「ちょっと待って!! 今日ってクリスマスじゃない?!!」
  の突然の叫び声に、ラッセは思わず隣を振り返った。操縦席に座るは、ラッセ以上に驚愕した表情を浮かべていた。
  「ねぇ、そうでしょ?! クリスマスだよね?!!」
  「あ、あぁ。そうだが・・・・・・」
  「え〜〜〜!!! 嘘でしょ〜!!!!!」
  思いっきりショックを受けた様子でが頭を抱えた。

  「何か、問題が・・・?」
  「大有り!!!」
  バンッ!と肘掛を叩いてがラッセに視線を向けた。
  「クリスマスパーティ!! 何も準備してないし、何も企画してない!!」
  「まぁ、そうだが・・・・・・」
  「何で誰も言わないのよぉ!! ミレイナあたり、大騒ぎしそうなはずなのに!!!」
  「ミレイナは、前々から家族で過ごす予定になってたからな」
  「もぉ〜!!! 最悪!!!」
  モニタの隅の表示を確認して、が再び突っ伏した。
  「しかも、もう残り僅かしかないじゃない!!」
  モニタの隅の標準時刻が、今25日の23時47分に調度変わった。
  「ありえない!! アタシ、クリスマスになにやってんの!!?」

  とうとうキレたに、ラッセは苦笑を浮かべた。
  「仕方ないだろ? 物資の受け取りにラグランジュ5まで行ってたんだからな」
  「そうよ! わざわざラグランジュ5まで!! しかも、空調が壊れるってどういうことよ!!?」
  冷え切った艦内の空気に、の叫びが白く溶けた。

  「運が良かったと思うしかねぇだろう。壊れたのが酸素供給機器じゃなかったことを、な」
  「冗談じゃない!! 寒くて仕方ないじゃない!! 締め切った操縦室でも、全然暖まらないなんて!!!」
  ぶるっと震えて、が寒さを確認するように、はぁっと白い息を吐いた。そんなことしてみせなくても、先ほどからの口元で白い息が揺れていたし、ラッセ自身も充分冷気を感じている。

  「あぁ、もう・・・他に誰かいたら、ここを預けて直しに行くのに・・・」
  の言葉に、ラッセは苦笑を浮かべるしかない。
  今この輸送艦に乗っているのはラッセとと、受け取った物資だけだ。
  通常ならラッセ一人で操縦幹を握っても充分操行させられるのだが、計器類の調子が頗る悪い。システムが引切り無しに異常を訴えてきて、はずっとそれに手を取られている。
  従って、二人とも操縦席を離れられない状況で、空調機械の不調を直しにいくことも叶わず。結果、寒い操縦席で震えながらトレミーへの帰還を急いでいる現状だ。

  「後、もう少しの辛抱だ。もう1時間もすれば、合流ポイントだからな」
  「あぁあ・・・その頃には、クリスマス終っちゃってるし・・・」
  の溜息すら白い。

  「・・・今年は諦めるしかないだろ。来年、みんなでパーティでも何でもすればいい」
  「そうだけど・・・なんか、悔しいなぁ・・・」
  諦め悪くが口を尖らせた。
  「だからって、どうしようもないだろ?」
  「まぁ、こんなふうに寒さに震えて過ごしたクリスマス、ってのも忘れられない思い出だろうけど・・・」
  「だったら、それでいいじゃねぇか?」
  「イヤ。それだけじゃ足りない」
  不貞腐れたようなの声に、苦笑を浮かべながら、ラッセは言葉を紡ごうとした。
  「だが       ?!」
  いきなり視界に割り込んだの顔が近付いて、ラッセの唇と重なり合った。
  冷え切っていた唇に触れたの唇は、随分と熱を帯びているような気がした。離れていく温もりを随分と寂しく感じた。

  「メリークリスマス・・・・・・間に合ったよね?」
  ラッセが返事をする前に、再びシステムが不調を訴える警告音を発した。
  「はいはい。どうせまた、構って欲しくて鳴ってるんでしょ?」
  呆れた呟きを発しながら、が再び席に腰を落ち着けてキーを操作し始めた。

  「俺にとっちゃ、充分すぎるけどな・・・・・・」
  呟いて、ラッセは自分の吐き出した息を追うフリをして、染まった頬を隠すようにから視線を外したのだった。











消えてく白い息を目で追って











Photo by clef

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