撃ちこまれる銃弾の雨に、了平は空を仰いだ。
地上の銃撃とは無関係に広がる青空に、いったい自分はこんなところで何をやっているのだろうか、と溜息を吐きたくなった。
話し合いで引き下がって貰いたかったのだが、残念ながら相手は徹底抗戦の構えを見せている。
絶え間なく撃ち込まれる銃弾に未だボンゴレ側に死傷者は出ていないものの、
このままの状況が続けば突破口を開くために数名の負傷者は覚悟しなければならないだろう。
キャバッローネからの報告によれば、敵の弾切れを期待するのは無駄らしい。
どうしたものか ここはやはり、自分が先陣を切って敵地に(文字通り)殴り込みをかけねばならないだろう、
という結論を出すまで3秒もかからなかった。
殴りこむならやはり正面から そう考えて、遮蔽物の陰から敵が陣取るビルを窺って、了平は異変に気付いた。
銃弾の雨は途切れることなく続いているのだが、敵の様子が何やら慌ただしい。
敵の注意が、こちらではなく別の場所へと向いているようだ。何かを探すような .
「!! かっ!!」
こちらからは死角になっていた敵の一人が倒れるのを見て、了平は合点した。
ここから800mほど離れた位置に陣取ったによる援護狙撃だ。
敵が構えかけた銃を撃ち落とし、さらにその胸にもう一発 的確な射撃の腕前に、了平は素直に感心した。
が援護してくれる。ならば .
「俺が道を開く! 行くぞ!!」
言うとともに了平は飛び出した。
銃を構えようとした敵が、次々との銃弾に沈んでいく。
その早さと精度の良さに、了平の口元に笑みが浮かぶ。
一気に距離を詰めて、了平は敵の体に強烈な右ストレートを打ち込んだのだった。
「ッたく・・・」
はスコープを覗き込んだまま、小さく舌打ちをした。
了平が自ら敵陣に切り込んだことで、状況はボンゴレ優勢へと傾いた。ただ .
【何人か、そっちへ向かったぞ!!】
「分かってる」
インカムから聞こえたディーノの声に短く返す。
「了平が勝てば・・・ボンゴレが敵を制圧すれば、こっちの勝ちでしょ?」
【!!】
「煩い。黙って。集中出来ない」
言いながら、撃鉄を起こし、薬莢を排して次弾を装填する。
自分のいるビルに向かってくる敵を無視し、は了平の行く手を遮ろうとした男の額を撃ち抜いたのだった。
もうさよならだよ
「よしっ! 制圧完了だな!!」
負傷し呻いているのは敵ばかりで、味方には大きな傷を負ったものはいないようだ。
ボンゴレに恐れを成して投降してきた連中も大人しく拘束されており、問題なさそうだ。
ふと、了平の拳を受けて倒れた男の傍に、通信機が転がっているのが目に留まった。
(誰かと連絡を取ろうとしていたのか・・・・・・?)
「笹川さん・・・」
眉を寄せた了平に、キャバッローネとの連絡役を担っている部下が困惑した様子で声をかけた。
「ディーノさんから、笹川さんと連絡が取れないって、自分のところに、凄い剣幕で通信が何度も来てるんっすけど・・・・・・」
「おぉ!! そうだった!! 邪魔だったので外していたのだ。極限に忘れていた」
了平が胸ポケットからインカムを取り出すのを見て、部下がほっと安堵の息を吐く。
どうやら、ディーノの“凄い剣幕”というのは相当なものだったらしい。
【おい!! さっさと出ろよっ!!! くっそったれ!!!】
早速キャバッローネの悪態が聞こえ、了平は苦笑を浮かべた。
普段はどちらかと言えば温厚に分類されるディーノがここまでイラつくほど、何度も自分に通信を入れていたのだろう。
「悪かったな、キャバッローネ」
苦笑とともに謝罪した。次の瞬間、了平の鼓膜を破るほどの勢いで、ディーノが叫んだ。
【だっ!!!】
「?」
【が危ない!!!】
思考が停止したのは一瞬だった。
了平はがいるはずのビルに向かって、全速力で走り出した。
近付くにつれて聞こえてきた銃声は、まだが無事でいることの証なのか それとも、の命を奪った銃声なのか .
「くそっ!! 俺はまだ、極限に何も、伝えていない、というのに!!!」
荒い息の合間に呟いて、がいるはずのビルの入り口へと駆け込んだ。
「キャバッローネ!! は何階に くそッ!」
の居場所を確認しようとして、インカムをどこかで落として来たことに気付いた。
上だろうと当りをつけて、階段を駆け上がる。
とにかく今は、の無事を確かめたかった。
が死んだと聞いたとき、信じられなかった。
何かの冗談だろうと、冗談にしても笑えないと、そう思った。
冗談じゃない、本当だと言われても、到底信じられなかった。
が死ぬなんて、いなくなるなんて、極限に有り得ないと、そう思っていた。
彼女が帰ってくるんじゃないかと、“もう、大変だったんだから!”と笑いながらやって来るような、そんな気がしていた。
だけど、現実にはそんなことはなくて、周りは徐々にが死んだことを受け入れた。
だけど、自分はずっと、が死んだことを信じていなかったのだ。
の死をずっと自分は疑っていたのだと 再会した時に、そう気付かされた。
だから、がではないと言い張ろうと、そんなこと、自分には関係ないのだ。
自分にとって、はなのだから。
だから。
だから、こんなところでを喪うわけにはいかない。
喪うわけにはいかないのだ。
すぐ近くから聞こえた銃声に、了平は通路へと飛び出した。
「!!!」
突然現れた了平に、男たちが驚いたように振り返る。
「なっ? 了くん?!」
男たちの向こう側、ずっと探していた彼女の姿を見つけて、了平は晴々とした笑みを浮かべた。
「、助けに来たぞ!」
「助けにって・・・あんたが来てどうすんのよ? まだ事後処理だって残ってるでしょうに・・・」
「極限に問題ない!! 俺に後片付けがむかんことなど、誰もが知っているからなっ!」
「・・・自分で言わないで」
「はははっ! 俺が来たからには、もう心配ないぞ!!」
言い切った了平に、が溜息を吐いた。
「寧ろ、面倒なことが増えそうで、それが心配だわ」
そう言いながらの顔も笑みを浮かべていた。
やっと合った視線が、了平には嬉しかった。
「くそっ!! やっちまえっ!!!!!」
突然の乱入者にやっと状況判断が追いついたらしく、了平に向かって男が数人掴みかかってきた。
それを避わし、拳を撃ち込みながら、了平は、男たちがにも向かっていくのを見とめた。
接近戦、狙撃銃VS拳となれば、明らかにの方が分が悪い。
数発発砲したが、ボルトアクションでは不利と判断したのか、狙撃銃を放り出した。
今すぐの元へ駆けつけて加勢したいが、それには目の前の男たちが邪魔だった。
渾身の力で目の前の男を殴り倒すが、如何せん数が多すぎる。
「!!!」
スッと表情を引き締めたが、次の瞬間、掴みかかってきた男に向かって、鋭い掛け声とともに回し蹴りを繰り出した。
見事に決まったキックに、男の体が壁へと飛んだ。
さらに、挑みかかってきた別の男の腹に、低い体勢から突き上げるように肘を打ち込む。
体をくの字に曲げたその首に手刀を叩きこみ、男は堪らず床に倒れた。
「あぁ〜あ。私に倒されるなんて・・・キャバッローネの危惧通り、他のヴァリアーじゃなくて良かったわ。
こんなんじゃ、欲求不満で、彼らなら本当にビルごと爆破するわ」
そう呟きながら、は向かってくる男たちを倒していく。
その危なげない動きに、了平はとりあえず安堵した。
銃無しのと二人でも充分この場を切り抜けられそうだ そう思った。
「動くな!!」
怒声とともに響いた銃声に、了平とは動きを止めた。
一人の男が、いつの間にか拳銃を構えていた。
一発目はわざと外したのか、それとも外れたのか 震える照準はに向けられている。
「こそこそ隠れて撃つなんて、小汚いマネしやがって! このアマッ!!!」
呆れたように溜息を吐いて、が肩を竦める。
「私は狙撃手の仕事をしただけ」
「てめぇ・・・」
「それで文句を言われる覚えはないわ」
挑発するかのように笑みを浮かべるに、怒りのためか男の手の震えが大きくなる。
了平はさっと周囲を窺った。
銃を構えた男の他に立っている敵は後2人。
隙さえつければ、倒すことは難しくない。
「それに。先に戦いを吹っかけてきたのはそっちでしょ?
分が悪くなったら泣き言を言うなんて、ちゃんちゃら可笑しいわ」
「くっ・・・・・・」
「それとも。自分だけは安全だ、とでも思ってた? 死ぬことはないと思ってた?」
の嘲笑が深くなる。
「馬鹿ねぇ、本当に」
「黙れっ・・・」
「撃ちなさいよ」
「・・・!?」
「構えたのなら、撃ちなさいよ」
銃を構えた男を見据えたまま、が唇を吊り上げた。
「簡単でしょ、引鉄を引くだけなんだもの」
「うっ・・・」
今や完全に呑まれた男の銃口はガタガタと大きくぶれている。
それを嘲笑していたの顔から、スッと表情が消えた。
「引鉄を引けばいい・・・ただし、自分の命を賭ける覚悟があるのなら」
「うわぁぁぁぁぁ!!」
男が叫び声とともに引鉄を引く 瞬間、その横へ静かに移動していた了平が男に掴みかかった。
同時にも身を翻し、放り出されたままの狙撃銃へと手を伸ばす。
了平が拳銃を叩き壊し、男の顔面に強烈な一撃を喰らわせた時には既に、が二発の弾丸で残りの二人を倒していた。
「男の注意を逸らしてくれたおかげで、簡単に接近できた。礼を言う」
「こっちこそ。銃を封じてくれたおかげで、後の二人を倒せたんだから」
了平の言葉に、が笑って返した。
事前に打ち合わせなどはしていなかったが、なかなかのコンビネーションだったと思い返して、了平も満足気に頷いた。
「ん?」
ふと、改めてを見て、了平はその腰にホルスターが下がっていることに気が付いた。
もちろん、そこには拳銃のグリップが覗いている。
「それを使えば、もっと簡単に倒せたのではないのか?」
わざわざ離れたところに放ってあった狙撃銃を取らずとも、腰の拳銃を使えば そう思って指したその先の拳銃に、
の顔が一瞬強張ったような気がした。
「?」
「・・・・・・忘れてた」
「は?」
「いいでしょ。もう終ったんだから」
「でもウッカリ忘れることがあるのか!」
はははと笑えば、がにっこりと微笑を浮かべた。
「はいはい。ごめんなさい、忘れてました」
「しっかり者のお前でも忘れることがあるんだな!」
笑う了平に、が溜息を吐いて、狙撃銃を肩にかけた。
「・・・残党がまだいないか、この辺り確認してくるわ」
「そうだな。俺も一緒に・・・」
「一人で充分よ」
にっこり笑って、が了平を遮った。
「だが・・・」
「あなたは戻って部隊に指示を出して。私は一人でいきますから」
まだ何か言いたそうな笹川了平に、にっこりと微笑を浮かべて拒絶の意を示して、はさっさと踵を返したのだった。
アトガキ
了平、長すぎる・・・・・・まとまらない、Part.U(笑) なので、前の話に冒頭部分を移設しました。
・・・嘗て私だった全ての事に、今度こそ、今度こそ、本当に・・・・・・
Photo by 水没少女
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