「冗談じゃない!僕は、お前らとは違うんだ!! 一緒にすんな!!!!!」

  肩を怒らせ、唇を噛み締めた、沙慈・クロスロードが出て行ってから、刹那はようやく体を起こした。
  拳で殴られた。
  避けようと思えば避けられたが、刹那はそうしようとは思わなかった。

  「・・・・・・趣味が悪いな」

  刹那の言葉に、ロックオンが姿を現した。
  「聞こえちまったんだよ・・・それに、たまにはする側にもなってみたかったもんでな」
  悪びれることなく、ロックオンは悪戯な笑みを浮かべて肩を竦めた。

  「しっかし、あんたは不器用だな」
  「何?」
  「あの坊やに、はっきり言ってやったらいいじゃないか?」
  ようやく立ち上がった刹那に対して、ロックオンは呆れたように笑った。

  「戦闘は俺が引き受ける。お前は説得でも何でもして、彼女をアロウズから取り戻せってな」

  「上手くいくとは限らない」
  「だーが、やる気満々だぁ」
  視線を外した刹那に、ロックオンは挑発的な笑みを浮かべて指摘した。

  ロックオンは、ふっと表情を引き締めた。
  沈黙の中、静かに問いかける。

  「・・・・・・過去の罪滅ぼしかい?」
  「過去じゃない。未来のためだ」

  はっきりと宣言した刹那に、ロックオンは満足気に笑みを浮かべた。





















  沙慈・クロスロードによって届けられたオーライザー。それによってダブルオーガンダムは、ダブルオーライザーとなった。
  その活躍により、ソレスタルビーイングは辛くもアロウズの波状攻撃を切り抜けることが出来た。

  (ダブルオーライザー、これほどの性能があったなんて・・・)
  スメラギは、ブリッジで表情を険しくした。
  予想以上だった。

  カティ・マネキンの立てた戦術は完璧だった。
  スメラギの戦術では、どうやっても犠牲を出さずに切り抜けることは不可能だった。
  波状攻撃による消耗戦を強いられて、ソレスタルビーイングは大きな痛手を受けるはずだった。

  (助けられたわね・・・・・・)

  先ほど、アレルヤから輸送艇を安全圏まで護送したとの報告が入った。
  ミレイナの母の無事も伝わり、ブリッジは安堵に包まれた。

  医務室へ向わせたアニューからも、イアンの容態について報告が入った。
  10日ほど要するが、命には別状はないということだった。再びブリッジに安堵の息が漏れる。

  「気を抜かないで。私たちの今の目的は、衛星兵器の破壊よ」
  緩みそうになったブリッジの空気を、スメラギはそう言って引き締めさせた。
  (・・・・・・そうよ。すべてが解決したわけじゃない・・・!)
  衛星兵器のことも気がかりだったが、もう一つの報告もスメラギの心を重たくさせていた。

  沙慈・クロスロードのことだ。
  あの場合、仕方なかったとはいえ、彼を敵の真っ只中へ送り出した。
  そしてその結果、彼は今、自室に閉じこもってしまっている。
  どうやら、敵であるアロウズの中に縁のあった人物を見つけてしまったらしい。
  ダブルオーライザーが発する粒子の影響なのか、同じ宙域で戦っている人間の声が、意思が互いに聴こえるという不可思議な状況の中で、沙慈・クロスロードはずっと想っていた人と再会してしまったようだ。
  結果、沙慈・クロスロードを酷く苦しめることになってしまった。

  (・・・・・・は、どうして、沙慈・クロスロードが戦うことを、あれほど嫌がっていたのかしら・・・・・・)
  AEUにいた頃のなら、沙慈のことなんて気にもかけなかっただろう。
  あれから時も経ち、雰囲気も柔らかく変わった彼女だが、スメラギには、が沙慈を戦いに参加させることに、あれほどの拒否反応を示す理由が分からなかった。

  スメラギは、溜息を吐いた。
  (本人がいないんじゃ、確かめようもないわね・・・・・・それよりも      

  「トレミーとガンダムの補修を急ぎましょう。あんなもの、存在をソレスタルビーイングが、許しておいてはいけないわ」
  宇宙を睨みつけて、スメラギは呟いた。





















  着信を告げた端末に、ラッセは立ち止まった。

  「・・・・・・」
  ふっとラッセの口元が綻んだ。

  忙しかったのか、今回の返信は随分と間が空いたように思えた。
  それとも、ラッセ自身が、の返信を心待ちにし過ぎているせいなのか、随分待たされたような気がした。


        戻ったら、もう二度と離れない。早く、会いたい      .


  (これは・・・・・・・・・何だか、豪く、積極的な・・・・・・・・・?)

  慌てて周囲に人影がないのを確認して、ラッセはもう一度メッセージに目を落とした。
  ラッセの目の錯覚や、願望が具現化したわけでもなく、悪戯メッセージでもなく、間違いでもないとしたら・・・・・・

  「・・・・・・まったく、驚かされてばかりだ・・・」

  素早く短いメッセージを送信する。


  ラッセは短く息を吐いて、表情を引き締めた。
  (必ず。必ず、戦い抜いて、と再会する・・・!)
  ラッセは決意を新にした。





















  「フェルト、王留美と連絡はとれた?」
  「・・・・・・いえ、応答ありません」
  首を振ったフェルトに、スメラギは溜息を吐いた。
  「衛星兵器の情報が欲しいところなのに・・・・・・」
  スメラギの言葉が終わらないうちに、フェルトの手元で着信を示す表示が出た。

  「スメラギさん! さんから、暗号通信です!!」
  「開いて」
  表示された図面に、ブリッジのメンバー全員が息を呑んだ。

  「これは・・・・・・?!」
  「衛星兵器の図面?!! 内部構造まで・・・・・・」
  「さん、凄すぎです・・・・・・」
  「・・・やるわね、・・・・・・」
  感嘆の息を吐いて、スメラギは表情を緩めた。

  「本当、このタイミングで送ってくるなんて・・・さすがね」

  呆然と図面を見つめていたアニューも、賞賛の言葉を口にする。
  「凄い人ですね・・・・・・内部構造なんて、軍の内部・・・いいえ、かなり上の人間じゃないと、手に入るはずないものなのに・・・」
  「それをやってのけるのが、なんだよ」
  にやりと嬉しそうに笑って、ラッセがアニューに声をかけた。
  「・・・ソレスタルビーイングって、本当に、凄いんですね・・・・・・」


  「      ス、スメラギさん!! 大変です!!!」
  からの通信に目を走らせていたフェルトが、驚きに声を上げた。

  「え、衛星兵器が第二射を地上に放ちました!」
  「何だって!!!?」
  ラッセも驚き、振り返った。スメラギも、息を呑んでいる。

  「観測システムも異常な熱源跡を感知しています・・・・・・さんからの報告によると、狙われたのはリチエラ王国の軍事基地! 隣接する100万人規模の難民キャンプも、巻き込まれた・・・と」
  悲痛な声でフェルトが告げた内容に、スメラギは拳を握り締めた。

  「ぐずぐずしてられないわ! スメラギより、総員に通達。トレミーの外装部の補修作業が終了次第、トランザムで最大加速。オービタルリング上にある、敵衛星兵器に攻撃を開始します。ガンダムの補修は加速コンポーチ時にも続行。みんな、頼むわね!」
  頷いて、フェルトがモニターに向き直った。

  「ケルディム、アリオス、セラヴィーの各太陽炉、トレミー動力部への直接接続が完了しました」
  スメラギは、表情を引き締めた。

  「トランザム、開始! トレミー最大出力!!」
  「了解」
  スメラギの指示にアニューが答えて、トレミーは衛星兵器・メメントモリ破壊ミッションに向けて発進した。
















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