「疲労だと思います。少し休んだ方が・・・・・・」
  「休んでる暇なんて・・・!」
  アニューの言葉に、医務室のベッドに体を起こして、が異を唱えた。
  「トレミーは満身創痍、やるべきことは山積み。人手は必要でしょ!?」
  「そうですけど・・・・・・」
  困ったアニューがラッセに援けを求めるように視線を投げかけている。

  苛々した様子で、がベッドから足を下ろした。
  「どうってことない。ただの寝不足だから、病人扱いしないで!」
  の言葉に、ラッセは呆れた苦笑を漏らした。


  「寝不足なら、ちゃんと寝て治してください」
  ラッセに代わって、フェルトがの肩を押さえた。
  真剣なフェルトの瞳に、がたじろぐ。

  「こんな短期間に、疑似GNドライブ付きのMAを準備して、アロウズの情報から衛星兵器の設計図まで手に入れるほど働いたんですから、少しぐらい寝てもらっても大丈夫です。今は外装の修理を優先しますから、さんは休んでください! 寝不足で倒れるなんて、さんは自己管理が出来てないんです!! 年上なら、自分の体調くらい把握して、倒れる前に休んでください!!!」
  フェルトに、はっきりと言われて、が不貞腐れたように唇を曲げた。

  真剣な瞳で見つめるフェルトに根負けしたようで、渋々といった様子で頷いた。
  「・・・分かった。フェルトがそこまで言うなら・・・・・・3時間だけ、ここで休む。それでいいでしょ?」
  「最低12時間は休んでください。アニューさん、行きましょう」

  フェルトがアニューを促して出て行き、医務室には納得いかない表情のと、苦笑を浮かべたままのラッセが残された。

  ラッセはの横に腰を下ろした。
  休めと言われた肝心のは不貞腐れた表情でベッドに腰掛けたまま、眠るつもりがないようだ。
  しばらくそんなを眺めていたラッセが、徐に口を開いた。

  「・・・・・・教えてくれないか・・・どうして、あんなことを?」
  主語を省略したラッセの言葉だったが、それで伝わったらしく、が、ちらりと視線を向けた。
  「知りたい? 別に理由なんてない・・・」
  「このままだと、俺は沙慈・クロスロードに対して妬くことになる・・・・・・それは、違うんだろ?」
  「そうね。それは違うね・・・・・・」
  そう呟いて、は長かった時の癖で髪をかき上げた。短く切ってしまったことに気付いて、手持ち無沙汰にその手を下ろすと、考え込むように肘をついた。

  「そうだなぁ・・・どう話せばいいのか・・・・・・」
  遠い目をして虚空を眺めて、は僅かに自嘲のような笑みを唇に浮かべて言った。

  「      アタシは、彼に過去のアタシを見てる」

  「・・・・・・似てるのか?」
  「うん・・・そう思う」
  答えて、はラッセに顔を向けた。

  「・・・アタシは、戦うことを選んで       結果、アタシは後戻り出来なくなった。人として生きていくための、大切な何かが欠けてしまった・・・」
  「・・・・・・・・・」

  「似ている       けど、同じじゃないことは理解してるつもり。
   沙慈・クロスロードが、アタシと同じになると決まってないことも分かってるつもり。
   だって、歳が違う、状況も違う。何より別人だし・・・・・・それでも・・・」

  言葉を切ったに、ラッセがそっと尋ねる。

  「後悔してるのか?」

  は寂しげに微笑んで答えた。
  「そうかも。そうなんだろうなぁ・・・・・・アタシはきっと、彼のことを考えてるんじゃなくて・・・本当は、アタシが戦わせたくないのは、きっと、過去のアタシなんだろうなぁ・・・」
  「過去の、か・・・今の、じゃなくてか?」
  その言葉に、は真っ直ぐに視線をラッセに向けて、優しく笑った。

  「うん。今は違う。今は、アタシの意思で戦うことを選んだから。大切にしたいものが何か、今は分かってるから      

  「なら、欠けてなんかないさ」
  ラッセの言葉に、が首を傾げた。

  「何も欠けてなんかないぜ、は」
  「ラッセ・・・」
  笑って伝えたラッセの言葉に、が目を見開いた。

  「だから、安心しろよ、な?」
  「・・・ありがと」
  微笑んだにラッセも笑みを返した。
  泣きそうな、嬉しそうな、そんなに、ラッセも満たされた気がした。


  「お帰り、・・・・・・・・・なぁ、抱きしめていいか?」
  「なっ?!!!」
  焦るに、ラッセはもう一度尋ねた。

  「抱きしめちまいたいんだ」
  「・・・・・・アタシに断るわけ? ・・・・・・・・・物凄く、答え辛いんだけど・・・」
  顔を真っ赤に染めて呟くを、ラッセは笑って抱き寄せた。

  大人しくラッセの腕の中に納まったの、これが問いの返答だと言わんばかりの態度に、嬉しさが溢れてくる。
  抱きしめたの腕が、そっとラッセの背に回される。
  それだけで、幸せを感じられた。
  ほんの少しの不在だったはずなのに、腕の中のぬくもりが、随分懐かしい気がした。
  想った時に触れられる、それがどんなに幸せか。
  (      絶対に、離さない)
  その誓いを込めて、ラッセはに口づけた。
















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