「はそういうのに、興味がないのかい?」
「ん〜?」
ぺらぺらと雑誌を捲っていたら、彼が首を伸ばして覗き込んできた。
「何のこと?」
後半のページにあるはずの占いを探していたんだけど・・・・・・とりあえず中断。
彼はアタシの手から雑誌を受け取ると、表紙に近い数ページを指し示した。
「こういうの」
「・・・・・・無いわけじゃないけど・・・ねぇ?」
載っているのは所謂"ブランドもの"というやつだ。
流行最先端な洋服に流行最先端のバッグ、流行最先端のアクセサリー。
それこそ水のみで生きてるんじゃないかと思えるモデルたちがポーズを決めている、ブランドの広告ページ・・・・・・
ここに載ってる全て、一体いくらあったら手に入るのだろう・・・・・・・・・
「見ることもあるけど・・・なかなか買えないもん」
苦笑しながら言ったら、何故か彼は首を傾げた。
「女性はそういうものを、男性に買ってもらうんじゃないのかい?」
「・・・一概には言い切れないと思うけど?」
「彼氏やボーイフレンドたちに強請って、女性はそういうものを手に入れるのだと思ったのだが・・・」
幾分偏見がありやしないかい?
それは、自分で働いたお金でブランド品を手にしている、世の多くの女性に対して失礼だと思うんですけど・・・・・・・・・
彼がさっきまで読んでいたペーパーブックの題名がちらりと目に入った。
「あー・・・・・・なるほど」
納得。
彼が読んでいた本に覚えがある。
確か内容はシンデレラストーリー。お金持ちの男性に、ブランドものの服やらバッグやらを買ってもらった女性が、それらを身につけて、その男性と幸せになる話・・・・・・いや、もうちょっと夢があるけど。
内容的にはそんな感じで、どうしていきなり彼がそんなことを言い出したのかは、見当がついた。
「女が皆そんな性格だったら、男の人の大部分は破産しちゃうと思うけど」
ペーパーブックを指して指摘したら、う〜んと彼が首を捻った。
・・・・・・・・・もしかして、ヒーローのお給料って、物凄ぉくお高いのかしら・・・ヒーローもサラリーマンだと思っていたのだけど。
・・・・・・もしかして、キング・オブ・ヒーローともなると、給料も破格?
・・・もしかして、目の前のこの彼は、ブランド品を店ごと強請られても破産しない、一部の少数派だったのか?
「破産するかな?」
「してよ、そこは」
「そうなのか・・・皆、破産していたのか・・・・・・」
深刻そうに頷く彼。
・・・・・・うん、そういうことにしておこうか。
きっと、世の男性は皆金欠なのだ。そういうことにしておこう。
「は、どうして私を破産させてくれないんだい?」
えっと・・・・・・凄く、不可解なことを尋ねられている気がしているのですけれど・・・・・・・・・
やっぱり彼は、世の多くの男性たちとは貰っているお給料が違うのか・・・・・・少数派、いや。希少種だったのか・・・さすが、我らがキング・オブ・ヒーロー。
「は、私に強請ったことがないよね」
「えっと・・・強請って欲しい?」
「そうだね」
普通に頷く彼。
・・・・・・うん、さすがキング・オブ・ヒーロー。きっと破格の給料を貰っているに違いない。
彼を破産させるためには、一体どれくらい高価なものを強請ればいいのか・・・・・・
「・・・・・・例えば、アパートメントが欲しい、とか。ポセイドンの株をごっそり買って、とか・・・」
「それ、本当に欲しいのかい?」
苦笑する彼に、アタシは肩を竦める。
「うぅん、いらない」
そんなもの有っても困るだけだ。
今住んでる部屋は、特に立派なわけじゃないけど、不都合はない。
・・・・・・まぁ、収納がもうちょっと欲しいと思うことはあるけど、新しい部屋が入用になるほどじゃないし。
今の場所、今の大きさで、問題はない。
株だってあったら管理に困りそうだ。よく分からないけど。
・・・まぁ、お金に余裕があるわけじゃないし、貰えるのなら貰いたいけれど。
でも、特別な贅沢を望まなければ、今のままで何とかやっていける。
「は本当に欲しいものとか、ないのかい?」
彼が首を傾げる。
「ジャスティスタワーの正面は無理だけど、が欲しいって言うのなら 」
「キース」
「何だい?」
向かい合って、彼を真正面から見つめる。
「欲しいものは、アタシ自身で働いて買うから、いいの」
「そうか・・・」
何だこれ・・・まるでアタシが彼に我侭を言って困らせてるみたいだ。
何だろう・・・アタシ何か間違ったこと言った?
「キースは? 欲しいものとかないの?」
褒めてもらえなかった大型犬みたいに寂しそうな彼に、何とかいつもの調子を取り戻して欲しくて尋ねる。
アタシが買える程度の金額のものなら、プレゼントしてもいいし。
「・・・・・・私の質問には答えてくれなかったくせに・・・」
むっつりと唇を尖らせた彼に、本格的に不貞腐れてしまったことを理解した。
・・・・・・・・・どうしよう・・・そんなつもりじゃなかったのに。
そう思っても、打開策が分かるはずもなくて、居心地の悪くなったソファに座りなおして、彼の手から取り返した雑誌を開く。
あぁあ・・・こんなことなら、占いのページを先に読んでおくんだった。
きっと"恋人との喧嘩に注意"とかって書いてあったに違いない。今更遅いかもしれないけど。
「 」
顔を上げれば、ばっちり彼と視線が合った。
どうやら、ずっとそうしてアタシを見つめていたらしい。
「君はあまりにも完璧すぎるから、私は時々不安になるんだ」
突拍子ない言葉に、アタシはワケが分からず固まった。
"完璧" アタシのどこが?! 何を指して彼がそんなことを言い出したのか、全くもって見当がつかない!!
だって、"完璧"は彼のほうだ! キース・グッドマンの代名詞みたいなものだ!!
完璧=キース・グッドマン=スカイハイ=キング・オブ・ヒーロー ほらね! なんて分かりやすい方程式!!
「・・・"完璧"?」
何とかそれだけ聞き返す。
嘘でしょ? 何かの冗談でしょ? そう目で尋ねても、彼の顔は本気だと告げている。
「だって、君は私に我侭の一つも言わないじゃないか」
どこか寂しそうに、彼が口を尖らせる。
「私に何も強請らないし。私を困らせたりもしない。何だか・・・完璧すぎて不安になるんだ」
・・・・・・これは一体何の冗談なんだろう?
「もっと我侭を言って欲しいと思うのは、私の我侭だろうか?」
・・・いや。彼は真剣そのもので。どうやら冗談などではないらしい・・・
「もっと私を頼って欲しい。そう、頼って欲しいんだ」
「ちょ!! ちょっと待って、キース!!!」
アタシは慌てて彼の言葉を遮った。
だって、これは、これではあまりにも・・・・・・・・・アタシが恵まれすぎている。
「あのね!! 何か勘違いしてるよ、キース!!!」
「?」
「アタシは、キースと一緒にいられるだけで満足なの!! もう、それだけで幸せなの! それ以上なんて 」
一度自分自身を落ち着けるために、言葉を切った。
彼の顔を見つめながら、もう一言を搾り出す。
「我侭なんて もう聞いて貰っちゃってるから。頼り切っちゃってるし・・・・・・」
「それは我侭とは言わないよ。だって、私が全然困らないじゃないか」
「困らせる必要ある?! アタシは困ってるキースよりも、笑ってるキースの方が好きだし・・・・・・」
彼が表情を少し緩めた。
どうやら、少しは納得してくれたみたい・・・・・・
「そうか・・・でも、つまらないな。に何かプレゼントしたい気分だったのに」
残念そうに唇を尖らせた彼に、アタシは苦笑した。
「気持ちだけでいいよ。ありがとう・・・・・・・・・それに、本当に欲しいのは、お金じゃ買えないものばかりだもん」
「そうなのかい? 一体何だろう?」
「内緒」
ちょっとだけ得意気に、唇に手を当てて、アタシは笑う。
彼と一緒に過ごす時間だとか、彼との思い出だとか、彼の笑顔だとか 彼に出会う前のアタシなら、鼻で笑い飛ばすようなものばかりだけど。
今はそれが一番欲しいものだ。
「奇遇だね。実は私の一番欲しいものも、お金では買えないんだ」
爽やかに彼が微笑む。
「そうなの?」
「ああ、そうなんだ。お店で売ってるところも見たことがないね」
最初から無理な思い付きだったのだ。お店に売ってないのなら、アタシに買えるはずがない。
お店で買えないもの・・・・・・もしかして、"国"とか?
まさか! いくらキング・オブ・ヒーローでもそれは難しいだろうし・・・・・・
自由に飛ぶための"空"とか!!
売ってるとこなんて見たことないし・・・・・・"宇宙"とか"星"とかってこともあり得るなぁ .
「」
「?!!」
「幸せだって言ってくれたお礼だよ」
にっこりと彼が微笑む。
今アタシの唇を奪っていったくせに、もう一度アタシの頬に唇を落として。
「ありがとう」
微笑みながら、彼が少しだけ悪戯っぽく瞳を輝かせた。
「多分私は、"それ"をもう手に入れてる気がするんだけどね」
君との未来をくれるなら
>>> 口付けが ヒントです
アトガキ
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