うん。大丈夫」
ちらりと時計を確認すれば、ちょうど約束の時間。
あぁぁ、アタシなんか約束の時間に間に合うように来るので精一杯なのに。
待合せは彼の方がいつも先に着いていて待っていてくれる。それが申し訳ない。
だってヒーローの彼は、一般人のアタシなんかよりも絶対的に忙しいはずなのだ。
「ごめんね、キース・・・本当は、だいぶ待ってたんじゃない?」
「そんなことはないけれど・・・がそんなに気にするんだったら、次からは遅れてくるようにするよ」
にっこりと笑う彼に、アタシは思いっきり首を振った。
「いやいや、アタシがもう少し早く来ればいいんだって! 帰ったら、家中の時計の針、早めとくから!!」
「ははは、は面白いな。なら、私も同じだけ時計の針を早めないと」
「?」
「そうしないと、私との時間がズレてしまうじゃないか」
「?!」
「それに私はに会えるのが嬉しくて、ついつい早く来てしまうだけなんだから」
だからが気に病む必要はないんだけどなぁ、と笑う彼は、やっぱり完璧だ。
我らがスカイハイは、クサイセリフを口にしても、とっても爽やかだ。嫌味の一つもないのだもの。
浮かぶ笑顔は、大型犬の穏やかさで、その優しげな微笑に、さっきからすれ違う女性たちがキースを意識しているのが分かる。
ついでに、その彼に腕を絡ませているアタシに気付いて、オマケのように嘲笑・・・まぁ、それは自意識過剰だとしても、キースに対する視線は間違いようがない。だって、彼は完璧なんだもの。少々、天然ではあるかもしれないけど。
今だって、アタシが人とぶつからないように、さりげなく守ってくれた。
アタシの視線に気付いても、にっこり微笑んで、大丈夫?って聞いてくれる。
だから、アタシも笑って頷く。
ホント、彼は完璧だ。
どうして、アタシの恋人なんてやってるの? だって、キースはみんなのヒーロー、スカイハイでしょ?
望めばもっと、キースにお似合いの完璧な彼女が隣で優しく微笑んでくれるのに。分からないよ・・・・・・
愛されてる実感はある。でも、愛される自信がないの。
アタシの容姿なんて中の中・・・いや、中の下で、美人ってわけではないし。
キースの同僚には、ブルーローズという美人さんもいるんだから、ルックスで勝負なんて出来ないのはよ〜く分かってる。
性格だって、自分で言うのもアレだけど、けっして可愛げのある方じゃないし。どっちかっていうと、性格に難ありっていう評価の方がしっくりくると思う。
そんなアタシでいいんですか? もっといい子、いると思うよ・・・・・・なんだか悲しくなってきた。
そりゃぁ、アタシだって出来る努力はしてるつもり。
バイキングに行っちゃった次の日は、エレベータじゃなくて階段を上がってみたりだとか。
カロリー糖分ゼロ飲料を愛飲してみたりだとか。
キースの隣にいるときは、笑顔でいようって決めてみたりだとか。
それでもやっぱり、キースの隣にいるのは、アタシは相応しくないような気がしてしまうのは止められない。
「? 疲れているなら、お店、キャンセルしようか?」
「え?! 嫌!! アタシ、楽しみにしてたんだから!!」
「そう。それならいいんだけど」
いけない、いけない・・・マイナス思考のスパイラルに陥りかけた自分を叱咤する。
どんなに自分に自信が無くたって、キースがアタシを恋人として見てくれてる間は、そう簡単に彼の隣を譲る気はない。
アタシは、キースの傍にいられるだけで、一緒にいるだけで満足だし、幸せだ。
・・・・・・だけど、キースは?
一緒にいるだけでいい、なんて思ってるワケがない。だって、彼は完璧なんだもの。
彼に気に入られるように、嫌われないように、いつでも彼が喜んでくれるように アタシは、彼と一緒にいたい。
今日のデートだって、ずっと楽しみにしていたんだから。
アタシは、彼に相応しい女性じゃないけれど・・・だけど、相応しい女性になれるように頑張ることは間違ってないと思う。
例えば、ホントは二つ食べたいデザートを一つ我慢するとか、そんな小さなことであっても・・・・・・
でも、彼は優しいから。
もしかしたら、ホントはアタシに気遣って別れを切り出せないだけなの? ホントはもう他の素敵な女性のことが気になってる?
ほら、今すれ違った女性とか、とっても魅力的なプロポーションだったけど・・・
それとも、天然だから、アタシのこと好きだと勘違いしてるとか・・・・・・
「」
「!! な、何?」
慌てて俯いていた顔を上げれば、迷子になったゴールデン・レトリバーみたいな顔。歩みを止めた彼に、アタシも一緒に立ち止まった。
「今日のは少し元気が無いけれど・・・何を考えているんだい?」
「な、何も!! ほら、早く行かないと、お店、時間に遅れちゃうよ?!」
「大丈夫。お店は逃げないから・・・・・・だけど、は逃げてしまうだろう?」
キースがアタシの頬にそっと触れる。お願いだから、そんな悲しそうな目、しないでよ・・・・・・
「が何を思っているのか知りたいんだ。教えてくれないか、」
・・・・・・そんな顔されると、アタシは弱い。キース限定だけど。
だけど。
はい、アタシこんなことをネガティブに想像して一人落ち込んでました、なんて言えるわけがない。
往生際悪く、唇を噛み締める。だけど、視線は外せない。
だって、アタシの目には彼専用の感知器がついていて、どんな人混みでも一瞬で見つけられるし。
何より、アタシは彼のことが大好きで、少しでも長く彼のことを見ていたいのだもの。
「。言葉にしてくれないと分からないよ」
降りてきた親指が、噛み締めた唇に触れて。
アタシはとうとう降参した。元々、隠し事をするのも、嘘を吐くのも苦手だ。キース相手なら、尚更。
「・・・・・・さっきすれ違った人、すっごく素敵な人だった、から・・・」
「?」
「キースと並んだら、きっと凄く、お似合いだろうな・・・って・・・・・・」
「気付かなかったな・・・・・・の気を引くほどの男性とすれ違っていたなんて・・・」
「バカっ!! 女性よ!! すっごく綺麗だったの!!!
腰とか、こんな、キューっと細くて、脚もスラッと長くて、胸もこ〜んなに大きくて、目もパッチリしてて、唇だって艶っぽくって!!
しかも、すれ違うとき、キースを意識してた!!!」
「まったく気付かなかったけど・・・」
「もう!!! キースが好きになるなら、きっとあんな素敵な女性に違いないって思って!! ・・・・・・思って、アタシ・・・・・・」
言ってて、どんどん自分が情けなくなってきた。
あぁ、きっとアタシ今、とってもみっともない。
まともにキースの顔を見ていられなくなって、自分のつま先を睨みつけた。
履き慣れた靴には土埃 さっきの女性の靴、ピカピカだった。きっと買ったばかり。綺麗に磨かれて、あの女性にはとても似合ってた。
「」
くしゃりと大きな手で頭を撫でられた。
・・・・・・やめてよ。せっかく綺麗にセットしたのに。キースに会うまでに、走って乱れちゃったかもしれないけど。
完璧なキースから見たら、全然完璧じゃないだろうけど。
「は面白いことを言うね」
「・・・どこが?」
くすりと笑う彼に、どこが面白いのか全然分からないアタシは、胡乱な目を向けた。
もうこの際、アタシがみっともないことはどうでもいい。嫌われるんなら、これでお別れなら、せめてこの目に彼を焼き付けておきたい。
「すれ違っただけの見ず知らずの人に、私が関心を抱くと思ったのかい?」
「・・・・・・だって、凄く綺麗で・・・」
「」
ぎゅっと抱きしめられて、心臓が音をたてた。
「が不安になるのは、私がにちゃんと伝えられていないからだね・・・」
「そんなこと・・・っ」
「私はのことが好きなんだよ」
「・・・っ!!」
知ってる、なんて言えるわけなくて、アタシはキースの腕の中で呻くしかない。
「それとも・・・は隣に私がいても、すれ違う男性を好きになったりするのかい?」
「ちょッ・・・?!!」
そんなわけない。
だってアタシはキースが大好きで、キースしか目に入ってないんだから。
彼専用の感知器は、彼以外の除外装置でもあるんだから。
「そうだろう? 私が好きなのはだよ。理由だって、ちゃんとある・・・・・・」
キースの腕の力が弱まって、やっと深く息が吸えると思ったら、彼が真剣な顔でアタシを覗き込んできて、アタシの心臓はまた大きく音をたてた。
ホント、寿命が縮んだら、キースのせいだからね!?
そう言えば、ちゃんと聞いたことなかったけれど、いい機会かも知れない、と呟きながら、キースが首を傾げた。
「は私のどこが好きなんだい?」
言えるわけない。
優しい眼差しだとか、まるで叱られた大型犬みたいに拗ねるところだとか、時々空気の読めない発言でアタシを驚かせてくれるところだとか、優しさがそのまま伝わってくる大きな手だとか、抱きしめられた時に香るキースの匂いだとか、二人でいると安心出来るところだとか、一緒にいて優しくなれるところだとか、そんなの挙げだしたら限がないし、何より恥ずかしくって言えるわけがない!!
「・・・・・・キースは?」
「ん?」
「・・・キースは、アタシのどこが好きなわけ?」
「そんなの、全部に決まってるじゃないか」
「?!!」
「の笑顔も、怒ったところも。泣かせたくはないが、の涙は綺麗だと思う。の全てが愛おしい。
それに何より、といると楽しいんだ。だから 」
優しい顔で彼が笑って告げた。
「私はの全てが好きなんだよ」
好きだ、って言ったでしょう
>>> 誰よりも 愛してる
アトガキ
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