ゆらゆらと揺れる、浮遊感 .
「」
あぁ。いい夢だ・・・夢の中でまで、彼に会えるなんて .
「本当に君は・・・」
優しい声をアタシが聴き違えるはずない。大好きなアタシの恋人 .
夢から醒めたくない。けど、彼を見たくて、アタシは重い瞼を上げ 心配そうな彼の顔があった。
何だろう? 何だかまだ夢の中にいるような、どこかぼやけた様な視界・・・・・・
「・・・・・・っ」
ズキンと頭の奥に突き刺さった鈍痛に、呻いて、思わず硬く目を閉じた。
「」
「・・・キース・・・・・・?」
痛みの波が引くのを待って、また瞼を押し上げる。でも、気を抜くと再び痛みが襲ってきそうで、眉間の皴は緩められそうにない。
それにしても、今のアタシの声は何? まるで、年老いた魔女みたいな皴枯声・・・・・・
「・・・っぅ」
再びズキンと脈打った頭の芯に、アタシは再度ギュッと目を閉じる。
「痛むかい?」
額に触れた彼の手は、いつも通り温かかったのに。一瞬の後には、彼の手がひんやりと感じられた。
あぁ、熱があるんだ、アタシ・・・
ようやく、今の自分の状態が風邪をひいているんだと、思考が追いついた。
そういえば やっと記憶も戻ってきた。
部屋に辿り着いたところまでは覚えてる。怠い・・・と思いながらソファーに倒れこんだことも。
少しだけのつもりで目を閉じて・・・・・・どこか遠くで、携帯も呼んでいた気がする・・・・・・
「電話にも全然出なかったし」
あぁ、あれはキースだったのね・・・・・・熱に浮かされた頭で、納得した。
そう言えば、ソファーに倒れこんだはずなのに、今いるのはアタシのベッドだ・・・・・・
もしかして、アタシを運んでくれたのかしら? 自分で移動できる状態じゃなかったから、それ以外に考えられない・・・
「飛んできて正解だったね」
いつもの完璧な微笑とは違う、でもとても優しく微笑む彼に、胸の奥がキュッと締まった気がした。
心配、させてしまったみたい・・・
「・・・・・・ゴメン・・・仕事、は・・・?」
掠々の声で尋ねれば、怒ったような、呆れたような彼の溜息。
「それどころではないだろう?」
「・・・・・・駄目、だよ。ヒーロー、じゃん、キース、は」
皴々の声で抗議すれば、むっつりと口を尖らせる彼。
「今一番ヒーローが必要なのは、、君だと思うんだが?」
「・・・そう、かな?」
「そうだとも」
深く頷く彼。
確かに、今のアタシには彼が必要だ。
「ほら、。薬を飲んで、休んだほうがいい」
差し出されたミネラルウォーターと痛み止め。
「ありがと・・・」
痛みの隙間を縫って、重たい体を起こす。当然のように、彼の手がアタシを支えてくれて。
正直ちょっと嬉しい。我らがキング・オブ・ヒーローを独り占めだなんて .
「飲めるかい?」
「ん・・・大丈、夫・・・」
クッションの位置を調節してくれる彼に甘える。
あぁ、風邪をひいておいて不謹慎ですけど、ずっと体調悪くてもいいかも・・・
「ったぁ・・・・・・・・・」
罰当たりなことを考えたアタシにお灸を据えるように、また鈍い頭痛が走る。
あぁ、ごめんなさい。やっぱり、早く治してしまいたいデス・・・・・・
「。君が思っているよりも、君は重病人なんだよ?」
呆れ声で言う彼の手から、ボトルと錠剤を受け取って、大人しく口へ放り込む。
熱を持った身体に、水が染み入っていくのが分かる。
キンキンに冷えた水ではないのに、とても美味しく、冷たく感じることに、自分の身体がいかに熱を持っているかを思い知らされた。
「・・・・・・あ〜、気持ちいい・・・・・・」
薬を飲み終えて、まだ中身の残るボトルを、ピタリとおでこ当てて、思わずアタシは呟いた。
少しだけ緩んだ痛みの合間に目を開けば、相変わらず優しい眼差しの彼と視線がぶつかった。
「あ・・・・・・キース、お茶、淹れようか・・・?」
「!」
アタシはおでこのボトルを外して、戸棚の中身を思い返す。
「確か、セイロン、の茶葉が・・・・・・」
「!!」
眉間に皴を寄せた彼が、アタシを睨んでいる。
「君は病人なんだから、大人しくしていなさい!」
ベッドに腰掛けた彼が、ポンポンとマットを叩く。
「でも・・・何か、悪い・・・・・・」
「いいから。私に任せて。そして、お任せあれ」
腰に手を当てて、彼が自信満々に言い切る。
「何か・・・申し訳、ない、だけど・・・」
「いいから。ほら、は眠りなさい」
「・・・・・・はぁい・・・」
気持ちは渋々、身体は喜んでベッドに倒れこんだ。
実は、ちょっと身体を動かすだけで眩暈がしてる。起きているよりも、横になっている方が随分楽だ。
甲斐甲斐しく上掛けを直してくれる彼に、嬉しさよりも申し訳なさがこみ上げてくる。
「・・・ごめんねぇ・・・・・・」
「」
くるりと振り向いた彼が、幾分わざとらしく眉間に皴を寄せた。
「眠らないつもりかい?」
「うぅん、違う、けど・・・・・・」
「私がいると邪魔かい?」
「うぅん、いて、欲しい・・・・・・」
「分かってる。だから、ちゃんと休んでくれたまえ」
「うん・・・ありがと、ね・・・キース・・・・・・」
「私が望んでやっているのだから、が気に病むことはないんだよ」
「うん・・・・・・でも、ありがと・・・・・・」
「、いいんだよ」
「うん・・・・・・大好き、だよ・・・キース・・・・・・」
「・・・君はいつも、唐突だね」
「・・・うん・・・・・・ありがと・・・大好き・・・・・・」
「・・・・・・・・・、私も君のことは大好きだが 」
珍しく“苦笑”というものを浮かべて、彼がアタシの顔を覗きこむ。
「 眠るつもりがないのなら、その口を塞ごうか?」
「ん・・・?」
ワザとなのか、そうじゃないのか、満面の笑みで。
薬が効いてきた証か、アタシは重たくなってきた瞼を、緩慢に持ち上げ そしてすぐに落ちる瞼をまた持ち上げ・・・
「の風邪ならうつっても構わないよ? が望むなら 」
朦朧とする頭で、アタシは何て答えたのだろう? 記憶はすでに朧気で・・・・
だけど、一瞬目を丸くした彼の顔がとても愛おしかったこと。
その後、困ったような、泣き出す一歩手前のような笑顔と声。
そして、眠りに落ちる直前、泣き笑いのようにそっと呟やかれたの彼の言葉を覚えてる。
「これ以上は私の我侭だよ・・・・・・」
いつからか幸せを奪うようになっていた
>>> 私のためだけに生きてくれ、なんて
アトガキ
Photo by clef
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