「「バレンタイン?!」」

  「ええ。そういう風習のあるところがあるんですって」

  本を片手に微笑むロビンに、ナミとは揃って驚きの声を上げた。

  の「最近のサンジくん、妙じゃない? ちょっと、優しすぎるというか・・・」という問いに、
  「サンジが変なのはいつものことでしょ?」とナミが答えたのだが、納得いかない様子の
  ロビンが女性が男性に愛を込めてチョコレートを贈るバレンタインという風習があることを披露したのだ。

  ロビンの博識ぶりに感心するに、しかし今度はナミが首を捻った。

  「ロビンが、そのバレンタイン?っていうのを知ってるのは納得出来るけど、サンジがどうしてそんなこと知ってるのかしら?」
  「さぁ・・・でも、彼が知っているのは確実ね。そうじゃなきゃ、わざわざ明日のおやつをチョコレートにしないでしょうし、今から張り切って準備してることも納得出来るわ。それに・・・・・・」

  「・・・チョコレートは大好物です、って吹聴してた・・・」

  「期待しているんだと思うわよ、彼」
  ロビンが楽しそうにふふふっと笑う。

  「愛じゃなくて、日ごろの感謝の気持ちを伝えて贈る場合もあるそうよ。それどころか、好きでもない相手に義理であげることもあるみたいだから」
  「えぇ〜?! どうして理由もないのに、あげなきゃいけないわけ?! 私はあげないわよ」
  呆れたようなナミの言葉に、ロビンが悪戯っぽく笑う。

  「・・・でもね、バレンタインに貰った贈り物のお礼は、3倍返しが基本だそうよ。込められているのが愛でも義理でも関係なく、ね」

  「お礼!!? 3倍返し?!!!」

  途端にナミの目がキラリと光った。
  ルフィ、ウソップ、ゾロ、サンジ、チョッパー、とナミは男性陣の頭数を数えだす。

  「ロビンは? 何か準備してるの?」
  の問いに、ロビンは謎めいた笑みを浮かべたのだった。





  (・・・あれは、間違いなく何か準備してるわね・・・)

  砂浜をぶらりぶらりと歩きながら、は溜息を落とした。
  こんな無人島の砂浜を歩いても無駄なことも分かっていたが、じっとしていることが出来なかった。

  「チョコレートか・・・・・・」

  呟いてみる。

  「チョコレート・・・・・・・」

  思わず溜息が漏れた。

  「チョコレートは・・・・・・」
  「チョコレートがどうかしたのか?」
  「うわっ!? ゾロ?!!」

  突然かけられた声に、は飛び上がった。

  「び、びっくりした・・・・・・」
  バクバクと暴れる胸を押さえるに、ゾロがにやりと笑う。

  「珍しいな。お前が声をかけられるまで、人の気配に気付かないなんて」
  「それは・・・こんなとこにゾロがいるとは思ってないもの。何してるの?」
  「散歩だ。海岸を歩いていた」
  「それで、どうして、森から出てくるの?」
  「さぁ? 俺に聞くな」

  首を傾げるゾロに、が諦めたように笑った。






  振り返れば、入り江の向こうにゴーイングメリー号が停泊しているのが見える。
  それを目標に、二人で並んで船への道を引き返す。

  「・・・それで、チョコレートがどうしたんだ?」
  「ん〜、いや、別にどうもしないよ」

  長い髪を風に靡かせながら、困ったようにが笑う。


  「ゾロは、チョコレート好き?」
  「そうだな・・・あれは甘いからな。ルフィじゃないが、俺は肉の方が好きだな」
  「だよね」

  「面倒だしな」

  「え?」
  「人からチョコレートを貰ったら、必ず謝礼が必要になるだろ。あれが面倒だ。
   恩を返すのは当然だが、それを権利として振りかざすのは、どうかと思う」

  「それ・・・・・・バレンタイン?」
  「ああ。確か、そういう名前だった気がする。バレタとか、何とか」
  「そっか・・・ゾロも知ってるんだ・・・・・・」

  立ち止まったと一緒に、ゾロも足を止める。

  「チョコレートは面倒だ。嫌な記憶しかないから、嫌いかもな」
  「そうだね・・・・・・」

  ふっとが寂しそうに微笑んだ。


  「もか?」
  「ん?」

  「チョコレートは嫌いか?」

  長い銀の髪を翻して、が再び歩き出す。


  「そうだね・・・・・・好きにはなりたいけど」

  肩を竦めたその背中を追いかけて歩き出しながら、ゾロは僅かに微笑んだ。


  「だったら、問題ないだろう。性格はともかく、あのアホコックの作るもんは旨い」

  ゾロの言葉に、驚いたようにが振り返った。
  何故だが急に気恥ずかしくなって、その隣を追い越す。


  「それに       皆で食えば、楽しい記憶しか残らないと思うぞ」


  背中に感じていたの気配が、笑ったような気がした。











Photo by clef

ブラウザバックでお願いします。