【アレルヤ、発見しました!】
フェルトの明るい声が艦内放送で響き渡った。
腕の時計を確認すれば、そろそろ朝日が昇る時間だった。
消息が途絶えたのが、昨日の日暮れ間近だったから、それだけの時間を仲間の捜索にクルーが一丸となって全力を出したことになる。そのことに、沙慈は驚嘆を覚えた。
「・・・アレルヤ」
ふと顔を上げれば、出会ってからほとんど表情を変えることのなかった彼が静かに微笑んでいた。
「君でも、笑うんだ・・・・・・」
システムチェックを行っていた手を止めて、思わず呟いてしまった。
その言葉に、驚いたように刹那は、沙慈を振り向いた。
「・・・・・・嬉しいことがあれば、誰だって笑うさ」
そう言って、再び刹那は微笑んだ。
雨が止んだ。
空気中の不純物が洗い流され、海中に差し込む朝日が、徹夜明けの目に眩しい程に美しく輝いている。
「スメラギさん!!」
艦内放送をかけて、フェルトが嬉しそうにスメラギを振り返った。
「・・・ええ、よかった・・・・・・」
医療着の上に上着を羽織っただけの格好でブリッジにいたスメラギは、フェルトの言葉に頷いた。
ケルディムから、アレルヤを発見したとの通信が入った瞬間、ブリッジに張り詰めていた焦りが一気に解けた。
アリオスのシステムがダウンしてしまったせいで、どこにいるのか、無事なのか、生きているのか、それさえも分からなかった。
皆が徹夜でアレルヤを心配し、探していた。だから、アレルヤが無事に見つかって、トレミーを安堵の空気が包んでいる。
(戦う理由を失わずにすんだ・・・・・・)
「本当によかったわ、アレルヤ・・・・・・」
もう一度呟いたスメラギの横で、ケルディムから転送されてきた画像を見たミレイナが、突然歓声を上げた。
「おー!! なんか、彼女さんと一緒みたいです!!」
「か、彼女ぉ!!!!!!?」
「どおしてっ!!!?」
「・・・・・・ほぉう、女連れかい・・・」
ミレイナの言葉に、ラッセが素で驚愕の声をあげ、フェルトが頬を染め、が、にやりと唇を吊り上げた。
「・・・・・・あのこったら、何やってるのよ!!?」
ミレイナの言葉を理解できずに固まっていたスメラギも、呆れた声をあげた。
「ロマンスの予感ですぅ!!!」
キスするアレルヤとその彼女らしき人物の映る画像を見ながら、ミレイナが嬉しそうに、はしゃいでいる。
「・・・・・・アタシらが徹夜で探してる間に、ナンパに成功したってことデショ?」
皮肉気に唇を歪ませて、が呟く。
「・・・・・・アレルヤと、彼女・・・も一緒に回収していいのか?」
呆然としているスメラギに、比較的早く衝撃から立ち直ったラッセが、怖々尋ねた。
「・・・ええ、そうね・・・・・・そうしてくれる?」
やっと衝撃から我に返ったスメラギが、何とか答えた。
フェルトは、未だに真っ赤な顔をして固まっている。
操縦席で、ぐぐっとが伸びをして、背後のスメラギを振り返った。
「さてと、アレルヤも見つかったし・・・スメラギさん、お疲れのところ悪いんだけど、ちょっと、いい?」
「ええ、何かしら?」
「とりあえず、相談と提案、あるんだけど?」
そう言って、は腰を上げて、扉を指し示した。
ここではなく外で話したい、ということなのだろう。スメラギは頷いてみせた。
「みんな、お疲れ様。アリオスの回収がすんだら、それぞれ休んで頂戴」
そう言って、席を立つ。
「・・・・・・ラッセ、後で話す。後で、ちゃんと話すから・・・」
物言いたげな視線にそう告げて、はスメラギを伴ってブリッジを後にした。
「それで、話って何かしら?」
「アタシを使って下さい」
ブリーフィングルームで、スメラギ・李・ノリエガとイアン・ヴァスティを前にして、は口を開いた。
「スメラギさん、この艦にもう一機、MAを乗せることは可能ですか?」
「おい、女王!!」
「待ってイアン・・・スペースの問題なら、可能よ」
スメラギの言葉には頷いた。
「二人は知っての通り、アタシはMAでの戦闘経験があります。
これからのことを考えると、戦える人間は多いほうがいい だから、アタシをMAパイロットとして作戦に参加させて下さい」
「おいっ!!!」
「・・・・・・あなたはそれで、いいの?」
スメラギの言葉に、は微かに苦笑を浮かべた。
「それは、アタシがあなたに聞くべきことです、スメラギさん・・・・・・
あなたの大切な人を撃ったアタシが、あなたの下で戦っていいですか?」
「・・・もう過去のことよ・・・・・・ただ、、教えて頂戴。
あなたは、何故、再び戦おうと思ったのか・・・あなたの、戦う理由を」
「・・・理由が、必要ですか?」
「ええ」
頷いたスメラギに、は微かに笑った。
「・・・戦争を根絶するために、アタシだって何か出来るんじゃないかと思ったから これが、アタシがソレスタルビーイングに加わった理由。
奪ってきた命に意味があるという幻想を見たかったから これが、アタシがソレスタルビーイングに留まった理由。
これ以上、戦いに魅了されるアタシを見たくなかったから これが、アタシが今まで戦わなかった理由。
そして 引鉄を引けないアタシ自身に、苛立っていることに気付かないフリをすることに疲れたから これが、アタシが戦おうと思った理由。
・・・・・・なんて傲慢。なんて身勝手・・・結局、アタシは最低ってこと、なんでしょうね・・・」
「・・・・・・」
「理由なんて、挙げだしたらキリがない・・・・・・・戦ってるアタシ自身を、恐怖し嫌悪する気持ちもある。
でも、アタシは、アタシに出来ることをやって、トレミーに乗る皆を守りたい そう思った。
・・・・・・アタシは、アタシの出来る限りのことをやって、その一瞬を後悔しないで生きたい、後で恥じたくない そう思ったんです。
アタシが、アタシを誇れないと駄目だと」
「そう・・・・・・」
「はい・・・・・・そうじゃないと、アタシのことを想ってくれる人に、申し訳ないって・・・・・・結局、自己満なんですけど、ね・・・」
そう言って笑ったに、スメラギは溜息を吐いて、表情を険しくした。
「・・・分かったわ、。あなたを、戦わせるわけにはいかない」
「スメラギさん・・・」
スメラギの言葉にが唇を引き結んだ。
もう一度、溜息を吐いて、スメラギが苦笑を浮かべた。
「 そう言おうと思ったけど、最後のは気に入ったわ。
あなたは、あなたの大切な人のために、戦うことを選んだのね・・・・・・」
「・・・・・・スメラギさん・・・!?」
「いいわ、。あなたの思った通りにすればいい」
「ありがとうございます!!」
そう言って、頭を下げたとは対照的に、イアンが額を押さえて呻いた。
「ってことは、どうすんだよ? 今、開発中の新型、女王に操縦させようと思ってたのに・・・」
「新型って、オーライザー? GNアーチャー?」
「どっちにしろ、女王が乗らないんなら、操縦者がいないだろうが・・・」
「・・・・・・アタシじゃぁ活かしきれない、と思うけど・・・?」
「そうよね。せっかくが戦うなら、それを活かした戦術をたてたいところなんだけど・・・?」
とスメラギ、二人に否定され、イアンはさらに肩を落とした。
そんなイアンを見て、が首を傾げた。
「オーライザーやGNアーチャーなら、イアンにだって操縦できるでしょ? ハロと一緒なら」
「な?! 俺に、あれに乗れってのか!!!?」
声を荒げたイアンを放って、スメラギがに問いかけた。
「何とかなるものなの?」
「はい、ハロがいれば、誰でも動かせるはずです。そういうシステムにしましたから」
「そうなの・・・じゃぁ、もしもの時は、イアンにお願いするわ」
「ええ、それで支障ないと思います」
にっこりと微笑みあう女性二人に、イアンは顔を引き攣らせた。
「本気か・・・お前ら・・・・・・」
女性二人は、ただにっこりと微笑んだ。
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