【カタロンが調達してくれた補給物資のおかげで、外壁部の補修はまもなく終わる】
  イアンの報告を聞きながら、ラッセは笑みを浮かべた。

  「敵が来る前に、どうにかなりそうだな」
  この谷を抜ければ、目の前に海が広がる。
  おそらく、そこにアロウズが待ち構えている、というのが、戦術予報士の予測だ。

  【だが、潜水モードはまだ無理だ。火気管制システムも全回復には程遠い】
  付け加えられるイアンの判断に、スメラギは表情を厳しくした。





















  トレミーに警報音が鳴り響いた。
  「敵モビルスーツ隊、本艦に向けて接近中です! 粒子放出量から見て、敵部隊はアロウズと推定!!」
  「フェルト、敵の数は?」
  「敵総数、36機!!」
  フェルトの報告に、思わずスメラギは息を呑んだ。

  「36機だと?!」
  ラッセも驚きの声を上げた。

  「新型のMAもいるようです」
  フェルトの報告の声も硬い。

  「・・・総力戦で来ましたね・・・」
  「みたいね・・・・・・」
  アニューの呟きに、スメラギは表情を引き締めて頷いた。
  刹那とも合流出来ていない今、厳しい戦いを強いられることは間違いないだろう。
  だが、逃げることは許されない。
  何故なら、自分たちはソレスタルビーイングなのだから      .

  「ガンダム、順次発進!トレミーは、山脈を盾にして退避を」
  これから始まる戦いを思い、スメラギは拳を握り締めた。











  「ガンダム、突破されたです!!」
  「敵部隊接近!! 射程距離まで、0034です!!!」
  さっきからずっと鳴り響いている警報音の中で、フェルトが叫んだ。

  「武装が使えねぇ!!」
  ラッセも警報音に負けないように、悔しげに怒鳴った。

  「残っているのは、GNアーチャーと、さんのMAだけです!!」
  ミレイナも叫ぶ。

  ぐっと唇を噛み締めたスメラギの手元で、船内回線が開いた。

  【スメラギさん! アタシが出ます!!】
  「さん?! 休んでたんじゃ?!!」
  パイロットスーツを着込んだの姿に、フェルトが悲鳴を上げた。

  【出撃許可を!!】
  「無理だ!! 病み上がりだろ?! 駄目だ、!!!」
  ラッセも声を張り上げた。

  【無理でも何でも今出ないで、どうするの!!!】

  「・・・大丈夫なのね、?」
  スメラギは、と、じっと視線を合わせた。

  「止めても聞かないんでしょ?」
  (マリーを再び戦わせるわけにもいかない・・・に出撃してもらうしかない・・・・・・)

  「お願いするわ、
  【了解。ありがと、スメラギさん。期待には応えるから】
  頼もしい笑みを浮かべて回線が切れた。


  ラッセも、溜息を吐いて再び前を向いた。フェルトとミレイナも、の発進準備に入っている。
  (・・・ここで、やられるわけにはいかない・・・・・・)
  ぎゅっと眉を寄せたスメラギに、マリーが並んだ。

  「私に、行かせてください」
  「?!! でも!!!!!!?」
  スメラギが顔を上げた時には、すでにマリーは格納庫に向けて走り出していた。

  止めなければならない。アレルヤとの約束を守るためには      .
  けれど、スメラギはそれ以上制止の言葉を口に出来なかった。
  (・・・・・・ここで、やられるわけにはいかない・・・・・・)
  スメラギは現実と約束の狭間で揺れていた。


  の発進準備を進めていたフェルトが何かに気付いた。
  「スメラギさん! 敵部隊の動きに変化が!!」
  「何?」
  「粒子ビームによる攻撃が止みました・・・敵部隊、全機反転して、現空域より撤退していきます・・・・・・」
  報告するフェルトも、アロウズの真意が掴めずに戸惑っている。

  それはスメラギも同じだった。
  アロウズは、ソレスタルビーイングを葬り去る決定的な機会を自ら放棄したのだ。
  このまま攻撃を続ければ、アロウズは遠からず勝利を収められたはずなのに      .

  ワケが分からず、スメラギは呆然と撤退していくアロウズを見つめていた。





















  「何?! 敵が撤退していく?!!」
  ブリッジからの報告に、ワケが分からないと声を荒げるイアンに、格納庫に駆け込んできたマリーは足を止めた。

  「撤退?」
  聞こえた言葉が信じられなかった。

  立ち尽くすマリーの隣へ、MAのコックピットから飛び降りたが並んだ。
  ヘルメットを脱ぎ捨てて、が乱れた髪をかき上げて尋ねた。

  「どう思う?」
  「分かりません、いったい、何が・・・・・・」
  「アロウズにソレスタルビーイングを本気で潰す気がないのか、それとも・・・・・・」
  「それとも、なんだ?」
  意味深に切られた言葉に、イアンが鋭い視線を向けた。

  「アロウズが、撤退しなければならないほどの、何かが起こったか・・・・・・」
  じっと何かを睨み付けるような瞳で、が呟いた。

  「これは不測の事態・・・いいえ、違う・・・・・・多分、酷いことになる。酷いことになるわ・・・」
  「・・・・・・女王、何か知ってるのか?」
  イアンの問い掛けに、は静かに首を振った。
















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