【連邦の巡洋艦が、ラグランジュ4に向けて航行を開始です】
通信モニターから、ミレイナの明るい声が響く。
【王留美の報告通りだ。もしかしたら 】
「セラヴィーを出す」
一瞬息を呑み、それからイアンは、にやりと笑みを浮かべた。
【了解だ】
「彼は来る。生きているなら、必ず・・・・・・」
ティエリア・アーデは確信を込めて呟いた。
「アーデさんがエクシアを発見です!!」
「刹那・・・・・・やっぱりプラウドを・・・・・・」
「王さんの情報すごいですぅ〜」
感慨深気に呟いたフェルトの後ろで、ミレイナが両手を挙げて喜んでいる。
ミレイナの無邪気な様子にふっと笑みを浮かべて、それからフェルトは視線を操縦席へ向けた。
「彼、きっと驚きますよ、ラッセさんに会ったら」
「そうだろうな」
楽しみだと言わんばかりに笑みを浮かべて、ラッセは操縦桿を握る手に力を込めた。
「・・・・・・・・・後、任せるわ」
ラッセの隣 4年前まではリヒティが座っていた操縦席 にいたが息を吐いて、腰をあげた。
「 」
「何?」
"笑顔"でが振り返る。
「・・・・・・・・・いや、何でもない」
「そう? それじゃぁ、アタシ、イアンのところにいるから」
そう言うと、"笑顔"を浮かべたまま、はブリッジから出て行った。
扉が完全に閉まってから、ラッセは思わず溜息を吐いた。
「ラッセさん、さんと喧嘩でもされたんですか?」
「喧嘩ってわけではないんだが・・・・・・」
フェルトの問いに、言葉を濁した。
実際、喧嘩をしたわけではない。が、何故かの機嫌が悪い。
何だか、障壁のようなものが、突如彼女との間に発生したような気がする。
今も、"笑顔"を浮かべているのだが、その目が、の目が、無表情なのだ。それこそ、冷酷な氷を思わせるくらいに。
思いつく原因 のあの態度が始まったのは、ラッセが不用意に口説いた、というか自分の気持ちを伝えてからだ。
(・・・これは、まあ・・・・・・フラレたってことなんだろうなぁ・・・・・・)
自嘲の笑みを浮かべる。
あれから、はラッセの部屋を訪れていない。
いつの間にか日課になりつつあった晩酌も、途絶えてしまった。
(・・・・・・仕方ない、か。こればっかりは、な・・・・・・・・・)
フッた相手と今まで通り、というわけにはいかないだろう。
それに、ソレスタルビーイングの活動が本格的に再開されれば、自然とそんな余裕もなくなる。だから、そうなる前にもう少し、あの居心地の良い時間を味わっていたかったのだが .
(・・・・・・やっぱり、あのタイミングで言うべき言葉じゃなかった、な・・・・・・)
今も隣で、トレミーを操舵するラッセの補佐と、開発に携わったセラヴィーガンダムの実戦データ解析と、4年ぶりの刹那の戦闘データの分析をしていたのだが、本当に必要最低限のやり取りしかしなかった。
やるべきことが多すぎてそんな余裕がなかった、ということがに当てはまるわけがなく、これは本当に嫌われてしまったと考えた方がいいのだろう。
耳まで真っ赤にして駆け去っていったに、脈ありかとガラにもなく密かに喜んだ自分が馬鹿みたいに思えて、ラッセはもう一度溜息を吐いた。
(・・・・・・いい加減、俺も諦めが悪いな・・・)
「パパが言ってたです。アイオンさんはさんを怒らせる才能がある、って」
苦笑を浮かべていたラッセに、ミレイナの一言が、ぐさりと音を立てて突き刺さったような気がした。
「生きていたか、刹那。これでエクシアの太陽炉が試せる!」
「楽しそうね、イアン」
「お前だって、楽しみだろ?」
イアンの言葉に、はただ肩を竦めてみせた。
そんな彼女に、イアンは、にやりと笑う。
「楽しみじゃないわけがないな? なんたって、ダブルオーのシステムは、女王のスペシャルだからな」
「・・・・・・苦心したってのは、否定しないけどね」
苦々しげに言うに、イアンが不思議そうに尋ねる。
「何だ? お前さんは、何がそんなに気になってるんだ?」
イアンの言葉に、は溜息を吐いて、ダブルオーを見上げた。
「・・・・・・偉そうなこと言って飛び出したくせに、アタシは結局、戦うための道具を作ってんのかと思うと・・・溜息も吐きたくなるわよ」
絶句したイアンに、は再度、今度は幾分わざとらしく肩を竦めた。
「ま、世界が平和になるために、出来ることはやらなきゃならんでしょ?」
は持っていたディスクをイアンに手渡した。
「セラヴィーは今のところ問題なし。刹那・F・セイエイに関しては、過去の戦闘データとの差異を上書きして、そのディスクに入れておいたから、インストールは任せる」
「おい、俺にやらせる気かよ?!」
受け取ったディスクを返そうとするイアンをさらりとかわして、は手を振った。
「ヨロシク。アタシは、アタシに出来ることをやらなきゃならんのよ・・・・・・」
皮肉気に唇をつりあげて、はイアンから逃げるように格納庫を後にした。
「 ガンダム、ダブルオーガンダム・・・・・・」
ソレスタルビーイングの真新しい制服に身を包んだ刹那が、ダブルオーガンダムを見上げていた。
(これが、俺の新しい、ガンダム・・・・・・)
「そう、あなたのガンダムよ、刹那・F・セイエイ」
まるで心を読まれたかのようなタイミングでかけられた声に背後を振りかえれば、淡い金髪の女性がいた。
身につけているのは刹那と同じ制服 初めて見る顔だが、その制服からソレスタルビーイングの人間と判断した。
刹那が素性を尋ねる前に、女性が口を開いた。
「初めまして、・です。刹那・F・セイエイよね?」
「・・・ああ。そうだ」
と名乗った女性は、にっこりと笑みを浮かべた。
刹那は、僅かに眉を寄せた。
「あんたは・・・何だ?」
「ダブルオーのシステム開発に、少々係わったわ。後、操艦の補助とかもやってる」
刹那の質問に気を悪くするでもなく、笑みを浮かべたままは刹那に近づいた。
「実はね、刹那・・・あなたに提案があるんだけど?」
「俺に? ・・・・・・何だ?」
はっきりと、訝しむように眉を寄せた刹那に、はもう一度にっこりと微笑み、一枚のディスクを差し出した。
「・・・・・・これは?」
ディスクを受け取りながら、刹那は至近距離にあるの笑顔を見て、自分が彼女を訝しんだ理由に気がついた。
(・・・・・・目だ。この女、笑ってない・・・・・・・・・)
は綺麗な笑顔を浮かべたまま、刹那にだけ聞き取れるように声を潜めた。
「今のソレスタルビーイングが人手不足なのは気付いてるわよね? ・・・特に、この船に乗って共に戦う人間が」
今トレミーに乗っているのは、目の前にいると本当は砲撃士のラッセ・アイオン、メカニックのイアン・ヴァステイ、戦況オペレーターのフェルト・グレイスとイアンの娘のミレイナ。
ガンダムマイスターにいたってはティエリア・アーデと刹那の二人だけだ。
平時であってもギリギリの人員なのに、実戦になれば深刻な人手不足になるのは明らかだった。
「必要不可欠なポジションに相応しい人を挙げておいたわ。そのディスクの中に、居場所と連絡方法とが入ってる」
刹那はディスクから顔を上げた。
紫色の瞳がじぃっと刹那を見つめている。
「あなたに、迎えに行ってほしい」
その瞳を刹那は睨み返した。
「・・・どうして俺に?」
すっと笑みを消して、はその瞳に相応しい表情を浮かべた。
「あなたが一番、彼らを迎えに行くのに相応しいと思ったのよ・・・・・・アタシが行くよりは、よっぽど、ね・・・」
最後のセリフを口にしたときには、先ほどまでと同じ微笑を口元にのせて、はこれで言うことは言ったとばかりに刹那から距離を取った。
それでも、刹那を見つめる瞳は変わらない。
「あんたは・・・・・・何だ?」
思わず呟いた刹那に、は、くっきりと笑った。
「アタシは・。それ以上でも以下でもないわ」
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