俺は   風のない世界を往く   翼のない鳥のように

君は   流のない世界に住む   浮かない魚のように

降り積もる時間の中

出口を求めながら   俺たちは   もがき続けている











  「あれぇ? 茶度も今日のお昼、コンビニなん?」
  「む・・・・・・・・・」

  突然声をかけるのが得意技なんじゃないかと疑いたくなるタイミングだ。
  カップラーメンとおにぎり二つ、惣菜パンに手を伸ばした瞬間に声をかけられた。
  それまで、彼女が店内にいることに、またしても俺は全く気付いていなかった。

  「僕も。今日はコンビニ飯なんよ」
  が笑って、自分の財布を示す。

  いつぞやとは違って、今日のは学校の制服姿だ。
  それでもに気付けなかったことに、小さなショックを受ける。

  「茶度、そんだけで、足りるん?」
  そんな俺に笑いかけて、が俺の手にカツサンドを押し付ける。
  「茶度は、体、大きいんやから、もっと食べなあかんって」
  そう言いながら、自分はサラダとおにぎりを一つだけ持って、スカートを翻してレジへと並ぼうとしている。

  「・・・こそ、それだけで足りるのか?」
  「僕はダイエット中。こんぐらいにしとかんと」
  肩を竦めるの後ろに並んで尋ねれば、そう返された。
  そんな必要ないだろう、とか。それでは身長も伸びないぞ、とか。
  いろいろ思いはしたが、結局
  「・・・・・・そうか」としか言えなかった。
  「そうなんよ」
  軽く返事をして、がレジに商品を置く。
  その目が、レジの横の平台に吸い寄せられて、止まった。


  「      303円になります」
  「・・・あ。はい・・・」
  慌てて小銭を出したの手に、商品とお釣りが押し付けられ、すぐに俺のレジが流れ作業のように始まり、終了した。


  「・・・?」

  黙ったままのと並んでコンビニを出て       数歩進んだところで、が頭を抱えて叫んだ。

  「バレンタインだったー!!!!!!」


  叫んだ勢いそのまま、がバッと振り返った。

  「昨日、バレンタインだったん?!! なぁ、そうなん?!!!」

  「あぁ。そうだが・・・」
  「忘れてたぁ!!!!!」
  叫ぶに、俺は苦笑を浮かべた。

  レジの横にあったのは、割引札の貼られたバレンタイン用のチョコレートギフトだった。
  綺麗にラッピングされたチョコレートはXデーまでは付加価値を持って売られているが、14日を過ぎてしまえば、売れ残ったそれらはただの高いチョコレートに過ぎない。
  どうやら、はその売れ残りのチョコレートを見て、昨日が2月14日だったと気付いたらしい。つまり、バレンタインだった、と。

  「なぁ、何で?! 何で、教えてくれんかったん?!! 茶度、昨日がバレンタインだって、分かっとったんやろ?!」
  「む・・・・・・」
  の言葉に、俺は視線を泳がせた。

  まさか、昨日一日、からチョコレートが貰えやしないかとそわそわしていた、なんて言えるわけがない。
  まさか、自分からチョコレートを催促し「何であげなきゃらなんの?」なんて言われて、自爆なんかしたいはずがない。
  まさか、「今日はバレンタインだ」などと、まるでチョコレートを強請る浅野のような真似なんて出来るはずがない。

  「あ〜!!! イベントに乗り遅れた!!!」
  叫ぶに、安堵の苦笑を浮かべる。

  昨日、からチョコレートを貰えなかったことに気落ちしていたなんて、言えるわけがないが       貰えると期待していたわけでは、断じてないのだが、それでも少々寂しい気がしていたのだ。
  自分が貰えずに、他の誰かがからチョコレートを贈られてでもしていたら・・・・・・想像するだけで、気分が滅入った。
  それが全部杞憂だったと分かれば、貰えなかったことは残念だが、仕方がないと納得も出来る。


  「・・・終ったものは仕方がない」
  俺の言葉に、残念そうにが溜息を吐く。
  「・・・茶度にあげたかったんに・・・・・・」
  「?!」
  その言葉だけで充分だ、と言えれば良かったのだが、生憎俺の言語能力は貧弱で、上手く伝えられそうにない。

  「・・・1、2、・・・7円と、10円玉2枚・・・・・・チロルチョコって幾らや・・・?」
  黙ったままの俺の隣で、が自分の財布を覗き込み、何やらブツブツと呟いている。
  「・・・?」
  「・・・・・・キャベツが半分と、ジャガイモ3個・・・バイトの給料日が明後日・・・問題は明日の昼飯・・・・・・」
  「・・・・・・・・・・・・次でいい」
  「へ?」
  顔を上げたに、俺は出来るだけぶっきらぼうな言い方にならないように気をつけて、拙い言葉を紡ぐ。

  「来年、楽しみにしている・・・それで、いい」

  「来年・・・・・・」
  「ああ」
  頷いた俺に、伝わったらしく、が微笑んで頷いた。

  「分かった。じゃぁ、来年こそは!」
  「あぁ・・・楽しみにしている」
  「うん! 楽しみにしとき!!」
  満面の笑みのに、俺も笑い返した。











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