【敵、水中用MAを6機確認しました。各員所定の位置についてください】
「敵はトレミーを包囲しつつ接近してきます」
艦内放送を終えたフェルトが緊張した声で報告する。
「攻撃開始予定時間は?」
「0024です」
答えたミレイナの言葉に、スメラギは表情を険しくした。
「赤道上にいることを敵が予想していた・・・・・・やるわね・・・」
から送られてきたデータにあった人物の名前を思い出して、スメラギは眉を寄せた。
(・・・まさか・・・・・・カティ・・・?)
考え込む前にブリッジの扉が開いて、マリー・パーファシーと沙慈・クロスロードが入ってきた。
「何か用でしょうか?」
緊張した様子で尋ねるマリーに、スメラギは入り口近くの座席を指し示した。
「補助席に座って」
スメラギの言葉に、沙慈が表情を険しくした。構わず、スメラギは視線を前に向ける。
「少し荒っぽいことになるから。ラッセ」
「了解」
スメラギの言葉に、ラッセが操縦桿を握る手に力を込める。軽い衝撃が、トレミーを揺らした。
「トレミー、急速浮上体勢に入る」
表示される水深が浅くなるにつれて、ブリッジ内の緊張も高まっていく。
「攻撃予測時間で、0004を切ったです!」
切羽詰った声で、ミレイナが報告する。
「まだよ。ギリギリまで引き付けて!」
「敵部隊に反応 」
フェルトの報告にスメラギが視線を上げた。
「大型魚雷です!!!」
「アリオス、ケルディム、セラヴィー、トランザム開始!!」
【了解!】
通信機から、各マイスターの声が返ってくる。
「GNフィールド最大展開! トレミー緊急浮上!! 爆発の上へ!!!」
「南無さん!!!」
操舵を握るラッセにも力が入る。船体が、激しく揺れる。
「トレミーを飛行モードへ!!」
海面へ躍り出たトレミーは、そのままの勢いを保ったままMS群を抜けて上昇を続ける。
不意を衝かれたアロウズが迎撃から、追撃へと作戦を変更する。
しつこく追ってくるMSを振り切るように、トレミーは宙へ向って一気に加速していく。
「全砲門、開きました!」
「一斉発射!!」
スメラギの声とともに放たれたミサイルによって、追いすがっていたMSが海面へと落ちていく。
これで振り切れた トレミーが、衝撃に揺れた。
トレミーの進行方向に向って、砲撃が放たれたのだ。
「直撃?!」
「大丈夫です」
あまりの揺れに動揺した沙慈に、マリーが冷静に声をかける。
「高度600キロを突破しました」
フェルトの報告に、ラッセが、ぐっと操縦桿を握る。
「このまま大気圏を離脱する!!」
再びトレミーに向って放たれた砲撃に、ブリッジの計器類が警告を発した。
「角度を変えられた!? ・・・敵の指揮官、本当にやる!」
驚きの声をあげるスメラギに、フェルトが告げる。
「トレミー高度1万キロ、低軌道リングを越えました」
「敵部隊の攻撃です!」
「まさか、待ち伏せ!!?」
ミレイナの声に、沙慈が恐怖と驚愕が混じった声をあげた。
「トランザム、限界時間を突破! 再チャージまでGNフィールドが消失します!」
フェルトの報告とともに、トレミーを覆っていたシールドが消え、待ち伏せをしていた敵MS部隊の砲撃が艦を揺らした。
「船体、上部に被弾です」
「敵の数は?」
「敵、巡洋艦1隻、MS6機です!」
ラッセの問いかけに、フェルトが応じた。
フェルトの報告に厳しい表情で瞳を閉じたスメラギが、呟いた。
「・・・そう」
逃げる余力がないと踏んだ敵艦の主砲が発射の準備に入っている。
「・・・・・・・・・予想範囲内ね」
発射された敵の主砲が、別方向から発射された砲撃に阻まれたのを見ながら、スメラギが呟いた。
大気圏離脱中に緊急発進していたダブルオーが、単独で地球から上がってきていたのだ。
ダブルオーの攻撃により、敵巡洋艦が炎をあげた。
「敵艦が沈黙したです!」
「敵MS残り4機・・・・・・撤退していきます」
ミレイナとフェルトの嬉しそうな声に、スメラギが詰めていた息を、ふぅっと吐き出した。
「読みがちだな」
「どうにかね」
振り返って、にやりと笑ったラッセに、スメラギも苦笑を漏らした。
(・・・からの、戦力データが役にたったわね・・・・・・)
「スメラギさん 」
フェルトがモニターを見つめて、声をかけてきた。
「 敵MSから有視界通信によるメッセージが届きました」
「メッセージ?」
「何だよ?」
訝しむスメラギに、ラッセも不思議がった。
戸惑うスメラギに、フェルトが尋ねる。
「読み上げますか?」
「お願い」
スメラギの言葉に、フェルトはモニターに目を落とした。
「『ソレスタルビーイングのリーサ・クジョウの戦術に敬意を表する 独立治安維持部隊大佐カティ・マネキン』・・・以上です」
「何だ、そのメッセージは?」
読み上げたフェルトがスメラギを振り返った。ラッセもワケが分からないと首を捻っている。
(・・・・・・マネキン・・・カティ・マネキン・・・・・・)
一人だけ、メッセージの意味を理解できたスメラギが眉を寄せた。
「スメラギさん?」
「どうしたんですか?」
沈黙したスメラギを心配そうに、フェルトとミレイナが振り返る。
何でもない、と言えるほど、まだ吹っ切れていなかった。
「逃げられないのね、あたしは・・・・・・」
そう呟いて、瞳を閉じた。
(・・・あの、忌まわしい過去から・・・拭えない過去から・・・・・・)
不意に、の顔が過ぎった。
出会った頃の“女王”のではなく、ソレスタルビーイングの一員の今のの顔だった。
アタシは、アタシに出来ることをやって、トレミーに乗るみんなを守りたい .
アタシは、アタシの出来る限りのことをやって、その一瞬を後悔しないで生きたい、後で恥じたくない .
(・・・・・・その通りだわ、・・・・・・)
スメラギは、一息吐いて顔を上げた。
「トレミーの進路をラグランジュ3へ。イアンが待ってるわ」
(そうよ・・・・・・今は、前を向くしかないわよね・・・・・・)
スメラギが顔を上げた先、トレミーの進行方向には、果てしない星空が広がっていた。
普段ほとんど使うことのない端末にメッセージを見つけたのは、トレミーが無事に宙に上がった後だった。
アロウズの追撃を振り切り、無事にラグランジュ3への進路を取った。
敵襲を受ける可能性が低くなり、各自順番に休憩をとることになった。操舵を自動操縦に切り替えて、ラッセは一番最後に自室に引き上げた。
スメラギの戦術予報を信頼していても、体は緊張を強いられていたようで、自室に戻って腰を落ち着けて、体中の空気を抜くように息を吐いていた。一息吐いてから、何気なくやった視線の先に、携帯端末があった。
ほとんど使うことのない端末は自室に置きっぱなしで、だからそのメッセージに気付くのも、もしかしたらもっと遅かったかもしれない。
だけど、その時は、気付けた。
何気なく手に取った端末に、メッセージがあることに気付いた。
滅多にない着信に驚きながら、その送り主の名前を見て、さらに驚いた。
「・・・、から・・・?!」
そう言えば、がトレミーに乗船したばかりの頃、ミレイナに強請られて、皆の番号を交換したのを思い出した。今まで使わなかったので、ラッセはすっかり忘れていたのだが .
(・・・・・・・・・・・・・)
驚きが収まらないまま、メッセージを開いてラッセは目を丸くした。
必ずトレミーに戻ります。皆の無事を祈ります・・・本当はアタシも一緒に行きたかった .
「・・・俺もだ、・・・・・・」
端末の微かな光に向って、ラッセは呟いた。
聞こえるはずがない。
ここは宙。
地球は遠すぎる。
それでも、ラッセはを想った。
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