爆発の後、巨大ELSには深い穴が開いていた。
  グラハム・エーカーが、その命と引き換えにELS中枢への進入路を開いたのだ。

  「・・・・・・どうして・・・」
  は唇を噛み締めた。

  一番死に近い場所にいたのは、自分のはずだった。
  余命残り少ないのは、自分のはずだった。
  なのに、この場所ではよりも長く生きるはずだった者たちが、先に死んでいく。
  理不尽だ。
  どうせ残り少ない命       だから、せめて。
  何かを、誰かを守るために使いたかった・・・・・・

  見つめる先、ELSの中枢に向かってダブルオークアンタが突入を開始した。

  「・・・・・・今度こそ・・・」
  は機体を反転させた。

  今、自分に出来ること       刹那に希望を託すこと。

  「・・・・・・邪魔はさせない・・・!!」

  そのために今、自分に出来ること       刹那の邪魔をするELSを倒すこと。

  「ここは、アタシが守る!!」

  刹那の代わりに、救える命を一人でも助けよう。それが今、自分に出来ること、だ。

  「守ってみせる!!」
  ぼろぼろの機体で。
  ぼろぼろの身体で。
  それでも最後まで足掻きたい。

  「戦ってみせる!!」
  たとえ先がなくとも、自分はまだここに存在しているのだから。

  「アタシはまだ生きてるんだからっ!!!」
  は引鉄を引いた。

  今、自分に出来ること       生きているうちに伝えたい。
  この気持ちを。
  この想いを      .











わたしからは「さよなら」をあげません











  「トレミーの汚染状況、15%を超えました!」
  フェルトの報告に、スメラギは表情を引き締めた。ここからは時間との勝負だ      .

  「スメラギさん! 連邦艦隊より通信が入っています!!」
  「繋いで」
  【クジョウ】
  「カティ!!」
  聴こえた声に、スメラギは驚きと嬉しさを滲ませた。
  どこか切羽詰った旧友の声に、スメラギは連邦艦隊の状態を確認した。
  損失は60%を超えようとしている。司令部もELSの汚染が始まっている・・・・・・
  「もう少し持ち堪えて!!」
  酷な頼みだと理解しながら、スメラギは声をかけた。
  【勝機はあるのか?】
  「いいえ・・・・・・」
  カティの顔が訝しく曇ったことが伝わってきた。
  ELSに勝てる戦術があるから言ったわけではない。そんなものがあるなら、こっちが教えてもらいたいくらいだ。
  だけど、信じているから       スメラギは語調を強めた。

  「      でも、希望はある!!」
  ダブルオークアンタ。刹那       彼に全てを託した。
  だから、その希望を見届けるためにも、最後の最後まで諦めるわけにはいかない!

  【・・・・・・・・・・・・分かった】
  カティの言葉に、スメラギは微笑んで小さく頷いた。再びカティと分かり合えたことが嬉しかった。
  「・・・カティ、連絡をくれてありがとう・・・」
  伝わったのだろう。通信機の向こうで、小さく笑う音がした。
  【・・・・・・死ぬなよ、クジョウ】
  「・・・カティ、あなたも」
  無意味かも知れない。けれど、言わずにはいられなかった。

  通信を切り、顔を上げる。
  ソレスタルビーイングの仲間も、マイスターたちも、カティも、連邦の兵士たちも、誰もがELSから地球を守るため、一つに纏っていく      .


  「スメラギさん、再度通信が・・・」
  「カティ?」
  すぐ繋ぎ直してくるなんて何かあったのだろうか      .
  「違います! 連邦からじゃありません・・・・・・」
  訝しむスメラギに、フェルトが首を振った。
  「これは・・・・・・暗号通信?!」
  驚きに、軽やかにキーを操作していたフェルトの手が止まった。
  「今は使用してない回線を使って・・・このコードは      
  今にも泣き出してしまいそうな声で、フェルトが呟いた。
  さんからです!!」
  「?!!!」
  「さんからのメッセージです!!! 間違いありません!!」
  最後はラッセに向けて、フェルトが叫んだ。
  「なっ!!!?」
  「読みます!」
  ラッセの返事も聞かずに、フェルトがモニターに目を走らせる。

  「      生き残って・・・・・・・・・それだけ、です・・・・・・」

  徐々に小さく消えていくフェルトの声に、ラッセは思わず拳を椅子に叩きつけた。

  「ふざけるな!!!」
  たったそれだけの、肉声でもない、ただ文字だけ。
  そんなもので、どうしろというのだ!?

  ラッセが口を閉ざしたブリッジを静寂が満たした。
  拳を握り締めたラッセにかける言葉すら見つからない。
  こんなもので、納得出来るはずがない。


  重たい空気を振り払うように、スメラギが小さく首を振った。
  「・・・ミレイナ、ソルブレイヴス隊は今?」
  「現在戦闘中なのは4機です・・・メッセージの送信元を辿って、さんの機体を特定するです!!」
  「ええ、急いで頂戴」
  「任せるです!!」
  スメラギの指示に力強く頷いて、ミレイナが機の探索を開始する。

  ぐっとラッセは奥歯を噛み締めた。
  どういうつもりだ!!と、目の前にがいたならば、掴みかかって問い詰めたかった。
  面と向かって冷たい言葉を投げつけたくせに、今になって気遣うようなメッセージを送ってみせて。
  いったいどういうつもりなんだ、と。
  俺たちのことを何だと思ってるんだ、と。
  ちゃんと俺の目を見て、本当のことを言ってくれ、と      .


  「!! また、さんからメッセージが!!!」
  「読み上げてくれ!!」
  フェルトの声に、ラッセはミサイルを撃つ手を休めることなく、声を張り上げた。

  「はい!       今更だけど、ごめんなさい。そして、ありがとう・・・・・・さん!!」

  読み終えたフェルトが、思わず悲鳴のような声を上げた。
  「さん・・・」
  「・・・あなた、やっぱり・・・・・・・・・」
  悲痛な声を聞きながら、ラッセは、怒鳴るように声を張り上げた。
  「ミレイナ!! まだかっ?!!」
  「後、少しです!!!」
  「頼む!! 急いでくれ!!!」
  ミレイナが素早くキーを操作する音を聞きながら、ラッセは操縦幹を握り締めて祈った。

        頼むから、頼むから、間に合ってくれ!!!

  拭いきれない不安と、抑えきれない焦燥感が、ラッセの心を炙っていく。
  メッセージを送ったとき、まだは生きていたはずだ。
  まだ、同じ宙の下にいたはずだ。
  この戦場のどこかに      .

  「見つけたです!! 通信回線開くですっ!!!」
  ミレイナの言葉とともに、ノイズ交じりの音声と画像が開いた。
  その瞬間、ラッセは腹の底から怒鳴っていた。


  「勝手なことばっかり言ってんじゃねぇぞ、!!!!!」
















     serenade / 喪失 より 「わたしからは「さよなら」をあげません」

Photo by Microbiz

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